偵察部隊(別視点)
「隊長こちらは問題ありません」
「わかったわ、さっさと戻るわよ」
「お待ち下さい隊長! まだ他のものが戻って来ておりません」
「わかってるわよ! うるさいわね」
俺の上官、フルー・レティ隊長は見た目は100点満点中120点だが、上官としては最悪だ。
今回は魔族領との国境の偵察を行う任務に就くことになったがレティ隊長は乗り気では無いらしい。
彼女は男爵家の次女でその美貌から貴族の中では有名らしい。実際その評判も見れば誰もが納得する。美しく滑らかな銀髪、妖艶な紅の瞳に長いまつ毛。男達を魅了する絶妙な胸囲。完璧だ。
レティ隊に配属された時は神に感謝を祈ったほどだ。
しかし現実はそう甘くは無い。
貴族との縁談を断って軍に入隊してるぐらいだ、気付く材料はいくらでもあったが俺は気付かなかった。
何があれかって?
権力欲と、武力絶対の古い考えを馬鹿真面目に盲信してる事だ。
「偵察したって、何も出てきやしないよ。こんな評価にならない仕事したって時間のむだよ。鍛錬してる方がよっぽど有意義ね」
こんな事を本気で思って本気で口にするんだ。俺の身にもなって欲しいぜ。
「これも立派な任務です。我慢しましょう」
「あんたは気楽でいいわね」
俺にはマークと言う立派な名前があるがレティ隊長に名前を呼ばれた事はほぼ無い。呼ばれたのは公式な式典の場だけ。レティ隊長からしたら俺とゆう存在はゴブリン以下に違いない。
「隊長! 大変です!」
別の方角に偵察に出ていたマーティンの小僧だ。あの慌てぷりただ事じゃねーな。
「敵か!?」
レティ隊長はすぐ戦いに結びつけたがる。
「はい! これより北東にダンジョンと思われる地下を発見いたしました」
俺の思考は完全に石化した。
言っている意味を理解したくはなかった。
「でかしたわ! 偵察を全て戻せ。準備を整えダンジョンを偵察する」
俺は思わず口を挟む。
「まってください! ダンジョンに入るのは与えられた権限から逸脱しているかと思われます!」
「マーク!」
式典以外で初めて呼ばれた俺の名前。こんな状況なのに少し嬉しい。
「はっ!」
「ここはどこだ?」
「魔族領との国境です」
「我々の任務は何だ?」
「国境の偵察であります」
「ダンジョンはどこにある?」
「国境であります!」
「よし! ならば問題ない! 準備を急げ!」
こうなっては誰も止める事は出来ないし、集まった隊のメンバー10名は意外と乗り気だった事から、退路は完全に消えた。
次の日にはダンジョンに入る準備が完了し、偵察が始まった。
昨日、隊のメンバーで無い頭を捻り出し、ダンジョンの知識を出し合って最大限、悪あがきを行った。
しかし、そんな隊の思いは意外な形で裏切られる。
「弱すぎるな」
レティ隊長が思わずといった感じでポロリと本音が漏れている。
俺も同意見だ。
まるで歯応えがねぇ。
「どう思う? 罠の可能性はあると思うか?」
レティ隊長は珍しく俺らに意見をもとめる。その表情は真剣そのものだ。
「わかりかねます。しかしわざわざ我々を罠にはめる理由も思いつきません」
「たしかにな……進むぞ」
そこからも偵察は順調に進んだ。
三階層を抜け四階層に到着する。
「雰囲気が変わったわね」
レティ隊長は何かを感じ取ったようだが、俺には何も変わってないように思える。しかしレティの感覚が正しい事が即座に証明される
青銅の剣を構えたゴブリン五匹がこちらを警戒している。
「どうしますか?」
俺は念のためレティ隊長に確認をとる。
「所詮ゴブリンよ、殲滅する」
そう言ってレティ隊長は自慢の聖剣を抜き臨戦態勢だ。俺も慌てて腰から支給品の剣を抜きかまえる。
レティ隊長が真っ先に飛び出し、ゴブリンを一刀両断する。その動きは容姿が相まって伝説の姫将軍のような神々しさを演出している。
俺も物語の脇役としてなんとかゴブリン1人を殺す事に成功する。ゴブリンは思っていた以上の力があり少し焦ったがなんとかやりきれた。
怪我人もほとんど無く、あってもかすり傷程度の者だった。
俺達は探索を続行することにし、前に進んだその時だ、後ろから悲鳴が聞こえ、俺は反射的に振り向く。
そこには背中に青銅の剣を刺された味方の姿が。
「マーティン!」
俺の掛け声虚しく、マーティンはパタリと倒れ起き上がって来ない、他の者もそうだ。
一気に5人やられた。
やばい。
「レティ隊長!」
俺は思わず隊長の名前を叫ぶ。
隊長はやられた仲間達の元に駆け寄り、背中に刺さっている青銅の剣に向かって聖剣を斬りつける。しかし青銅の剣は嘲笑うかのようにそれを回避し中に浮いている。恐らくはレイスの類だろう。そのタイプの備えは今の我々には無い。
「レティ隊長! 撤退しましょう」
レティ隊長はその美しい顔をぐしゃりと歪めながら「撤退」と大きく叫ぶ。
しかし、決断虚しく1人また1人とやられていく。
俺は必死に応戦した。
「うっ」
くそっ足を切られた。
いてぇ。
その後、数号撃ち合ったが、結局バランスを崩し、倒れた所に剣を突きつけられる。動いたら殺すと言わんばかりの無機質な威圧に俺は動く事も声をあげる事も出来なかった。
そして俺達は捕虜となった。
「おぉ! 人間!?」
そう言って現れたのは全身泥だらけの奇妙な服を着た男だった。
「すごい!9人もいるのか、もったいないから死体の方から実験する。お前達は捕虜を逃さないように見張ってくれ」
その男は嬉しそうにマーティンに近づき、ぶつぶつ独り言を喋りながら死体を触り始める。
なんとか逃げ出せないかと辺りを見渡すがそんな隙はみあたらない。
一番の実力をもつレティ隊長が無力化されているのに俺が抜け出せる訳もないか。
いったいこれから何が起こるのかとビクビクしていると信じられない事態が起きる。
マーティンが起き上がったのだ。
「どうだ? 喋れるか?」
「はい、問題ありません」
「体の傷はどうだい?」
「痛みはありません。すぐに治るかと」
「記憶はどうなっている?」
「記憶はありませんが知識としては存在します」
「君は国に帰りたいかい?」
「いえ、ここで貴方様のお側で働きたいと思います。よろしいでしょうか?」
「それは助かるよ。喋れるだけでも貴重なんだ。待遇はお世辞にも良くはないが、そのうちなんとかするよ」
「はっ、有難うございます」
俺は何を見させられているんだ?
蘇生術か?
何故マーティンはあの男と親しそうに話しているんだ?
「マーティン! 怪我は大丈夫なのか! そいつは誰だ!?」
「お静かに願います。後でわかりますよ」
マーティンが何を言っているかさっぱり理解できなかった。
「マーティン君、この中で一番優秀な子はどれだい?」
「死体ならそこにうつ伏せにたおれている金髪の男です。生きてる人間だと、その銀髪の女です」
「なるほどね」
その後、死んだはずの仲間達は次々に起きあがっていく。まるで悪夢をみているようだ。
そして、その男は俺の目の前に現れる。
「みんな、この人の体抑えて。生きてる人間から魂を抜き取る実験と同じ魂を入れ直す実験をしたい」
寒気を覚えた。
こいつは人間じゃない。
間違いなく悪魔だ。
「やめてくれ……」
俺は仲間達に身体を押さえつけられ、完全に身動きが取れなくなる。
そこからは素晴らしい体験をさせて頂いた。まさに神代のお力と言っても過言ではないだろう。
埋め込まれていた忌々しい枷を七瀬様は外してくださったのだ!ダンジョンに入った仲間全員が産まれ変わった素晴らしい日。
興奮せずにはいられない。
一つ不満があるとすればレティだ。いや今はヴァルキュリヤか。
なんでも奴だけ特別製らしい。なんて羨ましい。
それにやつは七瀬様の騎士になった事を度々自慢してくるのだ。
いやなやつだ、俺はあいつが嫌いだ。
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