第13話
- 第13章 -
(回想)
テスト数日前、英単語を眺めていたら、舞が急に外に俺を呼んだので何事かと思うと、甲本先生の青い朝顔が蕾を付けていた。
「先輩、もう少しで咲きますよ」
「ほう、そうか」
「きっと夏には綺麗な青い東雲草がこの図書館を彩っています」
「楽しみだな」
舞はまるで無邪気な子供のように屈託のない無邪気な笑みを浮かべていた。その様子を見て、俺も思わず顔が綻んだ。
「啓介先輩」
「どうした?」
舞は俺の方を向いた。黄昏時の淡い陽の光が彼女の顔に当たっていた。
「夏になったら、一緒に東雲草を見ましょうね。きっと綺麗に咲きますから」
「勿論だ、甲本先生も一緒に……」
「いえ、私は先輩と二人で見たいです」
「俺と二人で?」
「はい、一緒に見ましょうね!」
「ああ」
舞は、笑顔だった。でも、どこかその笑顔に隠された嘘があるようにも思えた。そして少しもしないうちに夕日が沈んだ、途端に俺は夢中になって舞の手を握った。
「舞」
「どうしましたか?」
「俺は、怖い」
「何がですか?」
「お前が、近いうちに消えて、なくなってしまいそうな気がするんだ」
舞はぽかんとしていた。急に手を握ってしまい、申し訳なかった。しかし、こうしていないと、彼女がまるで水泡のようにいとも容易く消えてしまう気がしてならないのだ。
「先輩、大丈夫です。私はどこにも行きませんから」
「本当か?」
「先輩に嘘をついたことありますか?」
俺は首を横に振った。
「ね。大丈夫ですか。心配しないでください。さ、テスト勉強お互いに頑張りましょう」
その日はそれで終わってしまった。
でも、俺は漠然とした不安というか、心の中に晴れないものを抱えたままだった。
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