アネモネと珈琲

狗帆小月

第1話 サクラソウ

 いつも、登下校に使う道から珈琲の香りがする。少し、アネモネという花の香りも混ぜて。


-------------------- 高校3年生、春


 「この白い小さな花がオトメザクラ、サクラソウの一種で春を呼ぶ花とも言われてる。」

 下校中、同級生の愛香と道草を食っていた。

 いや道花か。

 将来、特に何かしたいという希望はなかったからお婆ちゃんの花屋さんを継ぐことにした。その準備として去年から花ソムリエの資格を取る為に花について勉強しているのだ。

 「聖也って喧嘩っ早いのに花に詳しいとか、ギャップ萌えだね。」

 「うるせーよ馬鹿、お前は女のくせに力強すぎだよマウンテンゴリラ!」

 今年で高3、こうやって愛香と笑ってられるのも今年までだと思うと寂しいな。


 「それじゃ私こっちだし、また明日ねー!」

 あれ、なんだろ5分前に比べたら腹痛い。


-------------------- 夕方、腹痛と復讐


 全く覚えおけよあいつ、幼稚園からの仲だといって手術明けの俺に暴力とは。親の顔が見てみたいぞ!

 死ぬほど見たことあるけど!


 顔にできた傷を摩りながら歩く、お婆ちゃんに心配かけたくないから喧嘩は辞めようとしたけど売られたら買うしかないからな。


 「またお越し下さい。」


 遠くから澄んだ淡い声が聞こえてきた。

 その瞬間、珈琲の苦い香りが俺の鼻をリンチする。生まれつき鼻がいいのが運の尽きだ、昔からこの匂いだけは耐えられない。

 しかしその核に近づくにつれて他の香りで中和していく。

 「アネモネ…。」

 ふと横を見ると『おにぎりカフェ』という店があった、きっと俺が入院していた長い間にできたのだろう。

 店の前には沢山の花壇にアネモネが植えられていた。

 全て綺麗な紫色をしている、花言葉は。


 『あなたを信じて待つ』




 

 


 

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