第19話 4−2

「ここにいてもしょうがないので、ホテルを出てシノシェア社日本本社へ行こうと思う」

「えー!? いきなりナンデ!?」

 優人たちが泊まっているラグジュアリーホテルの最高級スイートの食堂で、ホテル提供の温かい朝食を食べながらそう切り出した優人の宣言に、どうしたの突然、という表情で猫山美也子が彼の顔を見た。

「向こうになんの変化も見られないんならこちらから動いて変化を起こさせるべきなんだ。それに、ここにいてもあのカミーラ型がまた襲ってくるし、ここのホテルの従業員や客に迷惑をかけるわけにもいかないんだ。だから、ここを出る」

「まあ、それはたしかにねえ……」美也子はスクランブルエッグを口に運びよく噛んで飲み込んだ後で顔をかしげた。「まあ待っているよりはずっといいか。うん! でもさあ」

「なんだ?」

「向こうに行ったらあのガールズギアが襲ってきたらどうするのよ? それこそ向こうに迷惑をかけることになるわ」

「まあ、それはそうだけど」優人は焼き立てのトーストを一口入れたあとで彼女を見た。「本社にも警備用のガールズギアは配備されているし、そんなにひどいことにはならないと思うよ。オートマタメーカーやHAIを所有している企業というのは武力的も含めてセキュリティ厳しいし」

「なによそのポストアポカリプス」美也子がそう笑ったときである。

「ご主人さま」傍に控えていたユイリーがいつもの無表情でそう告げてきた。「速報です。アリステラ社がIAOなどに無断で新型HAIを建造していた模様です」

 そう告げると同時に立体ホログラムが表示され、そこにニュースチャンネルが映し出された。女性合成音声が、綺麗な日本語でニュースを伝える。

「速報です。超AI<メーテール>を保有するアリステラ社が、IAO、国際人工知能機構にモダンで新規にHAIを建造したという疑惑がIAOによって発表されました。このHAIは中小国家や企業向けに建造されたとされており、現在IAOなどがその所在を追っております。なおアリステラ社の広報はこの疑惑を否定しており……」

「アリステラ社が新型HAI?」そう尋ねた優人の顔は真顔そのものだった。今現在進行系の事件に関わる企業の案件だからもちろん興味があるのは当然だが、その姿勢はそれ以外のなにかもあるようにも周りには思えた。

「なによいきなり」美也子が目を丸くしたときである。

 突然、美也子のそばに立っていたユイリーと元は同型機のメイドオートマタの様子がおかしくなった。いきなり動作が停止し、床に崩れ落ちたのである。

「えっ、えっ!?」

「何者かのハッキングの模様です!」

「もしかしてあのコーモリ女!?」

「いえ異なります! いくつかの中継地を経由している模様! かなり遠距離からです!!」

 ユイリーが警告を叫び終わらないうちに、機能を停止したメイドオートマタがいきなりがくんと動き出し、再起動した。そのままゆっくり立ち上がる。

 目に光を宿したオートマタはあたりを見渡し、最後に優人を見つめると、安堵の声を上げた。

「ああ、あなたですね! わたしは超AI<エラスティス>、優人様、わたしを助けてください!」


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