第2話 黒瀬彩

 私は黒瀬彩。


 中学二年生で、クラス委員長をやっているの。


 私のクラスは初めの頃はいい感じだったんだけど、今は少し気になる子がいて・・・


 去年も同じようなことがあって、私は何もしてあげられなかった。


 だから今年は、クラス委員長になったからには、絶対何とかして見せる。








 今日は課外授業で森に来ているの。


 正直森の中でスケッチしたりレポート書いたりとか、幼稚な気がする。


 でも今日やるべきことはそれだけじゃない。


 渡辺健斗くん。彼の監視も私の仕事なの。


 渡辺君はみんなと少し違って、話が理解できなかったり、一人で話してたりする。


 以前先生に尋ねてみたとき、渡辺君は発達障害があるとか何とか言ってた。


 それを知らない私は、この前掃除中に窓の外を見ながらひとりで話してる渡辺君を注意したことがあった。


 今は渡辺君のことは理解してあげてる。


 その後先生にも、渡辺君のことよろしくって言われたの。


 ほら、早速私の仕事みたい。


 列の後ろの方で渡辺君は木々をみて笑ってる。


 それを見ている男子たちが、渡辺君の真似をしてからかっている。


 あの男子三人組は普段からああやって渡辺君をからかうの。でも本人は気づいてないみたいだけど。


 列の先頭にいた私は列から外れて、一番後ろまで行った。


 そして渡辺君の肩をポンとたたいて、「気にしなくていいのよ」とだけ言った。


 渡辺君はいつものように、周りをきょろきょろしながら小さくうなずいた。






 少し歩いたところで、先生がスケッチをしようと言い出した。


 クラス委員長はここで人数確認をするように指示されたので、私は周辺を回りながら人数を数えた。


 一、二、三、四・・・・・・


 全員いることを確認して、先生に報告しに行った。


 私はみんなより数分遅れてスケッチに取り掛かった。クラス委員長も大変ね。


 バッグから鉛筆と用紙を取り出して、辺りを見回す。


 すると、少し離れたところで渡辺君が座って何か書いてるのが見えた。


 それよりもっと離れたところで、例の男子どもが渡辺君を見ているのが見えた。


 事件は未然に防ぐのが一番いい。どうせあいつらはまたからかうに決まってる。


 私は渡辺君のところまで行き、スケッチを覘いて聞いた。


「何かいてるの?」


 渡辺君は動かしていた手を止めて、数秒経った後にスケッチを私の目の前に広げて見せた。


 用紙の真ん中に大きく黒々と書かれた正方形。


 何を書いているのか全く、これっぽっちも見当がつかなかった。


 だから、「変わったものを書くのね」とだけ言っておいた。


 でもその後渡辺君から何の返事もなかった。


 まずい、怒らせちゃったかな。


 いまから立ち去るのもなんだか気が引けたから、隣にあった石に座った。


 スケッチをしてる最中、渡辺君が何か小さな声でしゃべってたけど、私は気にしなかった。


 だって私は渡辺君のことを理解してるもの。


 私は目の前に生えている大きな花を書いた。


 茎は長くて太く、花は細長くピンク色をしている。


 何の花かわからないけど、きれいだからこれにしたの。


 しばらくスケッチを続けていると、渡辺君が私の方を見ていることに気が付いた。


 私をみてるのかスケッチを見てるのかわからないけど、これはたまにあることだった。


 気にせず続けていると、信じられないことが起きたの。


 渡辺君の手が私のわきの下に伸びてきて、私の胸を触ったの!


 それも敏感なところをつまむように!


 私は思わず叫んだ。そしてそのまま先生のいるところまで走って逃げた。


 理解しているつもりだけど、今のはさすがに理解できない。


 先生のところまで行って、私はさっき起こった出来事をそのまま話した。


 先生は私の肩をさすって、ついてくるように言った。


 その後渡辺君のところに行って、先生と三人で少し話したけど、驚きすぎてあまり覚えていない。








 放課後、私の母が学校に来ていた。


 おそらく先生が連絡したのだろう。なんだって私はあの後、ずっと泣いていたらしいもの。


 母と先生と渡辺君とたぶん渡辺君の母親は、職員室の中にある応接室みたいなところに入っていった。


 私は職員室の外で待っていたのだけれど、時折母の声が聞こえてきた。


 数分後、母と先生が外に出てきた。


 母は私の頭をなでて、「さあ、帰るわよ」と言って私の背中を押した。


 先生は最後まで母に、ご迷惑おかけしましたと言っていた。








 その日の夜、私は少し反省していた。


 渡辺君のしたことは許せないし、今でも思い出すと心拍数が上がる。


 でも、さすがに大げさにし過ぎたかも。


 私は寝るときにそのことを何度も思い出してしまって、なかなか寝られなかった。


 もしかするとこのモヤモヤ感は、罪悪感から来ているのかもしれない。


 だとしたら、明日学校に行ったら渡辺君に一応謝っておこう。


 私はクラス委員長で、渡辺君の数少ない理解者だもの。




 でも、次の日渡辺君は学校に来なかった。


 翌日も、その翌日も。


 結局私が渡辺君に謝ったのは数週間後だった。


 でも、こうなるとわかっていたら、直接謝りたかったな。

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