第48話
「さて、それじゃそろそろ仕事になるけど、三人も戻ったばかりなんだし、風呂に入って食事したら? 今日はお休みで良いから」
エリックが唐突に綺麗すぎる笑顔で丸っと私の言葉を無視して言った事に、キャサリンもヒューもアルバートも嬉しそうに肯いた瞬間だった。
頭の中に、突然女性だろう声が鳴り響く。
【緊急です。緊急です。獅子型キメラと虎型キメラが複数、王都近郊に出没。繰り返します。獅子型キメラと虎型キメラが複数、王都近郊に出没】
全員で顔を見合わせ、それからエリックを見る。
「緊急の伝達だね。皆脳内に事態は伝わったでしょ。学生時代にも経験あるから分かるだろうけど、ルナ達は久しぶりだから戸惑うと思うよ。でも大丈夫だから。さて、それじゃ私も伝達しますかね」
そう言って、誰かとエリックは会話しだした。
「複数との事だけど、大体の数は分かるかい?」
ああそうか、個人限定の伝達という魔法なのだ。
脳内だけでも会話出来るのだが、エリックは私達にも分かりやすい様に声に出してくれているらしい。
「どうやらそれぞれ十頭程らしいね。それで王都近郊の海上、と。なら、サツキに天馬を七頭出してもらおう。それから、カイ、トーヤ、シュン、サツキ、キャサリン、ヒュー、アルバートに向かってもらうとしますか。アルバートとヒューの見立てで、ルナがソキウスに出来そうだと判断したら、二、三頭は殺しても良いけど、後は捕縛。捕縛後シビュラ大神殿に連れて来てね。ルナにソキウスにしてもらうから。捕縛は、キャサリン、アルバート、サツキなら出来るでしょ。というかやろうと思えば全員出来るよね。軍には牽制頼んで。これ以上被害が出ない様に、慎重にね。はい、伝令よろしく。それとも私が直接頭に伝えた方が良い?」
唐突に、頭に声が響く。
【緊急時ですので、今の言葉を伝達致します】
この声はオスカーさん、かな。
「はい、よろしく」
伝達する、というのは確か、特別な伝達水晶を使い、任意の人物の脳内に直接言葉を伝える事、だったと思う。
魔力がある存在には伝達可能、だったはず。
高位精霊の力が使える人なら特別な伝達水晶が無くても伝達可能だった、と記憶している。
それに特別な伝達水晶には録音機能も選別能力もあるので、特定の人物にのみ伝える事も可能だったと思う。
これも高位精霊の力が使える人は出来た、はず。
そして伝令は、人を使い、人から命令を伝えるというもので、緊急時以外だと正式なもの、だったと覚えている。
確か獅子型キメラというのは、獅子の頭が一つは付いていて、尻尾が蛇な、所謂前居た世界で想像できるキメラだと思う。
虎型キメラというのは、頭が虎で、尻尾が蛇な、日本的な感性でいえば鵺というのが妥当な存在だったはず。
そうこう私が考えている内に、ヒューが名前を出された皆を連れて行ってしまっていた。
危険は無いのか私は行かなくても良いのかや、皆が心配だとか色々思考が錯綜する。
「ルナ、心配しなくても彼等なら問題ない。それよりも頼みたい事があるんだ」
王都近郊に高位魔獣が現れた事に驚いていたのと、皆の名前が呼ばれた事に頭が一杯で、自分の名前もあったと今更ながら気が付いていた。
「はい。なんでしょう?」
改めてエリックの言葉に耳を傾ける。
「うん、聞いてたと思うけど、獅子型キメラと虎型キメラを連れて来る。そいつ等をソキウスにして」
エリックの軽い調子の言葉にちょっと楽になりつつ復唱。
「ソキウスに、ですね」
エリックは優しい笑顔になる。
「うん、お願い」
それに力強く肯きながら答える。
「分かりました。出来得る限り、やってみます」
エリックは苦笑しつつ私の頭に手を乗せる。
「そういう時は、やります、任せて下さい、位言えると良いね。まあ、ルナの性格だと難しいかもしれないけど、そうも言ってられない時もあるよ。一応大人だしね。色々士気に関わったりする事も出てくるかもしれないし。ルナはもう少し自分の能力の凄さを意識した方が良い」
そのエリックの言葉に……思わず下を向いてしまう。
元々自信はまるでないのだ。
自分にも、自分の能力にも、だ。
だからあれが私に出来る精一杯。
だがそれでも、エリックの言葉の様に言える様に頑張れれば良いなぁ。
そう、今回はソキウスにするのだ。
私が。
高位魔獣だろうと、三つ目石化蜥蜴を始め石化蜥蜴が可能だったのだから大丈夫、だと信じたい。
そう、前居た世界でならば、バジリスクというだろう大型の高位魔獣も可能だったのだと言い聞かせる。
ここにはいつも守ってくれていた瑞貴はいない。
私がしっかりするしかないのだ。
魔獣たちを解放する為には、絶対に必要なこと。
殺して澱みから解放するよりも、ソキウスにする事で澱みから解放したいと思う。
気合を入れなくては……!
「気にしなくてもルナなら大丈夫だよ。ソキウスにする力だけなら私より確実に上だから。おそらくルナなら空位の魔獣だろうとソキウスに出来るよ」
不安が絶えない私を安心させる様にか、エリックは私の髪をくしゃくしゃに掻き回しながら撫でている。
「分かりました。出来る打限り全力を尽くしますから、心配しないで下さい。それと髪がめちゃくちゃになるので止めて下さい」
エリック、途端に不機嫌に。
「何で今、敬語になるかな……私の事、嫌いかい……?」
何故そうなるのか分からず首を傾げるしかない。
「そんな事は無いわ。単に気合を入れようと思ったら自然と敬語になっただけで、深い意味は無いわよ」
私の言葉にエリックは不安顔。
「本当に……?」
そんなエリックに微笑んで答える。
「勿論」
そう答えたら、何故かエリックに抱き上げられて抱きしめられ、窮屈な思いを味わう。
こういう所はなんだか瑞貴に似ていると苦笑が思わず漏れてしまうのを止められなかった。
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