第5話 〈術〉

□魔法ギルド:アデリアーナの工房


「魔力使いの訓練を始める前に、その椅子にかけて楽な姿勢をとり賜え」

調合台の先程まで利用していた木の椅子に座る。


「ふむ。では〈魔力使い〉というジョブについてどこまで知っているかな?」

「えっと、Jobスキルが魔力操作で、

 ジョブ補正が魔法向きということしか知りません」

「なるほど?では最初から行こうか。ジョブ補正に関して簡単に説明しようか。

 ステータスの能力値の横にある〈〉内の数字がジョブの基本補正だ。

 ジョブレベル10ごとに基本補正分ジョブ補正が増加していく。

  次に魔力使いのJobスキル〈魔力操作〉とは、

 魔法系ジョブ・魔法系スキルの根幹となるものだ。つまり、持っていないと魔力 を使った特殊技能〈スペル〉が使いえないということだ。」

「〈魔力操作〉のアーツは、〈エナジー・ボルト〉でしたよ?

 アーツとスペルは違うものなのですか?」

「ふむ。いい質問だね。〈アーツ〉とはスキルに付随する能力だ。

魔法技能取得時に基礎技能を獲得する。基礎技能は〈術〉に記録されない」


「基本的に〈スペル〉とは魔導書・魔術書・魔法書等、特殊な〈秘跡〉を使用

または理解することでJobスキルの〈術〉に記録され、使用できるようになる。

最終的に術が記録されると、自分で登録された内容を改変できるようになる」


「今回はそのための基礎となる〈魔力操作〉の訓練法を教えるわけだ。

物理系戦闘職の場合〈スペル〉とはまた異なる存在がある。

そっちは専門職に聞いてくれ。ところで君はJobスキル〈術〉を持っているかな?」


「持ってないです。」


「ふむ。なるほど?では先程のJPを利用して〈術〉をとるように。

 Jobスキルの取得方法はわかるかな?」

無言で首を横に振った。


「ふむ。〈術〉スキルは共通Jobスキルに含まれるからね。

 スキル欄のJobを押してみるといい。

 条件を満たしたものが表示されているはずだ。」

(・_・D フムフム


『Jobスキル取得画面を開きますか?Yes/No』

Yesで。


Jobスキル取得一覧

〈術〉1P New


まだ〈術〉しか解放されていないようだ。


『〈術〉1Pを取得しますか?Yes/No』

Yes!

『〈術〉を取得しました』

《称号:【〈術〉の入門者】を獲得しました》

『〈術〉を取得したことにより〈魔力術〉が解放されました』

称号…?


「〈術〉と称号を獲得しました。称号って何ですか?」


「ふむ。称号は基本的に一部のスキルを取得した際獲得できるものだね。

 持っているだけで簡易的なバフが発生するから持っていて損はない。

 まぁスキルも取得したことだし、訓練を始めようか」


「はい!でも今更ですが工房で訓練して大丈夫なんですか…?」


「問題ないよ。今からやるのは〈魔力操作〉と〈術〉に触れることだからね」


術って攻撃とかじゃないの?


「不思議そうだね?まず手を出してごらん?」


言われた通り右手を出してみるとアディ―が手を翳してきた。

ん?何か冷たい・・・様な・・・?


「感じたみたいだね。今感じている冷たさが魔力だ。

 目をつぶって魔力を感じている手に意識を集中しなさい」



目を閉じ、右手の感覚に意識を向ける・・・?


私の手からも何か冷たいものが出ている?


「アディ私の手かあら出ているのって魔力ですか?」

「そう。制御できていない魔力が、外部から刺激を受けて漏れている状態だね」

「制御ってどうすれば?」

「それが今回の訓練さ。今漏れ出ている魔力に意識を向けて、

 体内の魔力が発生している大本を感じてごらん?」


「了解」


再び目を閉じ魔力を感じている右手に意識を向ける



右手では冷たさを感じている…その冷たさに揺らぎを感じる…


この揺らぎが漏れ出ている魔力なのかな…?


深く…静かに…魔力の揺らぎに輪郭をつけて揺らぎの形を意識する。


揺らぎの形が感じられてきた…

《〈魔力操作〉に〈パッシブアーツ:魔力感知〉が発生しました》

アナウンスに驚き目を開く。

「うぉぅ!って体が薄っすら光ってる…?」

「その様子じゃ、見えたようだね。それが魔力だ」

「なるほど…?ところでアーツって増えるんですか…?」

「条件を満たせば増えるさ。それまでできていたことに+補正が加わるから、

〈アーツ〉が発生すると、それまで以上の成果が出るのさ。」

「では、アーツを沢山取得すれば早く強くなれるとか?」

「ふむ?アーツにも熟練度が存在するから一概にそうとは言えないな。大量にアーツを持っているものより特化した一つを持っている方が強いことも間々ある。

それに、上級のアーツや特殊アーツなんかは取得にJPが必要になることもある。

JPはスキルの取得や、場合により転職でも使うことがある」


「なるほど…」

「ほら。そんなことより〈魔力感知〉のアーツを取得したのだから、

 もう一度魔力の発生場所を確認してみなさい」

「はい!」

眼を閉じて〈魔力感知〉を意識してみる。



先程までより鮮明に感じる…。いやみえる!見えているといっても過言では無い。

これが〈魔力感知〉…。


体の中に意識を向けると魔力が渦を巻いている場所が2か所あった。


心臓部に大きな渦が、頭に小さな渦が・・・ん?

渦に見えるのはぶれているからか…?本来は光の玉の状態なのか?


魔力の渦を整えようとイメージしてみる…少し端が動いたかな…?

四苦八苦して魔力を玉の状態になるよう整えてみた。


少し乱れがあるがだいぶ良くなってきたかな・・・?


「ふむ。目を開きたまえ」

アディの声に反応して目を開く…なぜだろう…頭がぼーっとする…


視界には光らなくなった自分が写る。

「気分はどうだい?初めてで魔力操作を始めるとは思わなかったが、

意外とうまくできているね?魔力の大本を操作するのが基本だ」

「頭がぼーっとします…なんか疲れた…」


「ふむ。普段使わない筋肉を使うと急に疲れるのと理由は同じさ。

慣れればどうということはない」


目を開いてから段々と思考が戻ってきたようだ。


むしろ、訓練を始める前よりすっきりしている…?

次の瞬間アナウンスが流れた。

《レベルアップ:【種族:ヒューマン/3】〈1〉》

《種族レベル上昇によりステータスポイントを〈1〉獲得しました》

《レベルアップ:【魔力使い/2】〈1〉》

《Jobレベル上昇によりJPを〈1〉獲得しました》

《レベルアップ:〈魔力操作/2〉》

アナウンスが流れた瞬間、魔力の光が身体から溢れるのが見えた。


!?

レベルアップって魔力溢れてるの…?

「レベルが上がったね。不思議そうな表情だな?魔力が溢れるのが不思議か?」

「え、えぇ。レベルアップで何で魔力が溢れるんですか…?」


「実際のところまだ分かっておらん。もしかしたらこの世界のどこかには、知っている人物がいるかも知れないが、まず私は聞いたことがない」

「なるほど?」


「ふむ。〈魔力操作〉の訓練はこのくらいでいいだろう。さっきやっていた魔力を感じ、魔力の形を変化させるのが訓練の基本だからな。なるべく毎日やるといい。〈魔力操作〉が熟達することで使用できる術に幅が出るからね」



「次は〈術〉の訓練と行こうか。何、危険なことなど何も無いよ。

 そんな緊張にしなくていい。内容はこの本の表紙の模様に触れることだけだ」

アディが右手を翳すと空間に歪みが出来た。

先の見えない黒い渦が歪に揺らいでいる。

そこに躊躇なく手を入れて取り出されたのは、古びた革の装丁の本だ。

表紙に魔法ギルドの扉にあったものと同じ模様が描かれている。

今ならわかる。魔法ギルドの前で受けた圧迫感の理由は〈魔力〉だ。

〈魔力感知〉によって、本の模様から噴き出る圧倒的な〈魔力〉がわかる。


私の体の中にある魔力を含めても尚余りある量だ…


「どうしたんだい?・・・あぁ。魔力に圧倒されているのかな?」

アディの声がするりと染み渡る。圧倒されたせいで、意識が飛んでいたようだ。

私が感じる範囲ではアディの魔力は全く感知できない…

なのに今はこの〈魔力〉が噴き出ている本よりも恐ろしく感じる


「ふむ?心を落ち着けて、深呼吸をするんだ。

 目を開いて魔力ではなく、実体を見るんだ。

 恐れるな。そこにあるのは君の助けになる存在だ。

 だが、ただの本でしかない。飽くまでもただの本だ。

 君を害することが出来るわけでも無いし、私が害させない。

 だから安心してほしい」

アディの聲に導かれるまま、いつの間にか浅くなっていた呼吸を整える。


目を開き革張りの古びた本を視認する。


よく見ると魔力は模様から延々と噴き出ているが、


空気に溶け込む様に消えていっている。


何を恐れていたのだろう…?


いや、新しく〈魔力感知〉を獲得したせいで、慣れない感覚に振り回されていただけだ。特に問題もない。恐れも収まった。


「フゥー...」

細く長く息を吐いた。


「ごめんね。アディ。助かった」

「ふむ。問題なさそうだね?では気を取り直して模様に触れてみて?」

言われるままに模様に触れると、体の中に何かが書き込まれているように感じる。


「感じているかい?書き込まれている存在。それが〈術〉だよ。

 白紙の紙に魔力の使い方が書き込まれている。

 君の魔力操作が急速に成長し始めたのを実感できるかい?」


なるほど確かに…さっきまで独力で行っていた事が、洗練されて行くのを感じる。


《レベルアップ:【種族:ヒューマン/4】〈1〉》

《種族レベル上昇によりステータスポイントを〈1〉獲得しました》

《レベルアップ:【種族:ヒューマン/5】〈1〉》

《種族レベル上昇によりステータスポイントを〈1〉獲得しました》

《レベルアップ:【種族:ヒューマン/6】〈1〉》

《種族レベル上昇によりステータスポイントを〈1〉獲得しました》

《レベルアップ:【魔力使い/3】〈1〉》

《Jobレベル上昇によりJPを〈1〉獲得しました》

《レベルアップ:【魔力使い/4】〈1〉》

《Jobレベル上昇によりJPを〈1〉獲得しました》

《レベルアップ:【魔力使い/5】〈1〉》

《Jobレベル上昇によりJPを〈1〉獲得しました》

《レベルアップ:〈魔力操作/3〉》

《レベルアップ:〈魔力操作/4〉》

《レベルアップ:〈魔力操作/5〉》

《レベルアップ:〈術/2〉》

《レベルアップ:〈術/3〉》

《レベルアップ:〈術/4〉》

《レベルアップ:〈術/5〉》


《特殊条件:〈魔力操作/5〉により〈属性適正〉が解放されます》


一気にレベルアップしたようだ。


《ワールド:〈特殊条件〉を初めて達成したプレイヤーが現れました》

《ワールド:〈特殊条件〉は難易度様々世界中に存在します》

《ワールド:〈特殊条件〉の達成により様々な特典が発生します》

《ワールド:〈特殊条件〉はプレイヤーより知ることで権利を喪失します》

《ワールド:〈特殊条件〉達成者は得た特典の内容のみ報告可能》

《ワールド:リアルで情報を入手した場合も含みます。※脳波判定》

《ワールド:〈ヘルプ〉に『〈特殊条件〉について』の項目が追加されます》

《ワールド:注意事項等をお確かめください》


「んぅ~まぶしい…」

身体が急に輝く。目に悪いな…運営に報告しとこうか。

ん~、プレイヤー初?


"社員でもプレイヤーの個人情報の閲覧不可″と需要情報にあったのは、

脳波判定の為だったのか・・・?


「ふむ。成功だね。それが術の基礎だ。術の基礎に触れた君は〈属性適正〉が解放されているはずだ。〈属性適正〉を取得すると〈属性魔法〉が解放される」


「〈属性魔法〉を取得したら晴れて魔法使いを名乗ることが出来るようになる」


「今教えられることは凡そ終わった。あとは実際に使ってみることだ。

しばらくは南門の先の草原なら採取もできるし、戦闘もしやすいはずだ」


「何かわからないことがあればまた来るといい」



「ありがとうございました」

アディは薄ら微笑むと先導して魔法ギルドの外まで付き添ってくれた。


《イベント『魔法ギルド所属:アドリアーナ/魔力使いの基礎』を達成しました。》


「あぁ、森には絶対に入らないようにね?今の君じゃ死ぬだけだからね」

・・・最後に不穏な一言を付け加えて。



NAME:伊舎那イザナ

RACE :ヒューマン/6〈1〉

AGE:15 /15〈0〉


Job:魔力使い/5〈1〉

Sab:薬士/2〈1〉

残JP〈4〉


HP:45 〈0〉

MP:160〈17〉[+50]

SP : 85 〈5〉


STR:(筋力) 5 〈〉

VIT:(頑強) 5 〈〉

AGI :(敏捷)   5 〈〉

DEX:(器用 ) 13〈1〉

INT:(知力) 28〈3〉

MID:(精神) 13〈1〉

LUC:(幸運) 5 〈〉

残ステータスポイント〈5〉

スキル

Job

〈魔力操作/5〉New!〈術/5〉New!

〈調合/2〉〈錬金〉

Status

〈器用強化〉〈知力強化〉〈精神強化〉

Common

〈採取〉〈植物知識/2〉

称号

〈術〉の入門者/1〈1〉:MPに〈術〉x10の追加補正 New!



〈術〉

 スペル枠獲得 ※最大数は〈術/-〉に依存。


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