第16話 〈特殊条件〉

□冒険者ギルド:2階会議室


冒険者ギルドで納品しようとした所受付の人に、2階の会議室に案内された。

担当の人が来るまで待つよういわれ、早々に持ち場に戻って行ってしまった。

仕方ないので、円卓の上に品質ごとに並べて待っている。


何時の間に部屋に入っていたのか、後ろからイリックさんに話しかけられた。

「久しぶりだなぁ、イザナ」

軽く手を挙げて挨拶してきた。


「こんにちわ?今日は基材のポーション納品をお願いしたいんですが?」


私がそう言うと、酷く疲れたような表情で円卓の上に並べてある基材を見た。

「あぁ。品質は問題なさそうだな?数も、まぁ常識的な範囲か…?」

品質ごとに分けられた山を〈鑑定〉しているようだ

「それにしても、異邦人の成長は早いなぁ…

この間あった時はまだこんな品質は作れなかったはずなんだがなぁ…」

ぼやきながらもその動きは淀みない。

「おぉ。品質値/10以上もあるのか!」


品質/7以上の基材の端数を手早く分けると、買取額を告げられた。


「品質値/6は単価:1,000D 869本で869,000D

/7が単価:1200D 2010本で2,412,000D

/8が単価:1500D 760本で1,140,000D

/9が単価:2000D 570本で1,140,000D

/10が単価:3000D 40本で120,000D

/11が単価:5000D 10本で50,000D 以上だ。

合計で5,731,000Dだ。口座振り込みで構わないな?」

実に淡々と買取は進む。


「はい。口座振り込みでお願いします」


「そうか。助かる。それじゃカードを渡してくれ。今振り込んでしまう」

イリックさんは私からカードを受け取ると、マジックポーチから水晶玉を出した。

カードを水晶玉に翳すと返却された。


「振り込んだ額を確認してくれ。問題なければ、今回の納品を終了とする」

言われるままにカードの入金ログを確認すると、5,731,000Dが振り込まれていた。


「はい。確認しました!ありがとうございました」


「おぅ!こっちこそ中々納品されない品質の基材が多くて助かった」

手を差し伸べられ、握手に応じると力強く握られた。

余程高品質の物は納品されないらしい。

その後買取したポーションを回収すると、早々に部屋から出ていった。


私も買取されなかったものを回収し、魔法ギルドに戻ることにした。


ふと、ギルドカードを見ると、先程の納品で1400万Dを越えていた。

魔法ギルドに戻る前に、本の代金支払ってしまおうかな?


それにしても意外と集まるものなんだね…


もう一度残高を確認してからカードを仕舞い、冒険者ギルドを後にした。


ギルドを出て左手に訓練場がある。今日は随分と掛け声が多いな。

何かあったのだろうか?


訓練場を軽く覗くと、獣人の教官が異邦人と思われる人達に指導していた。

素振りを正確に行ったり、訓練場の外側を走ったり、基礎的な訓練ばかりだ。

その割に異邦人は訓練を一定まで終了するたび嬉しそうにしている。



物理職のボーナスタイムなのだろうか?

よくわからぬ。


ん?獣人の教官に見られている気がする。

一礼してそそくさと退散する。


まぁいいさ。

工房の仮眠室へ急ぐとしようか。



魔法ギルド受付には相変わらず人がいない。

・・・ただ今日は人の代わりに動物がいる。


右の受付はいつも通り黒猫のジジ

真中の受付は・・・?何だろう?額に宝石があるリス?

左の受付にはカラス・・・?ただ色が白いので別な種かもしれん。


全ての受付の動物が私が魔法ギルドに入った瞬間こちらを向く。


どれも受付が人じゃないのに、人よりも働いている印象なのはなぜだろう?


全員凄い警戒感だ。


いや・・・ジジは私が来た理由分かるよね?アディの工房に行くだけですよ?


受付の横を通りアディの工房に向かおうとすると、

目の前に宝石を付けたリスが立ちふさがった。

後方はジジが抑えている。


もしかして此の黒猫ジジじゃない…?


「え~。私はアドリアーナの弟子のイザナです。

アディの工房に用があるので通してくれませんか?」

目の前のリスに話しかけてみた。

・・・あほっぽく見えるのでは?


「ククッ。ふふ。ふふふふふ( ´Д`)=3 フゥ」

急にどこからか笑い声が響いた。…最後にため息も。


「真剣にカーバンクルに話しかけるとか…w

異邦人って愉快な人の集まりなのかなwww」

煽りおる。アディの工房の入り口の部屋より奥にある通路から、

蒼いマントを肩にかけた魔法使いらしき男性が語り掛けてきた。


いつの間にか前をふさいでいたはずのリス改めカーバンクルが、

声の主のもとに駆けよっていた。



・・・無視して進んじゃダメかな?



「始めまして?私は『蒼の薔薇』所属の魔法師。マーク・リックウッドだ」

・・・今魔法師って言った?それとも魔法士?


「私はイザナ魔力使いで、アドリアーナの弟子です」


「ふむふむ。魔力使い…?アドリアーナの弟子なのだよね?」

怪訝そうな表情で聞き返された。

何か問題があるのだろか?


「あの、何か御用でしょうか?」


「いや?カーバンクルに真剣に話しかける人物を見て、珍しくてね?

不快だったならば謝罪しよう。ただ、君は召喚士系に進むのかな?」

茶化したような雰囲気だったのに、姿勢を正し真剣な表情で謝罪してきた。

意外だ。もっとふざけた人物かと感じていたのだが・・・?


「今の所まだ決めていません。ただ、現時点では召喚士系に進むと思います」


「ふむ。属性魔法を複数持っているのだから、魔法士系のほうがいいのではないかね?まぁいいだろう。もし、魔法士系に興味がわいたならば、

『蒼の薔薇』にきたまえ。歓迎するよ?」

最後に勧誘し一礼をしたと思ったら私の背後に出現し、ギルドの外に歩き去った。


・・・何だったんだろう?

最後のは転移魔法かな?


考えても仕方ない。

とりあえず工房に戻ろう。



工房に入るが、アディはいなかった。


まだ休憩中なのだろうか?


入口そばにある自室となった仮眠室に入り鍵を閉めた。

鍵と言っても閂の様なものだ。



そういえば、結局魔石を売り払うのを忘れてしまったな。

まぁいいさ。何時か何かで使えるかもしれないしね。


魔石は部屋の隅にでもまた積んでおくとしよう。

・・・正直邪魔だな。


準備OK扉を召喚しようか。

入口の扉に向けて手を向ける

『扉』召喚!


するとウィンドウが出てきた。


【『扉』が召喚されました】

【接続先を候補より選んで下さい】


【・〈放浪書店〉】


まぁ候補は一つしかないんだが。


【〈放浪書店〉に接続しますYes/No】


Yes


【接続完了しました】


目の前の壁に扉の輪郭が浮き出て、次の瞬間なんでもないかのように出現した。



扉をくぐると、以前来た時と同じ店が私を迎える。


「いらっしゃい。随分早い再訪だね?」

相変わらずカウンターで本を開いて読んでいたようだ。


「料金の支払いに来ました」

近づき、ギルドカードを差し出す。


「クククッ。やはりね?お前さんならやれると思ったんだ」

カードの残高を確認して笑い出す。

読んでいた本を閉じ、カードをカウンターの上にある水晶玉に翳すと返してきた。


「うむ。これで前回の物はお前さんの物だ。追加だ」

カウンターの下から前回と同じような黒い表紙の本を複数出してきた。


「もう金はないぞ?」

そう。すでに稼ぐ意欲もほとんどない。

正直単純作業に飽きた。・・・錬金ならいいかな?


「あの本は分冊だ。今回出したものまで含めての価格だから安心しな」


「1冊だけでも進化系統開放だったはずだが?」

1冊だけだと進化系統は解放されても進化できないとかかな?


「おいおい。あの本は、だっただろう?

あの本だけじゃ半端なのさ。これらも全て使用することで完結する。

それはもうお前さんの物だ。使用してみるといい」


「そうか?なら遠慮なく」


前回と同じように本を開くと、他の本も連鎖して開き始めた。

私の体から魔力が強く励起し、それに反応するかのように他の本も魔力が強まる。


開かれた本からは複数の魔法陣が展開され私を加工用に球状になる。

前回スキルブックを使用したよりも光の密度が濃い。


様々な発色を繰り返し、いつしか私を中心とした衛星が浮かび上がる。


       ・・・まるで宇宙のようだ。

   

     神秘的なこの一瞬が永遠に続けばいいのに…


それらの星々は光が収束していくごとに私に取り込まれていく。

  

        あぁ・・・終わってしまう・・・

     

          

     

《特殊条件:〈―――――〉を全て使用しました》

《〈進化/系統〉〈起源/血統〉〈循環/儀式〉〈王権/信仰〉〈誓約/制約〉》   《各条件が解放されました》

【《成長の成約》《始祖の血脈》《無欲の大罪》《王権の起源》《無辺の願望》】

《進化の際ルーツを作成できます》

《特殊進化条件が成立しました》

《進化を実行しますかYes/No》

《選択されるまで、選択肢は表示されます》


・・・?

種族何さ?


「あははははははははははははははは!!」

私の様子を見て店主が爆笑している。…神秘的な雰囲気の余韻ぶち壊しなんだが?


「君はどの可能性が開かれたのだろうね?」

意味深に微笑むと・・・爆笑が再開した・・・


だから、雰囲気ぶち壊しだって!


◇◇◇


あれから10分程


「ごめんねぇww君が急に【・・・まるで宇宙のようだ】なんて言い出すからw」

・・・殴っていいかな?むしろ魔法のほうがいいかも?


私の表情を見て察したのか、慌てて謝罪してくる。・・・口の端がにやけながら。


「んん!えっと条件達成おめでと!」

急に真顔になった拍手してくる。


「ありがと?あれはいったい何なのさ」

未だに視界の端にウィンドウが開き続けている。


「ん~?何と言われても、アーティファクトの一種としか知らないんだよね?」


「はぁ!?」


「あの書籍は使用者の行動により可能性が決まる。らしい」

指で頬を掻きながら説明してくれた。

「詳しくは知らないんだが、あの本に出会ってからの行動により、

共鳴する本が変化するらしい。そして内容も最初の1冊以外は異なる。

正確には、最初のそれだけが共通だ。

他の本との共鳴により内容が変質する。って鑑定に表示された。

その際、個人の行動や素質により多種多様な可能性を生み出すそうだ」

そういえば鑑定してなかった。


「・・・今までに使用者は?」


「聞いたことが無いな?儂は開けんかったからの!」

おい!そんな危ない商品を人に売るなよ!

しかもうれしそうに語るな!


「それに、アーティファクトは使用者を選ぶ。

それが選んだのがお前さんだったのは、異邦人だったからか、

未だ進化もしていない可能性の塊だったからなのかは不明だ」

真面目な顔をしているが・・・そのにやけた顔隠せてないぞ?

でも、使用できるものがいないって、ただの不良在庫では?


「ふむ?それはこの店に召喚された特殊な本の一種だ。

〈魔書〉〈魔典〉なんかはこの店に召喚された類だな」


「店が召喚?店に召喚じゃなくて?」


「この店自体が儂のアーティファクトだ。

尤も召喚されるのは儂には使えんものばかりだがな?」

小さくウィンクしてきた。


「店がアーティファクトって珍しいのでは?」


「だろうな。儂もこの店以外聞いたことが無い。

尤もアーティファクト自体珍しいものだからな。

世界中探せばどこかにはあるかもしれんがな。

ふむ。それはともかく、他にも何か買っていくか?」


「いや。金欠なのでこれで帰るよ。またお金が溜まったら来るさ」


「おう!たっぷり儂をもうけさせてくれ!」

そう言うとまた来た時と同じように本を開き読み始めた。


無言で一礼すると、踵を返し店の扉を出る。


( ´ー`)フゥー...

色々疲れた・・・

とりあえ・・・進化の前にスキル取得かな?



Jobスキル取得一覧

〈闇属性魔法〉6P New

〈無属性魔法〉6P New


うん両方取れるね。取得っと



『〈闇属性魔法〉6Pを取得しますか?Yes/No』

Yes!

『〈闇属性魔法〉を取得しました』

《称号:【〈闇属性〉の入門者】を獲得しました》


『〈無属性魔法〉7Pを取得しますか?Yes/No』

Yes!

『〈無属性魔法〉を取得しました』

《称号:【〈無属性〉の入門者】を獲得しました》


うむ。全部取れたが、特に目新しい称号なんかはないみたいだね。

6属性だと全てではないのかな・・・?


進化は…アディに聞いてから決めようかな?

どちらにしろ、そろそろ落ちないと。

昼食の用意や、他に雑事も済ませなければ…


ログアウト!



◇◇◇



NAME:伊舎那イザナ

RACE :ヒューマン/26〈1〉

AGE:15 /15〈0〉


Job:魔力使い/21〈1〉

Sab:薬士/23〈1〉

残JP〈10〉


HP:45 〈0〉

MP:228〈28〉[+120][+90][+10]合計値:476

SP :100 〈10〉


STR:(筋力) 5 〈〉

VIT:(頑強) 5 〈〉

AGI :(敏捷)   5 〈〉

DEX:(器用 ) 16〈2〉

INT:(知力) 37〈6〉

MID:(精神) 16〈2〉

LUC:(幸運) 5 〈〉

残ステータスポイント〈16〉

スキル

Job

魔力系

〈魔力操作/20〉〈術/20〉〈魔力術/18〉

〈属性適正/18〉

〈火属性魔法/9〉〈水属性魔法/4〉〈風属性魔法/14〉〈土属性魔法/4〉

〈光属性魔法/4〉

生産系

〈調合/15〉〈錬金/11〉

Status

〈器用強化/2〉〈知力強化/2〉〈精神強化〉

Common

〈採取/14〉〈植物知識/2〉〈鑑定/16〉〈識別〉

Unique

『扉』:〈放浪書店〉


称号

〈術〉の入門者/2〈1〉:MPに〈術〉x10の追加補正

〈魔力〉の入門者/1〈1〉:MPに魔力系スキルx10の追加補正

〈火属性〉の入門者/1〈1〉:火属性使用時、消費MP:〈1〉減 

〈水属性〉の入門者/1〈1〉:水属性使用時、消費MP:〈1〉減 

〈風属性〉の入門者/1〈1〉:風属性使用時、消費MP:〈1〉減 

〈土属性〉の入門者/1〈1〉:土属性使用時、消費MP:〈1〉減 

〈光属性〉の入門者/1〈1〉:光属性使用時、消費MP:〈1〉減 

〈魔法使い/見習い〉/1〈1〉:魔法スキル使用時、消費MP:〈1〉減

〈アドリアーナの弟子〉/1〈1〉:MPに+10補正

※消費MP:〈1〉以下にはならない

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