第6話 暖かな日差し
顎下程だった髪の毛も日に日に伸び、肩より下にいくまでに伸びて大分雰囲気が変わった。夢雨が花を使ったヘアアレンジを教えてくれて、可愛く編み込みをしたりするのが日々の楽しみになった。
自然と笑顔も増えたし、最初とは印象がガラリと変わったような気がした。まるで、別人みたいに。少しずつ、仕事もこなせるようになり段々と彼のアシスタントも出来るようになって来た。
舞雨花期の半ばのある日、一件の依頼が舞い込んだ。それは、初めて私に宛てられた依頼だった。彼の元にも依頼があり重なってしまった為、その日は一人で依頼主の元に向かった。
街にある小さな公園のベンチで、少年は待っていた。茶色がかった髪に、右目の下のほくろが特徴的だった。何処か見覚えのある人に似ているような気がした、が気の所為だったみたいだ。
「お待たせしました。Porter Bonheurの楠木舞花です。早速ですが、依頼の内容を伺っても宜しいですか?」
「敬語はなくていい。ただ、話を聞いてほしんだ」
彼はそう言って胸のうちを明かすように、ぽつりぽつりと話し出したのだった。
「俺の友達・・・・・・のことなんだけど、そいつは今ある子に恋をしているらしいんだ。いつ、その恋心が芽生えたのかはハッキリと覚えていないって。だけど彼女といると楽しくて、時間があっという間に過ぎてしまうんだって笑いながら言ってた。ただ、告白する勇気が湧かなくてウジウジしているんだって、全く男らしくないよな」
彼は悲しく笑って話を続ける。
「それで、この前その女の子に向かって『お前なんかに花を向けるやつなんていないだろ』なんて言っちゃったんだってさ。彼女もその時は瞳を見開いて、溢れそうになる涙を抑えながらその場から逃げ出しちゃったって。全く酷いよな。何でも、彼女の前になると素直になれなくて、思っていたことと逆の事を言っちゃうらしいんだ。そんな・・・・・・って、姉ちゃん大丈夫か!?」
私の記憶はそこで完全に蘇った。この少年、何処かで見たことがあるような気がしていた。しかし、今違うと断言出来る。この少年は、中二の春に私に告白をしたあの
「ご、ごめんね。ちょっと辛いこと思い出しちゃって。それより、君。その話友達のことじゃなくて、君のことでしょう?」
「あ、やっぱりバレちゃったか。――それでもさ俺、あの子のことが好きでちゃんと気持ちを伝えたいんだ。だから姉ちゃん、花束を作ってくれないかな?」
彼の眼差しは真剣で、あの頃のままだった。その後、打ち合わせなどを交えながら彼との和やかな時間は過ぎていった。
「なんか、姉ちゃんあの子に雰囲気似てて、話してて落ち着いた」
なんて太陽のような笑顔で、そう言っていた。彼が去った後になってから私の胸の騒めきは、より大きくなった。中二の私がこの世界の何処かで生きているということが、より確実な現実味を帯びているものとなった。これは、偶然なのだろうか。それとも何かの定めなのだろうか――どちらにしろこの依頼は何とかして成功させなくてはいけない。少しの焦りと不安に苛まれながらも、私は奮闘したのだった。
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