第21話 4−4

「よく来たわねユウト」

「こちらこそ急な来訪ですいませんヘレンさん。早速ですが、ちょっと研究工場をお貸しいただけませんか。作りたい物があるんです」

「いいわよユウト。こんな性急な時に作りたい物があるなんて、よっぽど必要なのね。ラボ部門に伝えて、用意させるわ」

「ありがとうございます。ヘレンさん」

 そう流暢な日本語で挨拶してきたのはシノシェア日本本社社長のヘレン・カーティスであった。ちなみに彼女は優人の母であるキャサリンの古くからの友人で、そのため息子である優人とも知り合いなのである。

 広々としたエントランスホール中央で、優人は彼女から差し出された手を握り返した。

 ここはシノシェア日本本社社屋。ここを中心にシノシェア社の日本での活動は行われるのである。そのエントランスホールと併設されたショールームは、超大型雑貨店かホームセンターのようにも思えた。

 それもそのはず。シノシェア社いやシノシェアグループはオートマタやHAIに関わるものなら何でも作って売る。オートマタの関わるものイコール人間の関わるものであるから、つまり、人間が使うものをすべて製造し、売っているのだ。

 シノシェアグループのスローガンは「世界をオートマタでデザインする」である。この企業理念を体現すべく、シノシェアグループはオートマタに関するありとあらゆるものを製造しているのだ。

 美也子はそんなショールームの様に目を奪われていた。

「すっごーい……。話には聞いていたけど、シノシェア社ってこんなところなのねー」

「そうでございます猫山様。シノシェアグループは小さなものから大きなものまで、鉛筆から戦艦までメイクユアドリームなのでございます」

「なんかいろいろ混じってない?」

「〜♪」

「なんで口笛吹くのよ……」

「なあに言ってんだふたりとも」二人の会話に優人が割り込んだ。さっ、ゲスト登録をしたら会議室へ行くぞ。そこでいろいろと話し合わなきゃならんしな」

「了解しましたご主人さま」

「はあい」

 いつもの調子で応えたユイリーに対し、美也子は釈然としない表情で返事をした。

(なんでいつもこんな調子なのかしらねー?)

 彼女は心の中でぼやくと、優人と女社長たちの後をついていった。

 広々としたエントランスホールに差し込む日は、平和そのものであった。しかし、戦乱の嵐はすぐそこまで迫っているのであった。


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