第2話

- 第2章 -

四月半ば。部活動勧誘が終わった。俺は特にこれといって部活に行く入ってなかった。ただの図書委員会として本とともに放課後を過ごす毎日だ。

「そろそろ新しい委員入ってくるからね。啓介君も図書館の仕事を教える用意しといてね」

こう聞いて俺は少し不機嫌になった。

甲本先生は新一年生の委員が入ってくるのを待ち遠しく思っていたが、俺は全く逆のことを考えていた。これ以上面倒な人付き合いは正直御免だった。どんな得体の知れない奴が入ってくるか知らないが、とりあえず必要以上に俺に関わらないでほしい。俺は口の中が乾いたのに気がついた。何か飲むのもが欲しい。

「ちょっと自販機でジュース買ってきます」

数百円をポケットにしまい、学校にある自販機へと向かった。

何を買おうかと悩みながら、薄汚れた廊下を歩いて自販機に向かっていると、自販機方が何やら騒がしかった。

「なんだ?」

少し足を急がせ、自販機の方についた。

「やめてください」

「いいじゃんか、連絡先交換しようぜ」

かすかに見覚えのある顔。タチの悪い三年生三人のグループがおそらく新一年生とみられる後輩女子につるんでいた。その後輩女子は高校生だというのに明らかに身長百五十センチよりも小さく、小柄だった。一方の三年生はガタイが良く、それがより一層に後輩女子の小ささを感じさせた。

「やめてください。お願いします」

「だから、連絡先交換しようって。いいじゃんか?な?」

後輩女子は恐怖のせいで、全身が震え、目からは今にも涙が溢れそうだった。

「やめ、て…ぐ、だざい」

声からも、泣くのを必死にこらえているのがわかった。三年生はそんな様子ですらも楽しんでいるように思えた。俺は顔が強張り、目を細めて三年生を睨みつけた。俺の殺気に気がついたのか、三年生の一人が俺の方にメンチを切った。

「おい、何見てんだ!」

「べつに、なんでもありません」

俺は目線をそらした。そして何事もなかったかのようにポケットから小銭を取り出して、自販機に硬貨を投じた。

「いや、……やめて」

後輩女子はすでに泣いていることに気がついた。無論、ここで俺は三年生に刃向かう気持ちでいた。いくら授業をサボる学校のクズとはいえ、ここで何もせずに可哀想な後輩女子を見捨てるほど野暮なやつでもない。

エナジードリンクのボタンを押して、自販機から毒々しいメタリックグリーンの缶を取り出した。そして俺は三年生の一人の首元にキンキンに冷えた缶を押し付けた。

「あちっ!」

缶を押し付けた三年生はたちまちピョコンと跳ね上がった。

「なんだお前!」

残りの二人が俺の方を見てにナイフのように尖った目つきで睨んだ。

「べつに、後輩女子が可哀想なんで迷惑なバカを成敗したまでです」

あっけらかんとした様子で淡々と答えた。

「あぁ?お前俺らをバカ呼ばわりするのか?連絡先交換しようって言っただけだろ?」

「だからそれが迷惑なんですよ。後輩ちゃん嫌がってたでしょ。女子泣かせるなんて最低ですよ」

「なんだとてめぇ!」

一人がいきり立って拳を振り上げた。俺は上段への暴拳を払い受け、相手の中段へ突きを喰らわせた。

「ぐっ……」

腹を抱えてその場に倒れこんだ。

「貴様、ゆるさねぇ!」

怒りにまみれた様子で、襲いかかってきた。今度は中段への蹴り。これを流水のごとく受け止め、手刀を相手の額に打ち込む。痛がる相手に更に目打ち。目潰し攻撃を喰らわせた。二人目もその場に崩れた。

「むん!」

さっき首元に缶を首に押し当てた奴が俺の手首を掴んだ。なんの。手首を上手いこと引き寄せ、相手の体勢その場に強引に崩した。少林寺拳法の龍華拳、逆小手。床に倒した相手の脇腹に更に蹴りを入れた。それでも起き上がろうと足掻く三年生に俺はもう一発蹴りを入れた。これで全員倒した。俺は無言のままモンスターの缶を開けた。プシュと炭酸の抜ける音が、祝砲でも上げているかのようで、心地よかった。缶を開けると、口にエナジードリンクを含んだ。刹那、刺激がビリビリと伝わり、俺の舌をうならせた。

「あぁ」

と安堵のため息を漏らした。

「あの……」

後輩女子が涙がぬぐいながら自分の方にに近寄った。

「ありがとうございました」

「まあ、ええ」

話し慣れてないせいなのか、言葉が見つからず困惑してしまい、エナジードリンクの缶を片手に持ったまま、無我夢中でその場を立ち去り、図書館に戻った。

「あのっ」

その時後輩女子がこう言うのが微かに聞こえた。

息を切らしながら図書館に戻ると、甲本先生は何植わっていない土だけの鉢植えにジョウロで水をあげていた。

「あら、えらいおそかったわね」

「ちょっと色々ありましてね」

そう言って俺は図書館の隅の方にある木製の椅子になだれ込んだ。バカじゃね?俺。

「俺は何をしてるんだ。」

一人でこう囁いた。思わず溜息が漏れた。かっこ悪いな。一応、少林寺拳法初段の腕前を持つ。中学時代に少林寺拳法はやめたが、まだ現役の頃と変わらず力を震える感覚はある。だけど、今日の俺はなんだか少しカッコ悪いことしたな、と反省した。あの後輩女子はどうしただろうか?それだけが少し気がかりだった。

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