第1話 ゲスな女と意識高い女
午前中に仕事を入れるなんてことはあまりないことだが、私は本日は気合を入れておニューのエプロンをカバンの中に入れていざ出陣ぞと気合を入れた。
人様にお見せできるようなエプロンを持っていなかっただけという何とも女子力を疑われそうな事を言うのは控えよう。今回買ったエプロンは結構気に入っている。私にしては、わりとこだわって買ったものだ。長く使えるようにと色は派手すぎず、目立ち過ぎないように潜入捜査にはもってこいのエプロンなのではないだろうか。その辺はぬかりないようにしたい。いかにも取材しに来てます!ってな雰囲気にはなりたくないところ。一応料理もする予定ではある。料理をしながら観察し、めぼしい人を見つける。それができるブロガーなのである。
さて、やってきたのは高級そうな住宅が立ち並ぶ一等地。いかにもセレブが住んでいそうな場所であり、料理教室ということで、セレブリティーあふれる奥様方が通いそうな場所に料理教室が開かれるであろう建物が建っていた。庭にまで手が行き届いているし、何というか、オシャレなレストランみたいな感じ?この料理教室の先生もおそらくはセレブなんだろうなと予想がつく。パソコンで調べた顔写真には、小奇麗な私セレブなの・・・!♡と言うような女性の写真があったのわけでして、一人で納得していた。
「おはようございまーす!今日は宜しくお願いしますね。」
そう言って張り切っていらっしゃったわ!あのブログで見た料理教室の先生。ちょっとあの写真盛ってない?と思ったのだが、それは映えですよねわかりますと一人で納得した。
本当、きっちり男女混合になってるのね。婚活を推していた料理教室と書いてあっただけに男女まんべんなく調理台に配置された私達、男性5名女性5名、計10名。ここまで整理されて半々になるようになるの??と不思議に思っていたが、恐らくは予約画面にカラクリがありそう。男女別に人数が決められているんだろう。男性ですか?女性ですか?という選択画面が思い出された。ほーなるほど、そういう仕組みになっていたわけねと感心した。
「では、このような調理手順で進めて行ってくださいね」
とりあえず調理の手順をある程度説明されてまるで調理実習だなと学生の頃に先生から教えられていた家庭科の調理実習が思い出された。まぁこんなのは簡単だからちゃっちゃと終わらせちゃいましょと瞬く間に進めて行く私に何か視線を感じなくもないが、私は私で目的を果たさないといけないから気にもせず熱中して調理を進めた。
「よし、こんなもんか」
ある程度形になった料理たち。まぁ我ながらいい出来ではなかろうか。和食だったから私の得意分野だった。そうね、もう少しここをこうすれば的なのはあるけど、先生がこんな感じと言ってたからこれでよしとしよう。
さて、ある程度私の作業は終わったので周りを見渡す。今回は初心者の男性はおれど、女性は料理はできる人ばかりの様だ。流石に料理全くできない人が婚活の料理教室には来ないかという感想である。男女間でのお話などもされている様子。こういう所は男性が料理できない方がいいのかもなと包丁の使い方を女性から教わっている男性を見た。なるほどね。まぁそれでも私ほど手際よく料理する人というのはいないか。あれ?あそこの女性もう終わってない?ふと目に入った女性の前に置いてある出来上がっている料理を見て思った。
「あの人確か、上本さんだっけ・・・?」
最初に軽く自己紹介をしたので覚えていた名前を思い出す。確か、34歳だと言っていた気がする。料理の手際の良さから言って普段から料理をしているように思えた。
「あの、松江さん?」
「はい?」
呼ばれて振り返れば30歳くらいの男性。この人の名前は・・・なんだっけ。名前も思い出せないまま話を聞いてみたら、私が料理する所を見てて驚いたようで、ぜひ教えて欲しいということだった。私忙しいんだけどなと思いながらも無下に断ることもできず、とりあえず気になる所を教える事にした。
「松江さんは得意料理は何ですか?」
「まぁ適当に冷蔵庫にあるもので作る程度です。得意料理というのはあまりないですね」
「へー。感動です。」
何故か感動されてしまった私。未だに名前が思い出せない男性。顔はまあまあなのだけど、この料理教室の常連らしい。気になった感動した理由を聞いたところ、得意料理を的確に言う人は普段からは料理していないという分析結果なのだとか。なにそれ
ブロガー的に面白い情報だとこの男性に食いついて聞いてしまった。
「なるほど。そういう事だったんですね。」
「はい、ですから松江さんに興味が出てきました。」
どうやら、ターゲットにされてしまった様です。この名前を思い出せない男性に興味を持たれてもちょっと困ってしまう。てか、私、婚活に来てるわけじゃないから、それに私の対象女だけなんだよね・・・。ごめんよと思いながら、そっと名刺を差し出したのだった。
「あぁ取材で・・・」
「はい、潜入みたいになってしまったんですが」
「あの、ご結婚は」
「あの、バツイチでして」
名刺を渡しても、わりとガチめに来るやんこの人・・・!名前解らんけども!
「いえ、一応恋人がおりますので」
「あ、そうですか」
ウソである。だって無理じゃないですか私女子にしか興味ないもの。そんで、これはお仕事なんだから。ああ、後ろ姿が寂しそう・・・とは思うけども、アプローチされたところで、無理なものは無理と言わねばならない時、それが今だったんだ。
名前もわからない男性の後ろ姿を見送った後、私は気になっていた女性の方を眺めていた。私と同じくらいの手際の良さだった彼女に私は興味深々である。あのゲスな女ほどモテるという自己啓発本の言う事は本当なのだろうか。私は上本さんをその後も観察した。
私が思うに、男性から見るとほっとけない人がゲスなのかなと。それってあの人みたいな人なんだろうなと観察対象から外れた女性を眺めた。明らかに普段からは料理をしていないタイプである。そして、美人でそれなりに男の使い方を解っている人。なんだろう、女性からは苦手だと思われるタイプなんじゃないだろうか。
ああ、確かあの自己啓発本、筆者男性だったかと考える。うん。確かに解らないではない。だけど、女性目線から嫌われるタイプは後々苦労しそうな気がしないでもないのだけど。そう結論を出した私はまた興味対象の方に目を向けた。あ、さっきの人、名前やっぱ思い出せないけど、上本さんに話しかけてる。あの男性、なかなか女性目線でやりおるなと思ってはいるが、私も対抗したいようなそんなもどかしい気分になっていた。これは、上本さんをあの名前不明な男性に誘われてこの後の予定を入れてしまうのではないか?という焦りである。
「あの、上本さん?」
気づいた時には話しかけていました。いや、気づいたらとかどうかと思うが、私は結構積極的に女性に話しかけるタイプでして。こういう潜入調査の類で女性に話しかけるのは必須でしょ?だから、ちょっとあの男性が上本さんの側を離れた時を見計らって話しかけたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます