第14話 3−5
月明かりが、室内へと差し込んでいた。
その差し込んだ明かりの先、スイートルームの寝室のキングサイズのベッドに、須賀優人とユイリーの二人は並んで横になっていた。一糸まとわぬ姿で。
二人は眠っているように思えた。しかし、二人は起きていた。先の交わりの熱気か、それとも真夏の夜の熱気が眠りを妨げるのか、二人はただ天井を見つめ、黙っていた。
先に口を開いたのは、ハイブリッドヒューマンのサポートガールズギアであった。
「ご主人さま」
「……ユイリー?」
まどろみを隠しきれない様子の口調で優人が返す。
「一つだけ明かしたい嘘があります」
「明かしたい、嘘……って」
「わたくしは自らを自律型と名乗っておりましたが、あれは嘘です」
「自律型じゃ、ないって?」
「そのとおりです。わたくしはメイドオートマタからハイブリッドヒューマンサポートガールズギアへの改造時、律動形式の変更が行われました。わたくしは自律型ではなく、トライアングル形式ガールズギア、さらに正確に言えば、メインはネットワーク式駆動なのです」
「ネットワーク駆動って……」言いながら優人は起き上がった。「どこのネットワークに繋がっているんだ? <パンテオン›か?」
「それも可能ですが現在は接続しておりません」ユイリーも起き上がり、ベッドから降りると寝室の出口へと歩き出した。優人は慌てて降りると彼女の後を追う。
二人はスイートのリビングへと出た。そこには大小様々の、優人たちが持ち込んだガールズギア用の装備などが置かれていたが、その中でもひときわ目立つものがあった。
ユイリー用の<エクスセイバー›を始めとする、可搬式デバイス群であった。それらは専用の台座に置かれ、静かに鎮座していた。
それぞれのデバイスに設けられたアクセスランプなどのインジケータが、まるで生き物ように静かに点滅している。
「これらのデバイスによって構成されたプライベートクラウドネットワークにより、わたくしめの意識は駆動しています」
「お前が、これでか……」
「わたくしだけではありません」
「お前だけじゃない?」
「わたくしと共に行動している同型メイドガールズギアや、ドローンなども、このデバイスクラウドネットワークにより動作しております」
「あいつらもか……」
優人はリビングの奥の方を見た。ユイリーとともにアメリカからやってきたベースは彼女と同じメイドガールズギアが、直立型メンテナンスベッドに固定されて「眠って」いた。
「彼女らも同様にローカルクラウドネットワークによる半自律式駆動でございます。このデバイスによるクラウドネットワークは数、形式を問わず、コンピュータで制御されているものであればどのようなものでも駆動できるようになっております」
「どのような、もの、でもか……」
その言葉に、優人は「ある可能性」を連想した。しかし、それを言えば、自分の存在を否定しかねないことであった。それが怖くて、今はまだ、それを口にするのはやめておこうと、彼は思った。
「これがわたくしの吐いた『嘘』です」
そう言いながらユイリーは自らの裸身を優人のそれへと近づけた。機械のはずの体は火照っていた。
「これでわたくしを許してくれますか? ……ご主人さま」
言いながら彼女は自らの二つの瞳を自分の主人に見せた。その目は潤んでいた。まったく、人間の女めいた目であった。
美少女型オートマタの主人である男はしばらく彼女を見つめた後、
「許すも許さまいも、俺はお前の
そう告げた後、強く抱きしめ、深い口付けをした。
真夏の夜の夢は、始まったばかりだった。
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