第10話

- 第10章 -

その日の午後、図書館に向かうと舞がジョウロで鉢植えに水をやっていた。

「あっ、先輩。どうでした?テスト」

俺は舞にグーサインを送った。

「完璧」

「すごいです!学年一位も夢じゃないかもしれませんね」

「どうかな?分からん」

「いえ、先輩頑張ってましたもん」

「ありがとう」

「ところで先輩、見てください」

舞は水をあげた鉢植えを指差した。

「花の芽が出ました」

「おっ、そうか。ところでこれはなんの花だっけ?」

「朝顔です。先輩、知ってますか?」

「何をだ?」

「朝顔の別名です」

「聞いたことないなぁ」

「先輩の名字の東雲がついて、東雲草っていうんですよ」

「へぇ」

さすが花屋の娘。よく知ってる。東雲草か、悪くない。

「この花は何色ですかね?」

「青かと思うぞ。甲本先生が青色の種を買ってきていた気がする」

「青ですか、悲哀ですね」

「どこらへんがだ?」

「青い東雲草の花言葉は、『短い恋』、『儚い恋』です。私、朝顔を見るたびに、悲しい気持ちになります」

舞はため息をついた。

「なんでだ?」

「人間の命なんて、儚いなぁって……」

舞は急に悲しそうな表情になった。どうしたのだろうか?

「何かあったか?」

「いえ、少し……」

「少し?」

「なんでもないです。ところで先輩、頼みってなんですか?」

俺は、迷っていた。舞にこの気持ちを伝えようかどうか。舞は、美しい。このような人がずっと側にいてくれれば、さぞかし幸福な人生だろう。でも、俺はまだ何も成し遂げていないのに、舞に募る想いを打ち明けるのは、気が引けた。

「テストが、返ってきてからな」

「えー、教えてくださいよ!」

舞は俺に頼みの内容をせがむが、俺は結局ほんとうの気持ちを心にしまったままだった。

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