ゴブリン殲滅戦

 現在四階層。

 三階層との違いは特段無い。

 配属されているモンスターもゴブリンとスライムのみ。

 相変わらずゴブリンは好戦的だ。出会うとすぐにギィギィ言って襲ってくる。鬱陶しい事この上ないが、今の俺には部下がいる。「いけ! ゴブリンソード!」

と命令すれば、俺は高みの見物を決め込めるわけだ。


 ゴブリンvsゴブリンソードのバトルは呆気ないほど簡単に決着がつく。

 ゴブリンは早々にゴブリンソードに叩き斬られ、反撃する事も出来ずに動かなくなる。


 正直、ゴブリンソードが負ける未来が想像出来ない。そもそもこの不思議生物は戦闘でどうやったら死ぬのかも謎だ。剣が真っ二つに折れても平気で動きそうな気がする。


 こう考えたら、俺の派閥は無敵と化している。後は組織さえ拡大すればいいだけだ。そうすれば自然と現場でトップの地位になる訳だ。


「よし、ゴブリンソード。ゴブリンを片っ端から粛清していくぞ」


 ゴブリンソードは縦に体を振り俺の先頭を進む。なかなかに逞しく見える。

 俺は死体を売却しステータスを確認する。


ーーーーー

種族:魂操人形Lv2

名前:七瀬

スキル:

ポイント:90

ーーーーー


 今回の戦闘で手に入れたポイントは60。ちなみに前回は30だった。殺害時の10ポイントは変わらなかったが、売却値段が高くなっていた。違いは魂を抜いたか否かだ。


 ゴブリン殺害は10ポイント。

 ゴブリン死体は20ポイント。

 ゴブリン魂は30ポイント。

 となるわけだ。

 ゴブリンのレベルで左右される可能性はあるが基準にはなるだろう。


 ゴブリンを探しながら歩いていると、ゴブリンソードが突如停止する。

 その理由はスライムだ。

 緑のスライムは地面にベチャァとへばり付いている。


 ゴブリンソードは警戒してか、剣先をスライムに向け臨戦態勢だ。


 ここでスライムを殺してポイント査定をしたい気持ちは大きい。しかし、ゴブリンと違い好戦的では無い、殺し合う理由が無い。


「ゴブリンソード、スライム先輩は無害だから気にするな」


 俺はスライムにお辞儀をしてその場を通り抜ける。

 スライムは微動だにせず反応は伺えない。

 いったい彼等は何を食べて生きてるのだろうか。

 不思議な生物だ。


◆◆◆


 そこからはひたすらゴブリンを狩まくった。10匹から数える事をやめた。四層のゴブリンは全滅したんじゃ無いかと思うほど狩殺した。


ーーーーー

種族:魂操人形Lv4

名前:七瀬

スキル:指揮官Lv1

ポイント:1650

ーーーーー


 俺は一体もゴブリンを殺していないがレベルはしっかり上がっている。

 ポイントは1600ほど増えた、20匹半ばぐらい殺した事になる。


 新しいスキル、指揮官の効力は不明だ。

【指揮官:配下の能力が任務中上昇】とは書いているが実感は無い。ゴブリンソードは実感してる可能性はあるが確認することもできない。


これが相棒のステータスだ。

ーーーーー

種族:魂人形Lv5

名前:ゴブリンソード

スキル:剣魂Lv2、剣力Lv1

ーーーーー


 ゴブリンソードは俺よりレベルが上がり戦闘スキルも習得している。戦ってる本人の方が経験値が多いのだろう。

 頼もしい限りだ。


 スキルも二つ習得している。

【剣魂:エネルギー消費減少】

【剣力:斬撃の重量増加】

 このまま優秀な剣になって欲しい。


 後はポイントを使って部下を増やすのみ。

ーーーーー

ポイント:1650

【武器】

青銅の剣:500P

鋼の剣:1000p

ーーーーー


 俺は1500ポイント使い、青銅の剣と鋼の剣の購入申請を送る。

 前回のたかりと違い、即座にポイントが減算され商品が届いた。

 不思議な光景だ。

 現段階では青銅の剣で十分だが、不測の事態に備えておいて鋼の剣を買っておいて損は無いだろう。


 鋼の剣を眺めていると、相棒のゴブリンソードが俺の身体にもたれかかってくる。


「どうしたゴブリンソード?」

 体調でも悪いのだろうか?


 ゴブリンソードは鋼の剣の刀身に自らの刀身をぶつけてカチカチし始める。


「鋼の剣が欲しいのか?」


 そうだ! と言わんばかりに縦に体を揺らす。

 なるほど、命令だけ聞く無機質な存在だと思っていたら、そうゆう欲求があるのか。


 「わかった。体を移し替えるから動くなよ」


 ゴブリンソードの魂を青銅の剣から抜き取り、鋼の剣に移し替える。瞬間的に移す事は出来ないが、集中できる環境であれば1分ほどで作業を終わらせる事が出来た。


 新しい体を手に入れたゴブリンソードは嬉しそうに回転しながら宙を舞っている。


 少し予定は変わったが残りの手元には青銅の剣が二つ。

 目の前に転がっている二匹のゴブリンの死体から魂を抜き取り、アイン、ツヴァイ、と名前をつけて魂を込める。

 新しい新人の誕生だ。


「力を使ったら腹が減ってきた。五層にでも降って飯でも行こう」


 会話は出来ないが親睦会と勤しもう。

 ゴブリンソードの想像を遥かに上回る優秀さに、新人の期待が膨らむ。



 それからは五層に上がり、ゴブリンの魂を皆んなで食い散らかした。

 ゴブリンソードは相当腹が減っていたようで、俺より二匹多い、五匹をたいらげ満足したようだ。


ーーーーー

種族:魂操人形Lv4

名前:七瀬

スキル:指揮官Lv2

ポイント:420

ーーーーー


「ゴブリンソードは見張りを頼む、アインとツヴァイはこの階層のゴブリンを掃討してくれ」


 我ながらダンジョンに染まって来たのか、労働時間超過の罪悪感は一切なく仕事を振る。それは俺自身、疲れを感じていないからだろう。食事で腹が満たされると同時に疲労感も消えていった。

 便利な体だ。


 ゴブリンを大量に殺して気づいた事がある。このダンジョンは殺し合いを容認している事だ。

 当たり前だが、生物は活動すれば腹が減る。しかし、ダンジョンは食事を用意してくれない。つまりダンジョン内の生物を捕食するか、ダンジョンの外に出て食糧を確保する必要があるわけだ。

 しかしダンジョンの外に出る事は与えられた職務から逸脱する行為だ。ここに来て最初に頭に直接送られて来た情報はダンジョンを守れという意識だった。相当優先度が高い項目なのだろう。

 それにダンジョン内のモンスターを狩ってもレベルも上がればポイントももらえる。

 殺し合えと言わんばかりのお膳立てだ。


 そうなってくると疑問点が一つある。ゴブリンのレベルが総じて低く感じられたことだ。このダンジョンシステムなら絶対に生態系の頂点に立つ者が現れ、レベルの差が生まれるのは間違いない、しかしどいつもこいつも弱い。

 これはこのダンジョンが出来てから時間が経って無いんじゃないだろうか。

 誰もがスタートラインに立っている可能性がある。

 これはチャンスだ。

 上手くやれば内部をある程度コントロールする事も可能なはずだ。


 1にも2にも暴力が必要な野蛮な世界だが、幸い自身が動かなくてもレベルは上がる。これは種族の恩恵としか言えない福音だが、最大限利用させてもらおう。

 直接戦闘のスキルは増えないし、鍛えれないが、それ以外は勝手に増えてるから問題は無いだろう。


 まずはやるべき事は縄張りを作る事だ。安全圏の確保とダンジョンの守りを両立するには他種族は邪魔でしかない。階層まるまる掃除して階段に見張りでもおけば問題ないだろう。

 他の階層には食事がてら偵察に向かい、組織だってきたり、強い個体が現れたら、そのつど対応していけばいいだろう。


 ダンジョン内を全滅させる事も考えたが、繁殖するのかポップするのか判らない以上は危険は犯せない。飯が食えなくなればこちらも全滅する。


 焦る必要はないだろう。この階層の掃除を部下に任せて、俺は社長への挨拶でも行くとしよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る