のんけ彼女の落とし方

いのかなで

プロローグ

「なるほど」


 晩酌をしながら久しくテレビに熱中している。先ほどの内容は感慨深く、私は溜息交じりに納得した。

 テレビの内容は、自己啓発本の内容を話していたものだった。それも、結婚したい女子はこれを読めという内容のもの。「ゲスな女こそモテる」という内容であった。


「ゲスってあんまりな言いようね・・・でも一理ある」


 ゲスとは何なのかと気になるところだろうが、簡単に言えば、結婚したい女子がやりがちな事は全くしない方がモテるという内容。つまり、あなたの結婚する為の努力は無駄でしかないのよと言っているようなものなのである。


 ブロガーとしてはこういうネタになりそうな自己啓発の類はチェックしておきたいところである。しかも、婚活というヒットワードは見逃せないものだったりする。

 ブログの運営で食べている私にとってはいいネタになりそうだ。これだと思ったらすぐ情報調査をしなければと婚活の場は?と考え、本気の出会いを求めて行くならば何処かと考えた。スポーツ、趣味、SNS、ビジネスあたりか。SNSは直接顔を合わせないのであれば時間のロスが大きいので省くとして、私の場合、出会いを求める人を観察したい。つまり潜入調査のようなもののわけだから、ビジネスみたいにガチ勢と討論するのも面倒そう。じゃあ、スポーツか趣味の分野が良さそうな気がする。

 しばし考えた挙句、私が選んだのは料理教室。女は料理のスキルを披露し、料理上手を嫁に欲しいと思う男は出会いを求めてそこへ通う。まさに婚活の場と言っても良い場所であろう。料理教室に潜入して観察し、気になった人がいたら少し話を聞かせてもらうという作戦で行こう。パソコンの予約画面で料理教室を予約のボタンをクリックした。


「何?婚活?」

「わぁ!来てたの旬」

「あんたまた結婚でもする気?あんた根っからの女好きじゃなーい?」


「んーなわけないっしょ、いつものやつよ」と言いながら画面に視線を戻す。この旬というのは、私の元旦那であって親友、そして彼はこの口調からもわかるかもしれないがゲイである。私にもそんな複雑な過去があったわけで、説明すると長くなるんだが、いいだろうか。


 旬との出会いはマイノリティーの集まり。意気投合した私たちは普通に友達になり、何でも話せる親友になった。どうして結婚したかと気になるだろうが、まぁ私達の時代は今みたいにLGBTにあまり理解がなかった時代だから、周りの目を気にして生活してた。カモフラージュの為に入籍したということである。旬とは利害が一致してたし、親友が困ってるならお互い結婚しても何の害もないじゃんという考えで入籍した結婚だった。


「そーいえば、お姉様今度来るんだって?」


 旬の言うお姉様と言うのは、私の母のことである。旬は結婚していた時から私の母をそれはとてもリスペクトしていて、離婚の原因というのも実は母が関係していたりする。


「週末に来るんだって」

「じゃああたしも来るね~」


 さも当然かの様に旬は私の母が来る時は必ずと言っていいほど家に来る。旬にとって私の母は崇拝に近い神の様な存在と言っていいのではないだろうか。


「旬、週末デートとか言ってなかったの?英治くん怒るんじゃない?」


 英治くんというのは旬の同棲中の彼氏。彼との付き合いは結構長いと旬からも聞いていて、私も挨拶程度だけど何度か顔を合わせているが、ダンディでなかなかのイケメンである。


「デート終わってからなら大丈夫。お姉様が来るなら英治だって怒らないと思うよ?」

「英治くんにとっても私のお母さんは重要人物なのね」



 そりゃ当然と言う旬に私は週末来るらしい母のことを考えた。これと言って用事はないけど、様子見に来るという事だった。何かしら世話焼きの母のことである。うちの掃除やご飯のことなどを事細かにチェックし、少しのお小言を言われるのではないかと予想ができてしまう。

 母にとって子供の家に訪れると言うのはある意味ストレス発散の意味もあるのかもしれない。だからと言って、父と母が仲が悪いと言うわけではなく、熟年離婚にはほど遠い、仲睦まじい夫婦だったりするのだ。そういうところも旬にはリスペクトだったらしいのだが。母を旬がリスペクトしているのはなんとなくだが解らないではない。

 母は男尊女卑の中、女性にしては存在感を発揮していた女性。確かに、男尊女卑であれば、男性より立場は下であろうが、女性の中では当たり前で、その女性の中でも立ち位置をはっきりと主張できていた人物が母だったりする。

 田舎町で何かしら近所の会合だったり、集まりなどは母が行っていて、私も幼い時にはよく一緒に連れられて行ったものである。幼心に思っていたのは、お母さんカッコいい!という感想だった。

 母は会合では男性を立てる様にある程度発言は抑えていたものの、会合の後のご馳走を作ったり、後片付けのことなど、自ら取り仕切り、今で言うバリキャリ並みに指示を飛ばしていたのであった。そういうところをずっと見て来ているから私も母はリスペクトしていると言ってもいいのではないだろうか。

 母は父に対しても、口はあまり良くはないけれど良い妻であった。縁の下の力持ちと言ったところである。父は父で、それをあまり当たり前とは思っていないらしく、父の口癖は「お母さんがいるからこの家はもっているんだ。だから、お母さんに感謝しなさい。」である。

 この父と母の間に生まれた私は、男尊女卑が当たり前の中で生まれたものだから、「女の子は料理ができないとダメ。」「女の子は一番風呂に入ったらダメ」「女の子は男の上を跨いだらいけない。」など数々の女性ならというしがらみの中で生きてきた。しかしながら、それに対しては、恨みやつらみは不思議とないもので、いまだにそうだと普通に暮らしていたりする。ただ、父がそうではなかったからか、亭主関白だけは許せない。それは旬にも不思議がられるところである。


 そんな私が、今回料理教室を選んだ理由と言うのが、料理を作るにあたって、女性の本質を探ろうということだった。私も余裕が出るであろう料理ならある程度の情報を探ることも可能であろう。


 ネタ探しの為に料理教室に通う事にしたのであった。

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