第2話 アガパンサス

 走馬灯を見た時のように1秒が長く感じる。

 アネモネに捕らえられた目は保釈され、『おにぎりカフェ』の窓に目が行く。

 そこには一輪の鈴蘭が淡々と落ちていた。


------------------- ハルシャギク「love at first sight」


 静まりかえったキッチン、音を立てるだけでコンサートホールにいるような感覚に襲われる。それは感激ではなく恐怖。

 それはダリアだったり紫陽花だったりするかも。

 お婆ちゃんが俺のいない間に珈琲を飲んでいることを知っていた、棚の1番上に入ってる。

 フレンチロースト、苦味が少なくミルクで割るには最適の珈琲だって言ってた気がする。

 真っ白のカップに真っ白の小さいお皿、小さなパックに詰められた珈琲粉を開けるとその瞬間に香りが広がる。俺、頭痛に襲われる。

 お婆ちゃんが花屋さんでよかった。アネモネは春の花なので当然店に並んでいた。ポットでお湯を沸かして、その間に一輪アネモネを摘み、出来上がった珈琲に砂糖とお皿の端にアネモネを添えた。


-------------------- 深夜、2:31


 音楽アプリに入っているお気に入りのプレイリストをかける。

 ロード・ヒューロンのThe Night We Met 「初めて出会ったあの夜に,もう一度戻りたい。そうすれば,どうすりゃいいかわかるはずだし,このことだって気がつくはずだ。このまま一緒にいちゃダメだって」


 珈琲を少しずつ飲みながら舌を慣らすけど、鼻に通る香りに耐えられずアネモネの香りを楽しんだ。

 すると頭痛もすっきりとしていき、珈琲の苦さが和らいでいく。

 いや、和らいでいく気がするだけなのかもしれない、彼女のせいで。

 頭はなぜかその面影だけを思い出し、何も考えられなかった。


 アネモネの茎から溢れたものに触れてしまった。



 

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