第11話 回復魔法が規格外すぎて被験体不足に
「な……うそ……」
シンメトレルのヒールにより、完治したホーンラビット。
それを見て……担当の先生は、絶句したまま固まってしまった。
「こんな事ってあるのかしら? これもはや、卒業生のレベルを軽く超えてるじゃない……」
動揺しまくる先生をよそに、シンメトレルは「何かやらかしてしまったのか」とでも聞きたそうな表情をしていた。
まあ、そうなるのも無理はないよな。
たとえ今のヒールが卒業生レベルだったとしても……このクラスでは所詮、標準レベルでしかないのだから。
「理事長、特Aクラスはとんでもない実力者に仕上がっているって言ってたけど……これは流石に次元が違い過ぎないかしら? ……そうだ!」
かと思うと……先生は、何か合点がいったような表情になり、手をポンと叩いた。
そして……シンメトレルに対し、とんでもないことを言いだした。
「私、勘違いしてました。今まで首席の名前はイナビルさんって聞いてたと思ってたけど……シンメトレル、あなただったのね!」
これには……シンメトレルのみならず、私含めクラスメイト全員がポカーンとなった。
この人……一体何を言いだすんだ?
首席代表の挨拶なら、入学式の日に私がちゃんとやっただろ……。
……あ、でもそういえばこの先生、入学式の時には見なかった顔だな。
もしかしてこの人、何らかの事情で入学式まで学校に来れなくて、私たちのことは人伝てに聞いただけなのか?
だとしても、「首席の名前を勘違いしていた」と納得するのは、流石にどうなんだ……。
「私じゃないですよ? と言いますか……このクラスのみんななら、だいたい私と同じかそれ以上のことはできます」
私が唖然とした気持ちでいる間に、シンメトレルはそう先生に反論した。
「い……今の魔法を……このクラス全員が!? ……ちょっと次の授業用のホーンラビット取ってきます!」
すると先生はそう言い残し、猛ダッシュで教室を出ていってしまった。
……もし持ってくるのがさっきと同じくらいの傷つき度合いなら、次の人が完治させてしまうと思うのだが……どうするつもりなのだろうか。
おそらく先生は、そこまで考えてないだろうな。
私は授業の円滑な進行のためを思い、上空に小テスト用に使えそうな手頃な魔物がいないか気配を探り始めた。
いい感じに強くて、全員のヒールでようやく完治するくらいの傷を負わせても死なない魔物はいないか。
探知を続けていると……途中で、先生が新たなホーンラビットを抱えて戻って来た。
「じゃあ次は……そうですね。リレンザさん、試しにやってみてください」
そして今度は、宮廷魔術師を兄に持つリレンザが指名された。
「あ、はい。やってみます」
そう言ってリレンザは教卓の前に立ち、シンメトレルと同じようにヒールを発動する。
すると——やはりシンメトレルの時と同じように、ホーンラビットの傷は完治してしまった。
「そんな……本当にみんな、こんな規格外な人たちばかりなのですか? 一体何なんでしょうこのクラス……」
それを見た先生は、完全に青ざめてしまい、採点すらままならなくなっていた。
「どうしましょう。もう一度職員室に戻っても、保護されて連れてこられた小動物はあと一匹しか残ってませんし……。今日の小テストは、諦めた方がいいのでしょうか……」
そして予想通り、先生はとうとう被検体不足に陥ってしまったようだ。
現代の聖女の教育があまりにもお粗末なので、自分にできる範囲の協力はしようと考えたが……授業を成立させなくするつもりは、一切無かったんだが。
ただ上空には、ちょうど手頃な魔物が一体飛んでいるようだ。
小テストを滞りなく進めるため……獲って来ていいか、先生に聞いてみるか。
「あの……小テストなら、私に良い考えがあります。ちょっと30秒ほど外へ行くお時間頂いていいですか?」
「あなたは……本物の首席のイナビルさん? 良い考えがあるのでしたら……お願いします」
聞いてみると、先生はそう許可を出してくれた。
本物の首席も何も、先生が勝手に勘違いして勝手に認識を戻してるだけなんだがな。
まあ、そんなことはどうでもいいが。
私は教室の窓から外に飛び出すと……螺旋の雷を放って電磁飛行魔法を開始し、一気に遷音速手前まで加速した。
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