第4話
俺は、魔道具の水晶玉に手を置き、魔王にでもなったつもりで念じ始めた。それは
内心、ドキドキもワクワクもテカテカも止まらなかった。俺は一体、どんな魔法を使えるのだろうか、と。
内に秘めたる熱い心から炎?
セフィラとお揃いで、クールに氷?
いやいや、クールと言えば風?
それとも支配者っぽく雷?
あるいは光? はたまた闇? ……地味に、土?
しかし、その文字が明確になるにつれ、俺とセフィラの表情は
全てがハッキリとした時、思わず二人して「げえっ⁉」と口にしてしまった。
俺のステータスは、こうだった。
ダイゴ・オオシロ
LV:25
STR:110 VIT:155 DEX:77 AGI:255 INT:5 LUK:5
ABILITY:コンボアタック
SKILL:
セフィラは、開いた口が閉まらないようだった。
俺は俺で、頭の中に流れ込んでくるそのスキルのヤバさに気付きつつも、魔法もへったくれもない自分の設定と境遇に、やはり開いた口が閉まらなかった。
「…………何、これ?」
「僕の……ステータス、ですね」
「…………スキルが、読めない」
「僕は……理解しました」
どういうこと⁉ と、セフィラは俺の肩を揺らす。
俺はセフィラをなだめ、順に解説をしていくことにする。いや、俺自身、まだショックを隠しきれないのが正直なところではあるが、二人して混乱していても仕方ない。理解した俺が、説明責任を果たすべきだろう。
「まず、ステータスですね。端的に言うと、僕に魔法の才能はありません。INT5じゃ、コボルトどころか虫も殺せないでしょう」
「そ、そう、ね。残念ながら……。でも、VITと、特にAGIはとてつもないわね!」
「そうですね。このステータスは、アビリティともスキルとも、すごくマッチしていますよ」
「アビリティ? 残念だけど……コンボアタックはその、あまり強くないわよ……。連続して攻撃することで相手をノックバックさせる効果があるけど、詠唱を必要とする魔法じゃ連続攻撃は難しいわ。複数人で相手を囲めれば、それなりに強いとは思うけど……」
「いえ、僕一人でも連続攻撃ができるんですよ。その秘密が、このスキルです」
「そう、これが一番分からないのよ。読めもしないし、想像もつかない。これは……どんな魔法なの?」
セフィラが戸惑うのも無理はない。こんなもの、俺と同じ日本人でも、分からない人間には全く分からないかもしれない。
しかし、分かる人間には、何一つ説明しなくとも大体は伝わるだろう。この漢字の配列だけで、容易に想像できてしまう……これは、そういうものだ。
「これはですね……結論としては、魔法ではありません」
「魔法じゃ、ない?」
「はい……。これは、技です」
「……技?」
「はい。この肉体で、直接、敵を攻撃します」
「……はい?」
セフィラが戸惑うのも無理はない。こんなもの、魔法世界に転生したのにこんなもの……俺のロマンを返せって話だ。
だがしかし、こうなったものは仕方ない。おそらく、俺の前世の情報が反映された結果なんだろう。ロマンはないが、その強さは、折り紙付きだ。俺なら、このスキルを使いこなせる自信がある。
しかしさて、どう説明したものか。……演武でも披露してみるか?
その時だった。
ドタバタと、足音が聞こえてきた。家の中を、この部屋に向けて走ってきている。一人ではなく、複数人の足音のようだ。
話を中断して、身構える。間もなくして、セフィラの私室のドアがバンッと、乱暴に開かれた。おいおい、白昼堂々と強盗か?
「セフィラさん!」
「──っ! ……って、なんだ、アーノルドさんじゃない。驚かさないでよ。どうしたの?」
「ガーゴイルが、ガーゴイルが大群で攻めてきた!」
「──なんですって⁉」
ガーゴイル? ガーゴイルって、あの、ガーゴイルか? 俺のイメージ通りなら、悪魔系の。そんなものまでいるのか、この世界は。
「セフィラさん、ガーゴイルって、一体?」
あっ、勢いでセフィラさんって呼んでしまった……って、そんな状況じゃないか。
「なんだ、あんたは?」
「あっ、僕は──」
「彼はあたしの客人よ。それより、本当なの、ガーゴイルが攻めてきたって」
「そうだ! そうなんだよ! 町の北側、荒野の方から数十体のガーゴイルが近付いてきているんだ!」
「分かったわ! すぐに向かいましょう!」
彼女は勢いよく立ち上がり、俺の方を見る。
「ごめんなさい! 緊急事態だわ! あなたはここにいて!」
「いえ、僕もいきます!」
「でも──」
「大丈夫です。それより、その町の北側に向かうまでの間、ガーゴイルについて教えてください」
「──分かったわ」
そうして二人して部屋を出て、町の防衛を務める男たちと共に北側へと向かう。聞くと、町には東西南北に四つの門があるらしく、向かう先の北口は、俺たちが入ってきた入口の裏手のようだった。
「ガーゴイルはね、炎系魔法を得意とするコボルトに対して、氷系魔法を得意とする悪魔系のモンスターなの」
「やっぱり、悪魔系なんですね」
「やっぱりって、知ってたの?」
「僕の世界にも、伝承のようなものがあったので」
そう、とセフィラは少し不思議そうな顔をする。まあ、魔法のない世界から来たのにガーゴイルは知っていると言われれば、それは不思議にも思うだろう。
「ガーゴイルの厄介なところは、なんと言っても防御力の高さよ。VITの高さも
「石みたいに、ですか?」
「石……そうね。石のように折れたり割れたりはしないけど、硬さとしては近いかもしれないわね」
「なるほど……」
「だから、あたしとの相性も悪いわ。さっきコボルトを仕留めたフリーズランサーでさえ、ガーゴイルには刺突ではなく打撃にしかならないの」
「それは……厄介ですね」
実際、厄介ではある。でも、考え方を変えれば、ガーゴイルに有効なのは打撃だけとも言える。そんなに硬いんじゃ、刺突だけではなく斬撃も効かないだろう。
もしも、ガーゴイルが特定の属性魔法に弱いのであれば、そこはやっぱり魔法世界、魔法で制するのが定石であり正道なんだろうけど、正直なところ…………いける気がするんだよな、今の俺なら。
一つだけ、条件をクリアすれば。
「セフィラさん、ガーゴイルは大きいですか? あと、重いですか?」
「大きさは、人間よりも小柄よ。重さは……小さい割には人間と同じくらいはあると思うわ」
「人間と同じ、ですか」
ビンゴ!
いける! ノックバックさせて、
そうして、ガーゴイルの情報を聞き出しているうちに、町の北口へと辿り着いた。見ると、既にガーゴイルとの戦いは始まっていた。
最初に異変に気付いた衛兵が、町の入口と仲間を守るように防御系魔法を展開し、その内側から、防衛を務める男たちが魔法で攻撃をしていた。
しかし……あまり効果はないようだ。
ファイアボール、無傷。
アイスエッジ、無傷。
アースランサー、足止め。
実力者と思しき男のメイルストロームも、足止め程度にしかなっていなかった。
……これで、どうやって今まで凌いできたのだろうか?
それともこれは、空前絶後の大侵攻なのか?
ガーゴイルはガーゴイルで、ジリジリと歩を進めながら、アイスエッジやフリーズランサーでこちらを攻撃してくる。人間側は、攻撃よりも防御に必死という状態だ。
「耐えろ! 今は、耐え抜くんだ!」
「そうだ! 今は、足止めに専念しろ!」
……こいつらは、何かを待っているのか?
……誰か、か?
しかし……間に合うのか?
あと何分耐えるつもりか知らないが、ガーゴイルの群れは確実に近付いてきている。そう長くは持ちそうにない。
それに…………小さい。小さいぞ。話に聞いた通り、小学生くらいのサイズだ。
……駄目だ。もう、俺は、自分を試したくて仕方がない!
「セフィラさん!」
「な、何?」
「僕が、いきます」
「……えっ?」
「ガーゴイルの大群、僕に任せてください!」
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