第4話

- 第4章 -

なんとも言えない幸福感を胸に抱えながら帰路に着いた。いつもは下を向いて歩いている気がするが、今日は少しだけ前を向いて歩けるような心持ちだった。しかし、その幸福感もまるで霞のように儚く消えていった。できることであれば家には帰りたくない。俺の足取りはだんだんと重くなっていった。帰りの電車の中、一駅、また一駅すぎるごとに、歓喜の感情は失せていった。そして電車を降りる頃には、またいつものように下を向いて歩いていた。改札を抜けて、淡光を放つ街灯の照らす夜道を踏みめ、家へと向かった。

「なんでこんなに汚いんだ!」

家から叔父さんの怒鳴る声が聞こえた。いつものことか。

「ただいま」

「遅いじゃないの、早くご飯済ませて片付けてちょうだい」

「はい、おばさん」

「コラ!啓介!」

家の奥の方からものすごい足音を立てて叔父さんが来るのがわかった。

「どうしましたか?叔父さん」

「お前俺の靴下履いただろ?」

「いえ、履いてません」

「じゃあ俺のはどこにいったんだ!」

「知りません」

「知りませんってことはないだろ!」

おじさんは怒りに任せて俺の頬に平手打ちを喰らわせた。俺はおじさんをにらんだ。

「なんだその目は!何か文句でもあるのか?あ?誰のおかげで生きていけると思ってるんだ!誰のおかげで学校に通えてるんだ!」

「………おじさんたちのおかげです」

「全く、お前は感謝が足らん!」

そう言っておじさんはどすんどすん足音を立てて部屋に戻った。俺は部屋にカバンを置いて、冷たくなった飯を食べて、さっさと片付けを済ませた。頬がまだ少し痛む。まあ、おじさんに殴られるなんていつものことだ。気にも止めなかった。

俺の両親は小学校を卒業した春休みに交通事故で亡くなった。酔っ払い運転だった。それが身寄りのいない俺は、養子として今の東雲家に養子に行った。待っていたのは、ひどい虐待だった。おじさんは怒りの沸点が低く、何かあるとすぐに俺を殴る。酒を飲めば暴れ、会社でうまくいかないと、憂さ晴らしなのか、俺に八つ当たりする。おばさんはズボラでなんでも嫌な家事を俺にやらせ、やらないとおじさんにありもしない告げ口をして俺をいじめる。そんなんだから、俺の心はすっかり折れ曲がった。次第に学校でもいじめられるようになり、友達なんて誰もいない、孤独な中学校生活を過ごした。そして高校にいっても結局何も変わらず、心に深い傷を抱えたまま俺はくだらない世の中を生きている。おじさんたちからは、二十になったら縁を切るといわれている。こっちから早く切ってやりたいぐらいだ。でも、今は耐え忍ばねば生きられない。辛い現実をひたすらに受け入れて、今日も孤独なまま生きていた。

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