第25話 5−3
ドンッ。
重低音が一つ後ろの方で鳴り響くと、静寂が訪れた。
「だから俺空飛べるっつうの!!」
狭苦しい暗闇の中で優人はまだ絶叫していた。何ていうのか、諦めが悪い性分である。
ここはオートマタ高速戦地投入システムの射出機の中。射出保護用コンテナに寝そべった状態で押し込められ、優人は射出の時を待っていた。というか、仕置の時間を待っていた。本人にとっては。
暴れて出ることもできるにはできるが、その後で怒られそうでやめておくことにした。それでも嫌なのは変わらない。
「あいつら面白がって俺をここに押し込んだだろ……。まったく……。ブツブツ」
そんな愚痴を言っていると、目の前に通話ウィンドウが開いた。音声のみの通話だったが、
「ご主人さま、御機嫌如何でしょうか?」
という声だけでわかった。愛しいユイリーだ。
優人はその美声に甘えるようにお願いしてみた。
「ねえユイリー、指揮官に言ってここから出してもらえないかな……」
「だめです」きっぱりとした否定が帰ってきた。「そもそも時間がありません。諦めておとなしく射出されてください」
「そんな〜」
「どこぞの養豚場に出荷される豚の顔のような声を上げるのはやめてください。恥ずかしくて萌え死にます」
「お前なんてドSいやドMっ!?」
優人がそう突っ込んだ途端、鈍いモーター音が響いた。と、同時に、伏せていた自分の体が立ち上がっていく。
これは、まさか。
優人があちこちを見渡すと、ユイリーが、
「さあ、いよいよ射出です。年貢の納め時ですね」
といつもの無感情な口調になって言う。
「てめえちょっと待てお前も楽しんでるだろゴルァ!!」
と優人がドキュンな口調で言っても、
「〜♪」
口笛を吹いてごまかすばかり。
──畜生、あとでヒィヒィ言わせてやる。
と苦虫をかみつぶすような顔をしていると、モーターの駆動音が止まり、体がほぼ立った状態で止まった。そして、リニアモーター特有の高音が鳴ったかと思うと、耳元で、愉快な芸人のような笑い声が混じった声で、
「それでは射出しまぁす。ごぉ、よぉん、さぁん、にぃ、いちぃ」
と突然カウントダウンした。そして、間髪入れず、
「ゴー!!」
と叫んだ。
次の瞬間。ニュートラルのままフルスロットルになっていてそれに気がついて慌てて一速を入れたら、暴れ馬のごとくウィリーした……、はずもなく。
いきなり強い衝撃が全身にかかると、優人の入ったコンテナは急加速し、撃ち出された。
「のわああああああああああああ!!」
優人は絶叫しながら天高く撃ち出されていった。
同時に、既に空中に浮かんでいたユイリーを初めとする<カミーラ>攻撃ガールズギア部隊は、飛行ユニットのノズルなどを操作して垂直に機体を静止させると、ジェットエンジンを噴射させ、彼の後を追い大空へと一直線に飛んでいった。
「たーまやー。かーぎやー」
アシストロケットが耳をつんざく轟音を立て、白い尾を引きながら大空へと飛んでいく優人が入ったオートマタ射出用コンテナを、少し遠いところからアヤネたちが眺めていた。
その後を追って、ユイリーたちが装備している飛行用ユニットが上昇していく。
「勢いよく飛んでいきましたねー。マスターったら、いい気味ね」
そう言って周りの優人所有のガールズギアたちに微笑ったときである。
一体のガールズギアが冷静な声で指摘した。
「アヤネ、アレであなたも撃ち出されるんですが」
「え」
アヤネの表情が凍りついた。
「えちょっと待ってあたし聞いてない!?」
「何言ってるんすか。ブリーフィングの時に言ってたでしょ、第三部隊は展開時間短縮のためオートマタ高速戦地投入システムで現場に投入されるって」
「あ、あたし用事思い出した帰る!!」
「敵前逃亡は軍事裁判で死刑ですよ」
冷たい声が耳元で響いたかと思うと、即座にアヤネは両脇を周りのガールズギアに抑えられ、身動きできなくなる。それでも暴れて逃げようとしたアヤネであったが、さらに二体のガールズギアがそれぞれ足を取り持ち上げて、神輿のようにアヤネを人間大砲の方へと運んでいった。
まるで自分の事務所の社長を拉致しようとして拉致返しされた役者のような状態でアヤネは、
「お前ら、覚えていろよ〜!!」
と悪役トリオの女ボスのような叫びをあげ、彼女の姿は小さくなっていった。
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