第7話 P.S.

 このファイルが地球に届く頃には、もう、ぼくらは太陽系を離れている頃だろう。

 これは、ぼくが書いた、ぼくと山田さんに関する事柄を小説形式にまとめたものだ。

 ジャンルで言うなら、これは、私小説かな。

 なぜこうしたかと言うと、こういう風にしたほうが、地球のみんなにはわかりやすいと思ったからだ。

 無論、論文形式などの報告は別アーカイブで送るけど。

 そして、この小説が地球に届く頃、ぼくはこの世にいないだろう。

 これから、山田さん生物化手術を受け、山田さん集合体に組み込まれるからだ。

 山田さん集合体という意識集合生命体に組み込まれて、ぼくがぼくでいられるかどうかわからない。自分が自分であるという保証さえないのだ。

 でももし、ぼくがぼくでいられたなら、どんな姿になっても、ぼくは人間なのだろう。そう思う。

 ああそうだ。人間と言えば。

 山田さん本体の許可を得て、山田さん生物と山田さん集合体を調べてみたところ、面白いことがわかった。

 山田さん生物と集合体は、地球に存在した様々な生物や道具、機械などの遺伝子的や構造的な情報を体内に持っていることがわかった。つまり、この山田さん宇宙船は「方舟」なんだ。

 しかも、地球に残したファクトリーや月面基地などにも、この情報と方舟などの設計図があるらしい。疫病や戦争で人類が絶滅しないように、地球のみんなに贈った山田さんのプレゼント。山田さんは、なんて優しいんだろう!

 まさしく山田さんは、神が遣わした天の御遣いだと思う。

 さて、もうそろそろ手術の時間だ。

 ぼくがどうなるかわからないけど、山田さんのことだ。決して、悪いようにはしないだろう。

 ばくは、山田さんと一つになる。

 それ以上に、うれしいことはない。

 じゃあ、行ってくる。

 それでは。


                                       <完>



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

山田さん、増える。 あいざわゆう @aizawayu1

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ