2・信頼と未練と
今日はやけに暑かった、それはもうこのまま満員電車なんかに乗りたくないと思う程度には。
そんな風に思ったのは既にコンビニから出たあとで。
今更戻って涼むのも気恥ずかしくて、近くの公園に行くことにした。
あそこはだだっ広いので風も抜けて涼しいだろう。
そこに、涙を流した女がいた。
よくある事だ。
この公園は住宅街からも、ビル街からも程よく近いため、仕事で失敗したやつとか、家で嫌なことがあったやつがよく泣きに来る。
俺も今の仕事に就いたばかりの頃はお世話になった。
いつもなら気にもとめずにいたその光景が、今日はなんだかやけに気になった。
不思議なことで、人は見られているだけでその視線を感じることができるらしい。
その女から目が話せないでいると、こちらを向いた。
七瀬だった。
「小林君?」
「七瀬?どうしたんだ?」
彼女が泣くなんてほとんどなかったから、少なくとも俺が見ているときに泣いていたことはなかったのだろうか。
「あっ…見られちゃった…かな、泣いてるとこ」
「あ、ああ」
彼女は苦い笑いを浮かべながら言った。
「恥ずかしいなぁ、こんなところ知り合いに見られるなんて。ちょっと仕事でへましちゃってね、まあ、大したことないよ。へーきへーき」
「いや、全く平気には見えないぞ。いくらここが泣きたいやつが良く来る場所でも、泣く理由は全員それなりに重い。俺がここを使った時だって、首一歩手前まで行ってからだからな。それに、朝調子いいって言っていたやつがちょっとのへまで泣くまで追いつめられるか。もう一回聞くぞ、何があった」
俺らしくない、強引な聞き方だったと思う。
よっぽど彼女の泣き顔が嫌だったのか。
とうに恋などあきらめているというのに。
「ん・・・まあ、小林君ならいいか。
仕事でへまして怒られたのもあるけど、彼に浮気されててね、それで言いよってみたらあっさり認められちゃって。さすがにね。もう25にもなって、今の彼とは結構長かったから結婚もちょっと夢見てたところで捨てられた、っていうのかな。怒られて気分が落ち込んでるところでこれだから、、、ね」
絶句、今の心情を表すなら、その一言が一番あてはまるだろう。
今朝、すべてが順風満帆で、はじけるような笑顔を浮かべていた彼女が、たった一日でそのほとんどがなくなったのだ。それは、泣きたくなるのも納得できる。
俺であれば、3日は部屋に引きこもって出て来なかっただろう。
「そんなに・・・そりゃあなきたくもなるはな。あ、お前って同棲してたよな、家、帰れるのか?」
「帰りたくない」
「んじゃどうするんだよ。ホテルにでもいくのか、さすがに女がネカフェで一晩明かすのはちょっと危ないし。野宿は論外だろ」
ここでうちにでも来るかといえないところが俺がもてない理由なのだろうなと思いながら。
「お金もないし。小林君の家は、ダメ?」
むしろ相手から言われましたよ大丈夫かこれ。
「ダメじゃないけど、いいのか、手を出すつもりはさらさらないが、俺も男だし、保証はできんぞ」
「いいよ、小林君のこと信頼してるし。だてに10年も付き合ってないよ」
「いいならいいけど・・・」
信頼されてるのはうれしいが、正直な話、悲壮感が心の中を埋め尽くす。
男としては認識されていないのだなぁと。
そんな風に思いつつ、結局、彼女はうちに泊まることになった。
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