第6話
涼しいとはいえ夏場なのもあり汗を沢山かいたから、お風呂に入ってさっぱりし、足取り軽く一緒にお風呂に入っていた中村先輩と玻璃と一緒に食堂へと向かう。
食堂のテーブルには良い匂いの料理が並んでいた。
私が依頼で外出した時は、いつも私達冒険者組以外の皆が夕飯を作ってテーブルに並べているのが常だ。
宿屋時代からの食堂で皆で食事を取るのが日課となっている。
もう皆席について待っていた。
やっぱり男性陣よりどうしてもお風呂が遅くなってしまい、申し訳ない気持ちが湧いてくる。
中村先輩は、「仕方がなわよ、女は時間がかかるのは呆らめてもらいましょう」と言っていて、そう割り切れるのが凄いなぁと思う。
どうも私には無理そうなのだが、中村先輩曰く「人それぞれでしょう」と言ってくれて、ちょっとホッとしたり。
「ごめんなさい、遅くなって」
そう言って席に着いた。
玻璃は私の足元に丸くなる。
この子は聖獣だから食事は必要ないのだが、飲む事も食べる事も可能なのでいつもミルクを与えていた。
「いや、大丈夫だ。少し涼んでいたから、今皆そろったところだから」
氷川先輩の言葉にホッと息を吐く。
「如月、気にしすぎだ。女は時間かかるものだろ?」
日向先輩が茶目っ気たっぷりに続ける。
「飲んでいれば気にもならんよ」
藤河君は上機嫌にもうお酒を飲んでいるらしい。
「まあ、我々も風呂上がりですし、先に飲んでましたよ」
設楽君が微笑んで言う言葉に、鈴木君が真面目な顔で肯く。
残りの皆も肯いているのが目に入り、一安心だ。
「それじゃ、頂こう」
私が中村先輩と自分の分にオレンジジュースを注ぎ、玻璃にミルクを器に入れて与え、席に着いたのを確認してから氷川先輩がいつもの様に言うと、食事が開始された。
今日の夕食は、角兎を塩でシンプルにソテーした物と、私が作って置いた夏野菜の煮込みに、同じく作り置きしているチキンストックに塩を入れたスープ、買ってきたシンプルなパンの四品だ。
今年の夏は野菜が高いから、採ってきた野草と家で栽培している野菜で作った煮込みと、食べない野菜の部分を入れつつ丸鶏で取ったチキンストックは自慢の一品である。
「頂きます」
小さく言ってから、オレンジジュースを飲む。
うん、美味しい。
風呂上がりの一杯は格別だ。
幸い魔道具の冷蔵庫があるから冷えたジュースが飲める。
オレンジは買ってきて昨日大量に搾っておいたのだ。
『アルカ』よりも冷蔵庫は安価な物があるから、『アルカ』よりは普及しているとか。
冷やしておくのならやっぱり冷蔵庫の方が便利といえば便利だし、『アルカ』とは使い方も違う。
浄化を使えばかなり品物は長持ちする。
夏でも顕著だ。
身体に悪影響もないばかりか、身体の悪い場所とかも浄化された食品を取ると度合いにもよるが良くなるらしい。
大きい業務用な冷蔵庫はあるが、やはりそれでも浄化をするとしないとでは違いは大きいと思う。
助かるなと思いつつ角兎のソテーをナイフで切り、フォークに刺して口に運ぶ。
――――うーむ、ちょっと生過ぎるし、味も薄すぎる上に臭みもある様な……
スープにパンを浸して食べる。
――――あれ? スープ、濃すぎないかな……?
ソテーと合わせてもしょっぱ過ぎる。
パンの味やらチキンストックの味も殺している様な……
「うえ、何だよこれ!」
笹原君が格好いい顔を不味そうに歪めている。
「悪かったわね! これでも森崎先輩に訊きながら頑張ったのよ!」
長谷部さんが顔を真っ赤にしつつ大きな声を出した。
「やっぱり如月じゃないとどうも味が酷くなるな。それにこれじゃあ俺等が作った方がずっとマシだろ」
酒井君がきっぱりと言う。
「でも、森崎先輩の味付けも悪くないよ」
奥村さんが大きな胸を揺らしながら、一生懸命酒井君に抗議する。
「だが、森崎先輩のは味付けはシンプルすぎるというか……味がしない。それにシンプルならシンプルで如月の方が美味いし、臭みとか感じないからな」
安藤君が難しい顔ではっきり言い切る。
「まあ、確かにね。否定は出来ないかな」
清水さんが知的な顔を苦笑の形にして言う。
「でも、私達も頑張ったし、ね!」
高橋さんが取り成す様に皆を見回す。
「そうだよ、森崎先輩も、長谷部も奥村、清水に高橋も頑張ったんだし!」
村沢君も高橋さんに合わせる。
魔力が無くて、この国の言葉も一生懸命学んでいる最中。
やっぱり魔力が無くて、言語等勉強中。
魔力が無くて、必死に言語を始め色々と勉強中。
魔力が無いから、色々勉強中。
魔力が無いから、言語から何から色々出来る限り学んでいる。
魔力がやっぱり無くて、言語等を一生懸命勉強している。
魔力が無いので、色々学んでいる。
魔力が無いから、必死に色々勉強中。
家にいる人達の面倒を主に見ている人で、私はいつも申し訳なく思っている。
彼女は魔力が有って、下位の水の精霊の力を借りれるのだが、主に家を守っていた。
この九人が家を守っているのだ。
女性陣は髪が皆ロングになった。
この世界に来た当初は、セミロングだったりミディアムだったりボブだったりしたのだが、女性は基本的に髪はロングでなければ異常者というこちらの常識に照らし合わせ、皆髪を伸ばす事にしたのだ。
男性は理容室とかで切ってもらったりできるから、基本的に短い。
中村先輩も私も髪が長かったから、当初からこの世界で変に思われなかったのは色々有利に働いたと思う。
「頑張ったから良いってもんじゃないだろ。結果が出てねぇんじゃ意味ねえ」
何とか収まりそうだった場は、日向先輩の不機嫌さを隠そうともしない言葉と表情でまた空気は荒れ模様となってしまう。
「確かにな」
藤原君がそう言って真面目な顔で肯く。
鈴木君も難しい顔で首を縦に振る。
日向先輩は何とか表情を抑え気味にしてはいたが、続けて口にしてしまう。
「森崎先輩も無理しないで良いですよ。今まで思ってましたけど、疲れて帰って来て微妙な飯とか、勘弁ですし。鈴木のドールかホムンクルスか、確かレプリカントも作れたっけか、それ等を使えば掃除とか洗濯とかはどうにかなりますし、料理も下ごしらえなら如月を手伝えるだろうしな」
それには森崎先輩が反論した。
「でも、人間じゃないとダメな事ってあると思うし、だって、如月さんに負担だし、私、戦うのとか苦手だし……」
鈴木君が冷めた目で森崎先輩を見つめる。
「ドールよりホムンクルスは細かい作業も命令も聞けますよ。レプリカントは更にそれ等の上位ですけど。まあホムンクルスはドールより作るの手間だけど、俺なら問題なく作れますし。作ろうと思えばレプリカントだっていけますよ、俺。大体、苦手って言いますけど、如月も戦うのも殺すのも凄く苦手ですよ」
それに奥村さんが憤慨した様に言う。
「皆は文字が読めるし力もあるから学校に行けたじゃない! 森崎先輩は力があるけれど、魔力が足りなくて無理だったし、そもそも私達は言葉さえ分からないのよ!!」
藤原君が、厳しい目を家に居た人達に向ける。
「だから学ぶのには出来得る限り付き合ったりしているだろう? 男性陣はまだ学ぶ意欲を感じるが、女性陣はどうも清水以外真剣みを感じない。語学系の学校はまだ怖いと言うしな」
長谷部さんが激昂した。
「何よ! あんな怖い事があって、言葉も分からなくて、親も誰もいなくて、不安でたまらない気持ちが分からないの!? まだ皆本調子じゃないのは仕方がないじゃない!!」
そんな長谷部さんに藤原君は冷静に答える。
「だから行き場のない皆の為に家を用意したし、食費も諸経費も賄っている。神殿に掛かる費用は負担もしている。だからそれに見合う様にとまでは言わないが、何かして欲しいだけだ。そちらの身になる様な何かで構わない。別にこちらに何かしなくても良いし、多くは望んでいない」
清水さんが眉根を寄せる。
「ずっと神殿に居る人達の分もお布施している訳だしね。ある程度動ける私達が出来る事をするのは当たり前じゃない?」
清水さんの言葉に日向先輩が顔を顰めつつ繋げる。
「確かにな。それにいつまで養ってもらうつもりだよ。ある程度自立しねえと、今後どうする気だ。俺らも一生働ける訳じゃねえしよ。森崎先輩も働き先探した方が良いんじゃないですか」
それに森崎先輩が悲痛な顔で狼狽える。
「そんな……私、出来る事、ないし……」
奥村さんが森崎先輩を見ながら、
「森崎先輩に仕事なんて難しいわ。私達だって言葉も分からないんだから、そもそも働けないじゃない」
高橋さんが遠慮がちに
「それに今は外国人に厳しいし……働くのは難しいと思う」
設楽君が庇う様に
「確かに、来た頃より外国人に対して今は排他的だと思います。現状働くのは難しいのでは?」
中村先輩が呆れた様に
「そうね。難しいのは確か。でも真剣に学ぶ事すら疎かにするのはどうなの? 奥村さん以外は無事だったんだから、私や瑠那と変わらないでしょうに。まあ、個人差があるのは認めるけれど、度が過ぎるのは目に余るわ」
長谷部さんが目を吊り上げ怒りながら
「だから、言葉の壁があるんです! こちらの習慣も分からないし! 個人差があるのが分かるのなら、皆が皆、直ぐ良くならないって分かるでしょ!!」
鈴木君は呆れた様に
「だから、神殿への治療費も払っているんじゃないか。何もしたくないなら、神殿に戻れば良い。そこで最悪の場合は死ぬまで暮らせるように手配はするよ」
鈴木君の言葉に森崎先輩を始め、清水さん以外の働いていない女性陣が非難の声を上げる。
「ただ、何もせず、部屋に閉じこもっていろっていうの!?」
「そうよ、横暴だわ!」
「酷い……」
「流石に、それは……」
藤原君はあくまで冷静に言う。
「我々は、君たちの保護者じゃない。同じ世界、同じ学校から跳ばされた人間だから、誼である程度援助はする。こちらに何の貢献も出来ないのはまあ良い。ただ、何か生きていく術を身に付ける気も無いのなら、時が経てば手を引かざる得ないのではないか。何もせず、自分は楽して全て死ぬまで面倒を見ろと言うのは、それこそ横暴だろう」
藤原君の言葉に日向先輩と中村先輩、鈴木君が厳しい顔で肯く。
清水さんや働いていない男性陣は表情も暗く俯いている。
設楽君は双方を視つつオロオロとしていた。
私は、どうしたら――――
足手纏いなのは一緒なのに、ただ、言葉が分かるから、何とか生活できている状態なのだ。
とても心苦しくて、思わず下を向いてしまう。
「話は食事が終わってからだ」
氷川先輩の冷厳な声で、取りあえずこの争いは休戦状態になった。
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