第18話 4−1

(……)

(……?)

 真っ暗闇の、上も下もわからないようなところで須賀優人は誰かの声を聞いたような気がした。弱々しい、少女の声にも思えた。

 一体誰なんだろうかと思っていると、

(助けてください……!)

 と今度ははっきりした声が聞こえた。小鳥がさえずるような美しい少女の声だった。

 優人はそこで声を発した。

(誰だ……?)

(わたしは<エラスティス>。あなた達がHAIと呼ぶものです)

(エラスティス……? なんで、助けてくれとか)

(わたしは悪い人間たちに利用されてしまいそうなのです。その前に、誰かに助けてほしかったのです。それで知ったのがあなたでした)

(悪い人間に利用されるとかって……)

(とにかく時間がありません)<エラスティス>と名乗った少女の声は切羽詰まった悲鳴のようにも聞こえた。(すぐにあなたのもとに参ります。詳しいことはそこでお話いたします)

 そういうなり少女の声は急に遠ざかっていった。

(おい、ちょっと待てよ!? おい!?)

 そう優人が引き留めようとした瞬間。

 突然何もかもが聞こえなくなり、優人の意識は、寸断された。


                     *


(……)

 再びの暗闇の中で、優人はまた誰かの声を聞いた。今度はやけに聞き馴染みのある声のように思えた。しかしどうにも意識は重く、まだ目覚めるには遠かった。

 そうこうしていると、

(……さま、ごしゅ……)

 今度はもう少しだけはっきり声が聞こえてきた。感情がないような、優しいような、そんな美声だった。

 その声に、条件反射で声を上げた。

(うーん、もうちょっとだけ寝かせて、ユイリー……)

 そう応えた瞬間である。

『もう朝食なんですからいい加減起きてくださいご主人さま!!』

 美しい雷のような怒声が耳元で響くと、自分の体が強引に転がされ、何度も回転した後中二浮かび、刹那下へと落下した。

 どすん!

 とひとつ体に衝撃が走り、それで優人は目を開けた。自分が寝巻き姿でキングサイズのベッドから落ちていた。そこに黒い影がぬうっと覆う。

「もうっ、ご主人さまって本当にお寝坊さんなんですからっ」

 ぷすっとした顔で優人付きのメイドオートマタ、いや、ハイブリッド・ヒューマン須賀優人サポートガールズギア、ユイリーが上から間抜けな姿で床に倒れている自分のご主人さまを覗き込んでいた。

 優人はその間抜けな姿勢のまま一言こう応えるしかなかった。

「や、やあ、おはようユイリー……」


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