第2話

 2018年、世界人口は75億人を数え、人口の半数が男性と女性に分かれていた。時を追うごとに人口における男性と女性の比率は女性の方が多くなっていった。人間の男は生まれなくなっていったのだった。そしてついに、2050年に男性は1人も誕生しなくなってしまった。原因を究明した研究機関は、男子が持つ精子で男性が生まれるためのY精子に異常があることを発見した。驚くべきことに、存在するすべての男性のY精子に異常があることがわかり、今後、人類は女性しか誕生しなくなると発表した。この発表を受けて世界は動揺した。男性を誕生させるためには精子銀行に保管されている正常なY精子を持つ精子を用いて人工授精するしか方法は無くなった。男性の数は激減していった。

 2060年のある日、ある過激な宗教団体が精子銀行を襲撃し、銀行に保管されているすべての精子を強奪して破壊した。宗教団体は「男が生まれなくなったのは神の意志である。我々は神の意志に抗うことはできない。」との声明を発表した。この宗教団体の犯行は計画的で、すべての精子銀行を同時多発的に襲撃したため、正常なY精子を持つ精子は世界に存在しなくなり、男性が誕生する手段は無くなってしまった。世界は人類の未来を案じた。男性たちは女性だけの世界に否定的だった。

「男がいなければ女なんて何もできない。女性だけの世界なんてすぐに滅亡してしまうだろう。」

太った赤ら顔の時の権力者はテレビのインタビューで声を荒げて言ったが、男性たちは女性たちの世界を造るため、様々な男性の代わりとなるべく人工知能、ロボット、イケメンの男性人形などを開発していった。とりわけ、人工知能とロボットは発電所などの巨大プラントをリプレースするほど進化していった。女性だけの世界を造るために各国の女性の代表者が選出され、女性国際会議が開催された。この会議では、男性がいなくなったあとに起こりえる様々な難題の解決方法を模索した。女性だけの世界で問題となるのが「重要な意思決定」だった。従来までは男性が世界の政治をリードしてきたが、女性だけの意見では意思決定に不安が生じるとのことであった。この難題解決方法の検討に際して、男性の時の権力者達が口を挟もうとしたが、女性たちは男性の権力者達の参加を拒んだ。そもそも女性国際会議は、男が中心になって構築した現在の世界が正しいと考えなかった。繰り返される殺戮、性差別、性暴力。現在世界が抱える多くの問題は男たちが男たちの欲望を満たすために作られた社会が作ったではないかと考えたのであった。

 女性国際会議は最新鋭のスーパーコンピューターを用いた問題解決システムをGWと名付け、構築チームに開発させた。GW構築チームは問題解決のために重要となるのは、人類の生きる目的であった。すなわち人類の生きる目的が定まっていなければ正しい問題解決にならないのである。人類の生きる目的について検討を重ねた結果、古代から各地に伝わる神話に着目した。世界各国に伝わる神話は同時期に異なる場所で同様の内容の神話が作られているため、人類の意識の中から人類の生きる目的が神話の中に隠されているのではないかと考えたのだ。チームが世界各国の神話をデーターベース化し、項目ごとに分類し分析した結果、次のような結論に至った。


 1. 人類の生きる目的 

 すべての生物には自然界を構築する役割を与えられている。人類にも同様に役割が与えられている。人類の役割とは遠い未来に訪れるこの星の滅亡の危機を救うことである。


 2. どのように生きるべきか

 人類は近親交配を続けていくことができない。多くの人種が関係を深め多様な遺伝子を作っていくことが求められる。そのためには人類は争うことは許されない。あらゆる人種、民族が関係を深めていく必要がある。


 3. 自然への敬意

 すべての生物に役割が与えられているのであるから、人類もあらゆる生物の役割を尊重しなければならない。人類は自然界を壊すことなく健全な状態を保つ必要がある。


 新しい世界のために女性国際会議は次の世界憲章を掲げた。

 1. 人は人を殺してはいけない。

 2. 全ての子供が幸せになるよう大人たちは全力で子供を育てる。

 3. 全ての生物に思いやりの心を持つ。

 4. 無意味な自然破壊をせず。自然との共生社会を造る。


 女性国際会議は核兵器を始めとした大量殺戮兵器の廃棄も求めた。女性国際会議は合理的であった。それら兵器の危険性と管理の煩雑さを考えると、大量殺戮兵器は自分たちが責任を持てるものではないと判断したのだ。男性の国家元首たちからは

「もし、他国から攻撃されたらどうするのだ?」という反対の声が多かったが、女性国際会議は

「あたしたちはこんなものいらないって言ってるの。あんたたちはこの世から居なくなるんだから、こんな物騒なモノさっさと片づけてちょうだい。」

という大量殺戮兵器廃絶宣言を採択し、大量殺戮兵器は廃棄された。

 2140年、地球上で最後の男性が死亡すると女性だけの世界が誕生した。男性は死ぬ直前まで女性だけの世界を案じたが、女性たちは男性たちが絶滅する前に開発した様々なツールを駆使して逞しく生きた。女性の中には凶暴な男性が絶滅して良かったという者も多くいた。世界の意思決定をするのは女性国際会議を継承した国際会議だった。2141年国際会議で正式に非戦争宣言を採択し、すべての兵器を廃棄した。兵器の金属の一部はリサイクルされ、フライパンや包丁に姿を変えた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る