バベルの塔再建阻止

蒼樹里緒

バベルの塔再建阻止

 昔々、人間たちは神様に挑戦しようと、天まで届く高い塔を建て始めました。ところが、その様子を見た神様は、彼らの言語をバラバラにしてしまいました。人間たちは仕方なく、別々の国、別々の文化を作って暮らすようになりました。

 それから何千年もの月日が経ち、言語や言葉が変わっても、何度となく争っても、人間たちは互いにわかり合おうと努力していました。

「うむ。これならば、我々に挑もうなどと愚かなことも考えぬであろう。人の子らは人の子らの世界で生きるべきなのだ」

 神様は安心しました。

 ところが、人間たちはやがて、地球からほかの星へ移り住む計画を始めました。宇宙で未知の知識や技術を得れば、人類はさらに進化して『神』にでもなれるかもしれない――と企む人間も現れたのです。

「むむっ、これはいかん」

 神様はさすがに見逃せず、人間たちが記したすべての文字を、黒塗りの伏字に変えてしまいました。ありとあらゆる文字が突然読めなくなり、人間たちは大混乱しました。

 人間たちは仕方なく、話し声を機械に録音したり、情報を伝える絵を描いたり写真を撮ったりして、日々の出来事などを記録し始めました。けれども、神様はそれらの道具もすべて使えなくしてしまいました。

 ある日、神様は人間の世界へ下りて厳しく言いました。


「人の子らよ。これは、ぬしらへの罰である。ぬしらは愚かにも、また我々に挑もうとしているな。ぬしらがいかに進歩しようとも、神になれるなどと決して思い上がらぬことだ。なおも業を深めるのであれば、ぬしらの声も奪うことになるぞ。悔い改めよ」


 人間の代表者たちは、慌てて話し合いを始めました。

 ――宇宙開発移住計画をこのまま進めますが、我々は決して神には逆らいません。人間としての知識や技術を大切に生きていきます。

 その言葉を聴き、神様は深く頷きました。

「うむ、わかればよい。ぬしらの力や知恵の行く先を、我々もしかと見届けるぞ」


 ある日、図書館で書架の整理をしていた司書が、本を開いて気づきました。

「字が元に戻ってきてる!」

 神様は黒塗りの伏字を、一日ずつ、少しずつ消していきました。様々な道具も、また使えるようにしました。人間たちの反省や努力を確かめるごとに。

 それからも、人間たちはそれぞれの言語や言葉に向き合って学び、文字もいっそう大切にするようになりましたとさ。

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バベルの塔再建阻止 蒼樹里緒 @aokirio

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