第4話
2人は老婆の家に連れていかれ、勝手に桃をとったことを𠮟られた。
「まったく人様の物を勝手に取るなんて、どういうつもりだよ。」
翼は泣きながら謝罪した。老婆は翼が何度も頭を下げて謝るので、
「もういいよ。頭をお上げ。」
と言って、桃を取ったことを許した。
「ところであんたたち、こんな夜中にどうやってここまで来たんだい?自動車もなかったようだし、まさか歩いてきたわけじゃ…。」
老婆は2人に訊いた。杏はこれまでの経緯を説明した。老婆は難しい顔をして杏の話を聞いていたが、
「そりゃあんた気の毒だねえ、男っていうだけで捕まっちゃうなんて。でも、あんた本当に男なのかい?」
老婆は翼に訊いた。
「見ます?」
翼は老婆を見つめて言った。
「いーよ、いーよ、やめとくれ。」
老婆は手を振って言った。杏も翼も笑った。老婆も笑った。
「あー愉快だね。こんなに笑ったのは久しぶりだよ。そーだ、あたしの家で良かったら今夜泊っていくかい?娘の部屋にみんな揃っているから、自由に使っていいよ。」
老婆は言った。
「娘さんいらっしゃるんですか?」
杏が訊いた。
「死んじまったよ、あんたと同い年くらいの時にね。ひどい事故に巻き込まれてね。それからあたしはずっと1人きりだよ。」
老婆は目を伏せた。杏も翼も目を伏せた。
「あたしたちで良ければ、おばあさんのお手伝いをします。何でも言ってください。」
杏は言った。翼は大きく何度もうなずいた。
「そうかい。そりゃあ助かる。最近収穫ロボットが調子悪くて修理に出そうとしてたんだ。桃の収穫を手伝っておくれ。」
老婆は目を輝かせた。
「はい。」
杏と翼が同時に返事をした。その瞬間、翼のお腹が鳴った。翼は舌を出した。
「あんたたち、何も食べてないのかい?」
老婆が訊いた。2人はうなずいた。
「何かあり合わせの物でご飯作るよ。」
老婆は台所へ立った。
2年後の春、杏は翼の子を出産した。男の子だった。老婆が杏の出産をサポートした。老婆は杏の子を自分の孫のように可愛がった。4人は本物の家族のようだった。さらに2年後の春、杏は2人目の子を出産した。また男の子だった。2歳になった上の子は歩くのが楽しくてしょうがないらしく、時々行方不明となった。その度に翼と老婆が上の子供を必死になって探した。果樹園から山へ通じる道はなく、登山者がそこに現れることはなかったのだが、ある日、道に迷った登山者が山から果樹園へ降りてきた。登山者は果樹園の近くで立小便している杏の上の子を見つけた。登山者は驚き、職場へ電話を掛けた。登山者は厚生労働省の役人だったのだ。
杏と翼と子供たちは厚生労働省の担当官によって厚生労働省へと連行された。老婆は狂ったように担当官達に抵抗したが無駄だった。翼は再び、警戒が厳重になった病院に送られた。子供たちも病院の小児科病棟に入院することとなった。杏は未成年者略取の容疑で起訴されることが検討されたが、翼に逃げ出したい気持ちがあったため、不起訴となった。杏と翼とその子供たちの処遇について国際会議で検討されることとなった。
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