第10話 効率の良い訓練方法
「では早速、精霊を感じる方法を説明します。方法は至って単純、深い瞑想状態に入るだけです」
校庭にて。
私はそう話し始めつつ……教科書を一冊頭にのっけて、目を瞑った。
「瞑想と聞くと、座禅とかを思い浮かべるかもしれませんが……正直、あれで精霊の知覚に十分な瞑想状態に入るのは、初心者には難しいです。なので……私のおすすめはこれ、歩行瞑想です」
そう言うと私は、目を瞑った状態のまま、ゆっくりと数歩歩いた。
「このように教科書を頭に乗っけたまま、目を瞑って歩くと、バランスを取るのにかなりの集中力が必要です。ですが……その集中状態は、深い瞑想状態と極めて近い状態。何歩か歩いて立ち止まり、何も考えないようにすると……脳内にはっきりと、自分の精霊の姿が浮かぶでしょう」
これが、私が知る限り最も成功率が高い、精霊との初対面の方法だ。
普通の瞑想方法だと、精霊を知覚する以前に「深い瞑想状態に入る訓練」に一か月近くかかってしまうのだが……この方法だと、全くの瞑想初心者でも高確率で一発でその境地にたどり着ける。
頭に不安定なものを乗せたまま目を瞑って歩くとなると、嫌でも限界近い集中力を使うことになるからな。
それをそのまま「無我の境地」に転換すれば、深い瞑想状態までショートカットできるというわけなのだ。
精霊を知覚するのに、必要なのはたったこれだけだ。
一旦精霊を知覚すると、意識的に気を逸らさない限りはずっと知覚したままでいられるので、後は気を楽にして心の中で精霊と対話すればいい。
「では、立って始めてください」
そしてわざわざ校庭に出てこさせたのは、もちろん教室内で歩行瞑想などすれば互いにぶつかりまくるからだ。
などと思いつつ、私は始めの合図を出したが……そこで同級生の一人が、こんな質問をしてきた。
「あの、会話って何をすればいいですか?」
確かあの子は、兄が宮廷魔術師をやってる人……名前はリレンザだったか。
私はその質問を受け、一瞬どう答えるか迷った。
精霊との親密度、どんな話題を振っても関係なく上がっていくからな……。
どんな会話内容がいいかなんて、考えたこともなかったし、その必要もないのだ。
ただ確かに、初めてこれをやる人はそんな疑問を持つのも不自然ではないよな……。
私は一考の末、それも実演してしまうことにした。
「別に会話内容は、何でもいいです。例えば……」
言いつつ、ゼタボルトを再度具現化する。
「ゼタボルト、今日は雲が一つしかないいい天気ね」
「どこがだよ。空一面曇り空じゃんか」
「だから、『雲が一つしかない』って言ったのよ」
「少なくともいい天気では無いだろ!」
「雲が一つも無いいい天気って言葉あるでしょ? それに引っかけたジョークよ」
「……お前、それ曇天の度に言ってるよな」
そして私はゼタボルトと、極めてどうでもいい、かつあまりかみ合ってない会話をしてみせた。
「会話内容はこれくらい適当でいいです。極端な話、喧嘩になっても問題ありません。雨降って地固まるというか……魔法制御力はそれでもあがるので。では、始めてください」
すると……リレンザ含め同級生たちは完全に納得したようで、皆一様に歩行瞑想に取りかかりだした。
私くらいの聖女になると、他の聖女が精霊と会話してるかが雰囲気でだいたい分かるのだが……みんな順調そうだな。
困っている人もいなさそうなので、みんなが瞑想に耽っている間は、私も新しい精霊と会話しようか。
そう思い、私も瞑想を始めた。
ちなみに私の場合は瞑想そのものに慣れてるので、普通に座禅でやるのだが。
『おはよう。今日は雲が一つしかないいい天気ね』
『いーてんき! わーい!』
新しい精霊というだけあって、めちゃくちゃ純粋だな。
今のはジョークだってところから教えてあげるか。
授業の終わりのチャイムが鳴るまで……私はそんな感じで、新しい精霊との会話を続けたのだった。
◇
そして……一週間ちょい過ぎた日の、三限の時間。
入学してから二回目の、「回復魔法実践」の授業が始まった。
この「回復魔法実践」の授業は文字通り、回復魔法の術式を実際に練習する授業なのだが……毎回授業の始めに、生徒一人一人の回復魔法の習熟度を測る小テストが行われることになっている。
「ではこれより、回復魔法の小テストを行います」
担当の先生はそう言うと、教卓の上に傷だらけのホーンラビットを置いた。
一人一人順番にこのホーンラビットに「ヒール」をかけ、教師が回復度合いから生徒のヒールを採点する。
それが、小テストのやり方だ。
早速先生の合図で、まずはシンメトレルが教卓の前に行き、回復魔法をかけ始めた。
思えばここで初めて、精霊とのコミュニケーションを取った聖女の実力が試されるんだな。
果たして、どんな結果になるだろうか。
そんなことを考えている間に、シンメトレルは回復魔法を発動させ——。
その瞬間、先生の目の色が変わった。
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