同僚
俺は青銅の剣をひっさげ、ダンジョンをこそこそ移動する。
息を殺して移動している理由は簡単だ。ダンジョンの僕達が俺の事を同僚だと理解してくれているのか不安だからだ。
だから二つの条件に合ったやつを探している。
一つ目は単独でいる事。
二つ目は見た目が弱そうなやつ。
二つとも安全を考慮しての条件だ。妥協は出来ない。
だが不安要素もある。
10分ぐらい適当に歩いているが、未だに同僚の影は無い。
もしや労働者俺だけ?
おぞましい……。
おぞましすぎるその未来……。
半ば祈りながら同僚を探すと見つけた。
はじめての同僚だ。多分。
しかも条件は合っている。
スライム?
なんか想像以上にネバネバ感がすごい。なんかこう、可愛くてぷるっとしたスライムを想像していただけに少し残念だ。
「こんにちは、はじめまして。
私、七瀬と申します」
俺は気さくに笑顔を作る。この粘液に言葉や愛想が理解できるのかは不明だが、念のためだ。
スライムはネチャと少し動いた。
俺はこれをどう解釈したらいいのだろうか。挨拶をかえされたのか?
そもそもスライムに知能はあるのか?
わからん!
時間の無駄な気がしてきた。
少なくともスライムは攻撃してこない。その事実を戦利品に人型のコミュニケーション可能な相手を探そう。
「では先輩、お先に失礼します」
俺はきっちり礼をとり立ち去る。
前途多難だ。
あんなネバネバが同僚とは。
役に立つとは到底思えない形をしていた。
流石にあの不定形が出世のライバルとは思えない。これから少し優しくしてあげよう。
それから5分程した時「ギィギィ!」と鳴き声が聞こえ、俺は急いで近く。
岩場の陰からこっそり覗くと、そこにはファンタジーの定番、ゴブリン先輩がいる訳だが。
正直、気分は上がらない。
見目も悪いうえに、謎の言語。
今確信した。
このダンジョンという職場は終わっている。
意思疎通が出来ず連携など不可能なやからしか存在していない。ボディランゲージにも限界はある。とりあえず試さない事には愚痴にもならないか。
「こんにちは、はじめまして。
私、七瀬と申します」
「ギィギィ!」
いや、ギィギィ言われてもわからん。
「ギィギィ!」
気のせいだろうか?
ゴブリンがこちらに向かって両腕を広げ威嚇している。
これがゴブリンの挨拶なのか?
どうやら同僚としては致命的な存在のようだ。好戦的すぎる。
そのくせ、体は俺より小さいし、社長から武器の支給も受けていない。どうやら彼は正社員ではなく、非正規雇用なのかもしれないな。
ふんっ。敵では無いな。
「南無三!」
先手必勝!
仲間を呼ばれれば何が起こるかわからない以上、今のうちに殺す。
青銅の剣を上段に構え、力一杯振り下ろす。
「ギャ!」
手に伝わる衝撃と感触が精神を揺さぶると同時に、体から力が湧き上る。
「きもちわる」
ゴブリンはパタリと倒れ、ピクリともしない。
初めての感覚にいい気はしないが、それ以上でも以下でももない。
ここらへんの感覚は頭をいじられでもしたのだろう、我ながら冷静すぎる気がする。
俺は倒れたゴブリンの死体を剣先で突っつき、死んでいる事を確認する。
すまんな同僚。
お前を雇った社長を恨んでくれ。
俺は魂の回収を始める。魂とは生物で、生命を停止した瞬間から、そこに留まる力を失う。故に、ダンジョンに回収される前に俺が回収する。
まるで産まれた時から知っているかのように、感覚的に魔術を発動する。
魂操人形の種族特性で魂を回収したり憑依させたりできる。
詳しいだろ? これでも魂操人形の端くれでね! なって1日もたってないがね。
魔術の展開が終わり、ゴブリンの体から微かに光る塊が目の前に浮いてくる。
俺は右手で青銅の剣を突き出し、左手で魂を捕まえ、剣に宿す。
ゴブリンソードの完成だ!
ゴブリンソードは自立しふわふわ浮いてる。
「回転しろ」
ゴブリンソードは命令通り回転し始める。
ゴブリンより優秀だ……。俺の言葉を理解している。
残念なのはゴブリンソードの方からコミニュケーションが取れないことか。
だが憑依物さえあればゴブリンの命でゴブリンより優秀な部下が手に入る事がわかったから良しとしよう。
ーーーーー
種族:魂操人形Lv2
名前:七瀬
スキル:
ポイント:10
申請
【売却】死体
ーーーーー
レベルが上がった事は良い結果ではある。だが冷静に考えれば微妙な話だ。
ダンジョンの僕を殺してもレベルは上がり、ポイントがもらえる。つまりは仲間など居ないと言う事だ、これは組織として欠陥だ。
後ろから刺される事を考えて立ち回る必要がある、現にゴブリンは威嚇してきた。
憂鬱だ。
しかし、味方を殺してもダンジョン社長は怒らないのだろうか?
ポイントにはケチだが、細かい事は気にしないらしい。
俺はさっさと【売却】死体を選択し、この場から去る。
社長は20ポイントでゴブリンを買い取っていった。
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