第一章 大暴走《スタンピード》

第4話 〈助言〉

□始まりの町アデーレ広場噴水前


では、World Nest/Another世界の深部へ至るあなただけの冒険を始めましょう!

その言葉が聞こえた直後、周囲から音も色も消え去った。

次の瞬間、淡い光に再度包まれ、最初にいたと思われる広場に転送された。


自動的に『初心者魔力使いの装備一式』が装備状態になっているようだ。



こうして私は、〈World Nest/Another〉の世界に足を踏み入れた。



さて、どうしようか?とりあえず、持ち物の確認かな?


着ているものを見てみると薄墨色の丈の長いローブだ。

効果が見たいなーなんて思っていたら、ウィンドウが表示された。

他の装備も一通り確認してみた。


初心者魔力使いのローブ:初心者魔力使いに配布されるローブ ※〈鑑定〉

初心者魔力使いの尖がり帽子:魔法使い風の尖がり帽子 ※〈鑑定〉

初心者魔力使いの飾靴:靴は先がとがって見える布張りの靴 ※〈鑑定〉

初心者魔力使いのバングル:細かな文字が刻まれた鈍色のバングル※〈鑑定〉


〈鑑定〉スキルが無いと装備の詳細が表示できない様だ。

・・・どこで取得できるんだろう?


見た目だけなら魔法使いといえるかな?

…杖がないが。まぁそのうち必要そうなら用意しよう。


マジックポーチはローブの内側腰に装備している事を確認。

マジックポーチに触れると所有金額と、初心者用ポーションが表示される。

所有金額は10000ディン。

全額取り出してみると、500円玉サイズの銅貨(?)が一枚だけ。

もしかして、少ないのでは…?近いうち金策しなくては!


初心者用ポーションは各5個あるようだ。

初心者ポーションを取り出して見てみる。

それぞれ色が違うようだ。


HPポーションは僅かに紫がかった赤。

MPポーションは瑠璃色の様な青。

SPポーションは蜂蜜の様な黄色。


アイテムは視認するとアイテムの簡易説明が表示されるようだ。

初心者用HPポーション:HPを最大値の50%回復※種族レベル20以上使用不可

初心者用MPポーション:MPを最大値の50%回復※種族レベル20以上使用不可

初心者用SPポーション:SPを最大値の50%回復※種族レベル20以上使用不可


初心者ポーションは種族レベル20まで最大値の50%回復。効果が素晴らしいね。



広場の北側にある大通りに向かう人や馬車などをよく見掛ける。

ふむ、Jobのこともよくわかってないし、ギルドで教えてもらえないかな?



そんなわけで広場北側にある冒険者ギルドにやってきたわけだが、

総合受付は結構人が並んでいるようだ。装備から見て、プレイヤーかな?

素材買取所の受付は誰も並んでいないようだ。

ダメもとで少しお腹の出た人のよさそうなおじさんに聞いてみた。


「失礼、私は魔力使いで冒険者の駆け出しなのですが、

 助言をいただけるような人の紹介ってお願いできませんか?」


「ん?今は人がいないからいいけど、基本的に総合受付で聞いて下さいね?

 魔力使いの助言ができるっていうと、職業ごとに専門のギルドがあるからそっち に行ってみたらどうだい?魔法ギルドの場所はこのメモに書いてあげるから」


魔法ギルドの場所を紙に書きこんで渡してくれた。


一礼してメモを受け取るとマップに印が追加された。

裏通りに入って冒険者ギルドの対面にあるようだ。



ギルドを出て左側に行くと左手に訓練場がある。その先の角を左に入っていくと魔法ギルドのある通りだ。大通りほどではないけれどしっかり道も整備されていて、学者風の人や魔法使い風の人が行き来している。


魔法ギルドの前に来たが、木造の建物なのに何故か威圧感を受ける。


大きさは冒険者ギルドより大きいように感じる。


魔法ギルドの扉に装飾がされている。

銀色の本の表紙に円の中に短杖と長杖とが交差するように描かれている。


ん?円は模様かと思ったが自らの尾を飲み込む蛇が描かれているようだ。


「どうしたのかね?中に用事があるのでは?」

急に背後から声を掛けられ振りむくと…誰もいない?

キョロキョロと周囲を見渡していると再び話しかけられた。


「ふむ?最近の若者は挨拶を行わなくなったのかね?」

声は足元から聞こえていた。ハッとして足元を見ると毛艶の良い黒猫がいた。


「いつまでもその場所にいるつもりだね?他の利用者の邪魔になるだろう?」

穏やかな女性の声で、お叱りを受けた。


「失礼、私の名前は、伊舎那という。あまりにも扉の細工が美麗だったため少々見惚れていた。あと私の常識では、猫はしゃべらなかったはずなのだが…?」

「ふむ、なるほど。君は異邦人か。とりあえず中に入りたまえ。話は中でする」


黒猫は足元をするりと抜けると扉に鼻先を”ちょん”と触れた。

次の瞬間扉が左右に割れ内側に開かれていった。

自動ドアだったのか…?木造なのに進んでるな。


黒猫に先導されるように入ると、

ギルドの奥から幾つもの棚が並び、

棚には大量の書籍が詰まっていた。


「凄いな…」


黒猫は真っ直ぐ3席並ぶ正面カウンターの右端に進んでいき、

カウンターの上に飛び乗るとこちらを振り返りゴロリと横になった。

他のカウンターは誰もいない。留守のようだ。



黒猫のいるカウンターに近寄ると自己紹介を受けた。

「魔法ギルドにようこそ、歓迎するよ?

 私はアドリアーナという。アディでいいよ」

黒猫の口が動いていないのに、言葉が聞こえてくる…不思議だ。

「了解したアディ。アディは黒猫なんですか?」


「ふむ?なるほど異邦人はその辺の知識もないんだね。この子の名前はジジ。

 私の使い魔さ。今は感覚憑依を行ってジジを基点に魔法で話しているだけさ」

「なるほど?使い魔(?)だったのか…」

使い魔って、魔女のイメージでいいのかな…?


「ところでうちに何か用があったようが?」


「あぁ、実は冒険者ギルドで魔力使いに関する助言を求めたら、

 こちらのギルドを紹介をしていただいたのです。」


「ふむ?珍しいね。証明できるようなのはあるかな?」


「メモを戴きました」


「見えるようにカウンターに乗せてくれるかな?」


言われるままにメモを置いた。

黒猫はメモの香りをかいでいるようで、

ひとしきり匂いを嗅いで満足したようだ。


「ふむ?まぁよかろう」

ジジが前足でメモを押し出してきたので慌てて受け取る。


「冒険者ギルドからの紹介でもあるし、

今日は魔力使いとしての基礎を教えてやろう。

しかし、一時とはいえ私に教えを乞うのだから、

それなりに覚悟があるという事でいいのかな?」

目の前の黒猫から威圧感を感じる。


その時、ウィンドウが現れた。


《イベント『魔法ギルド所属:アドリアーナ/魔力使いの基礎』が成立しました》

《イベントを進行しますか?Yes/No》


「はい。初心者ではありますが、宜しくお願いします」

「わかった。〈魔力使い〉の基礎を教えてやろう」

自動的にYesを選択したことになったようだ。

《イベント『魔法ギルド所属:アドリアーナ/魔力使いの基礎』を進行します。》


「うむ。では最初に言っておくことがある。」

「はい。なんでしょうか?」

禁止事項か何かかな…?


「私の仕事の手伝いを行ってほしい。異邦人が大量に現れたせいで、

 冒険者ギルドの方でもポーションが足りないようなんだ。

 納品を大量に依頼されているからね。〈調合〉か〈採取〉を持っているかな?」


「調合と採取どちらも持っています」


「ふむ、なるほど。ならば現在のJobは魔力使いと薬士だな?

〈調合〉があるようだし、調合作業の方を手伝ってもらおうかな?

ジジのあとをついてくるように。私の工房に案内する」


言うが早いか黒猫はカウンターを飛び降り、壁の右奥に歩いていく。


左手の壁に扉の空いている部屋がある。


床に魔法陣が展開されている。


部屋に入ると魔法陣が輝き、次の瞬間転移した。


慌ててその部屋に入っていくと再び魔法陣が輝いた。

次の瞬間、視界が暗転。



一瞬の浮遊感を感じると、

「ようこそ私の工房へ!」

若い女性の声が聞こえてきた。

黒猫は声の主の横にある猫用の寝床と思われる場所で丸くなっている。


「あなたがアディでいいのですか?」

「そうだよ。私がアディだ」

穏やかそうな風貌で引き付けられる雰囲気を感じる不思議な人だ。

「思ったより若く見えて驚いたかい?」


「えぇ。おいくつなのでしょうか・・・?」


「ふむ。100歳を超えているとだけ言っておこう」

!?

しかし、20代にしか見えない…

NPCの寿命は100年以上…?

「ふむ。君が思っていることは正しい様で違う。

条件を満たすことで転生をすることが出来る事は知っているかい?」


「はい。聞いたことがあるだけですが」


「転生を行うと、寿命がリセットされるのだよ。

場合によっては若返りなども可能だ。

それに若返りの効果を持ったアイテムもある。

だから外見等あてにならぬよ。」


「なるほど…?」



「さて、雑談はここまでにして、早速調合作業を始めようか」

先程までの雰囲気ががらりと変わる。

引き付けられる雰囲気そのままに、ピリピリとした肌に感じる威圧感。

カリスマ性とでもいえばいいのだろうか?

「まずは手本を見るからよく見ていて。わからなければ質問して。

 使う素材はベル草と水だ」


渡されたベル草と水の説明を見てみる


ベル草:小さな鈴が垂れているように見える花をつける草 どこにでもある

特定の手順を踏むことでポーションなどの素材となる


浄化水:通常の水に浄化を行うことで薬効が溶けやすくなっている

浄化により作成されたポーションの消費期限が長くなっている


ポーション二本分の素材 ベル草1本・水100cc

1・茎が付いていれば花弁と茎の境で切り落とす。茎は使わない

2・ベル草を軽く清潔な水で洗う

3・乳鉢で雄蕊・雌蕊と花びらを全体的に押しつぶすように磨り潰す

4・磨り潰したものを調合鍋に移す

5・少しずつ水を加える 約100cc 

6・沸騰しない程度に加熱し、甘い香りが出てきたら火を止める

7・常温に冷やす。

8・残っている固形物を濾紙で濾過する

9・薬液を瓶に移して完成


早い…流れるような作業で、手が止まることなく作業が進む。

3分もしたら完成したようだ。


「チェックの基準は常温に冷やして1分程で薄緑色になる。

 発色がエメラルドグリーンに近いか否か。

 濁っていたり、薄かったりすると失敗だ。わかった?」


「はい!」


「試しにやってみて」

アディが使っていた調合台の隣の台に誘導され、素材が渡される。

手順通り花弁の下で切り取り、調合台にある流しで軽くすすぐ。

手順通り作ってみたものの、色が濁っており一目で失敗だとわかる。


「磨り潰しが足りないね。上から力を入れて押し潰すより、斜めに突き入れるよう に磨り潰したほうがいいかな?」


「了解」

2回目にチャレンジ

磨り潰しに注意し、黙々と作業を行っている。

今度は少し薄いが奇麗な発色だ。成功かな?


「うん。いい感じ。少し沸騰しちゃったから薬効が飛んじゃったみたいだけど、

 十分合格点だせるね」


「よし!」


「この工房内では〈鑑定〉スキルがなくても、

生産物の内容をある程度詳しく確認できるようにしてある。

折角だ、自分で確認してみるといい」

言われるままに確認してみる


ポーション/1〈1〉

HP:10回復  CT:15分

消費期限:10日 

少量HPが回復する。


「ポーション/1〈1〉ってなんだろ?」

「品質値とレア度ね。品質はスキルの効果で上がるけど、

 レア度は素材や特定手順を行う等でしか上がらないわ。」

「なるほど。ん?このCTって何ですか?」

「CT:クールタイム一度利用してから、再度効果が発揮するまでの時間ね」

「では、このポーションは失敗作…?」

「納品対象にできるのはHP:60 CT:10分 からね。

 品質でいうところのポーション/6ね」

「わかりました。もう一回やってみていいですか?」

「うん。個々の部屋の素材がなくなるまではいくらでも。

 私は私で納品の為に作ってるから、自由に作ってていいよ」

アディは何やら魔法陣らしきものが描かれている台座に素材鍋に入れて置くと、

鍋が内側から光ったと思ったら鍋一杯のポーションができていた。

「なんですかそれ?」

「これは錬金の技能だ。君にはまだ早い。あとで教えてやろう」

師匠はベル草10本でポーション20本分を一度に作っている。

錬金技能を教わるためにも、ポーション作成頑張ろう。



20分近く黙々とポーションの作成をしていると、

ポーション/5〈1〉ができた。

そこでメッセージウィンドウが現れた。

《レベルアップ:【種族:ヒューマン/2】〈1〉》

《種族レベル上昇によりステータスポイントを〈1〉獲得しました》

《レベルアップ:【薬士/2】〈1〉》

《Jobレベル上昇によりJPを〈1〉獲得しました》

《レベルアップ:〈調合/2〉》

《レベルアップ:〈植物知識/2〉》

いろいろレベルが上がったようだ。

「レベルが上がったようだね?JPは後で使うから取っておきなさい」

「了解」


スキルレベルの補正がどんなものか、もう一回作ってみようか。

再度挑戦してみる


ポーション/6〈1〉

HP:60回復  CT:15分

消費期限:10日 

少量HPが回復する。


おぉ!遂にポーション/6ができた。


再度調合を行ってみるとこちらも品質値/6ができた。

2回連続で品質値/6ができたので師匠に見せに行ってみる。

「どうでしょうか?」


「ふむ。普通に使えそうだね。合格基準に達したものは、

 君から冒険者ギルドに納品するといいだろうね」

つまりは品質値/5以下のポーションは納品不可ってことだ。

まぁ、しばらくは自分で使うけどね。


「では、それ以外のこちらは?」


ダメ出しされた方のポーションを見る。


「ふむ。君が使うなり好きにするといい」

うん、ちょっとだけラッキーかもしれない。


「瓶は後で必ず返すようにね」

しっかり釘を刺された…


それからはポーションの1度に作成する量を増やしてみた。

さっきまではポーション2本分を一度に作っていたけれど、

今度からはベル草5本つまりポーション10本分を一度に作成ている。


出来上がったポーションの品質値は/6が7本、/5が3本だった。

うん。あまり問題なさそうかな?もう少し磨り潰すのを丁寧にしてみようかな?


さらにもう一回調合すると、今度は1本だけ/5であとは全部/6だった。


いい感じ。さらに8回ほど行うと調合台の上にベル草がなくなった。


師匠の方は作り終えたポーションが隣の作業台を埋め尽くし、

作業を終えどんどんマジックポーチに吸い込んでいく。


・・・途中から入らなくなったようだ。

いったい幾つ作ったのだろう?


ん?満タンになったマジックポーチを別なマジックポーチに入れた…?


「そっちも終わったみたいだね。私もこれ片づけたら今日の分は終了。

明日にでも冒険者ギルドに納品に行くけど、君はどうする?」


「自分で納品します」


「そうか。なら冒険者ギルドへの紹介状を渡しておくとしよう。

これを持って受付に行けば報酬が支払われるからね。

くれぐれもなくさないようにね」


師匠と手分けして工房を片付けた。


「ふむ。手伝いも終わったが、まだ時間に余裕あるかな?」

片付けが終わったらアディの雰囲気も柔らかくなったように感じる…


ん~。ゲーム内でチュートリアルでかかったのが約20分程、

調合作業で約50分だから、リアル時間換算で約20分。

うん。まだまだ時間に余裕あるな…

「まだ時間は大丈夫そうです」


「なら最初の約束通り、魔力使いの訓練を行おうか」





NAME:伊舎那イザナ

RACE :ヒューマン/2〈1〉

AGE:15 /15〈0〉


Job:魔力使い/1〈1〉

Sab:薬士/2〈1〉

残JP〈1〉


HP:45 〈0〉

MP:160〈17〉

SP : 85 〈5〉


STR:(筋力) 5 〈〉

VIT:(頑強) 5 〈〉

AGI :(敏捷)   5 〈〉

DEX:(器用 ) 13〈1〉

INT:(知力) 28〈3〉

MID:(精神) 13〈1〉

LUC:(幸運) 5 〈〉

残ステータスポイント〈1〉

スキル

Job

〈魔力操作〉

〈調合/2〉New!〈錬金〉

Status

〈器用強化〉〈知力強化〉〈精神強化〉

Common

〈採取〉〈植物知識/2〉New

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る