ダンジョン僕

 目が覚めた時、あまりにも状況が理解出来ずに思考が停止した。


「どこ?」


 周りは一面、岩と土。

 不思議な事に、淡く光り輝いている。

 何故か心が落ち着く気がした。

 しかしどう見ても洞窟だ。


 山田のやつ、俺を洞窟にでも捨てたのか? 生死を確認しないなんて阿保なやつだ。爪が甘い。


 しっかしどこだここ。

 こんな神秘的な場所があるなら観光名所になってもおかしくないはずなのに。

 これも何かの縁だ。警察に行った後に土地の値段でも調べてみるか。


 立ち上がるとカランと何かが落ちた音が耳に届く。

 なんだこれ?

 ドッグタグ?


 拾い上げようとペンダントに触れた瞬間、光り輝き体の中に吸収されていった。


「うっ……」


 頭痛と共に何かが体の中を侵食する感覚。

 それと同時に、摩訶不思議な情報が脳内を駆け巡る。


「ダンジョンって……」


 夢だと考えた方がまともだろうが、この痛みと奇妙な現象のせいかは不明だが、俺の思考は真実だと思ってしまっている。


 ここはダンジョン……らしい。

 なんでも侵入者から魔力と魂を吸い取り成長する。だがダンジョン自体に侵入者を排除する機能は無く、かわりにダンジョンの僕を配置し侵入者を排除させる。


 そして有難くも『ダンジョンの僕』に選ばれたらしい。


 よく言えば、命の恩人

 悪く言えば、身勝手な事だ。


 契約書を書いていないのにも関わらず、雇用関係が成立するのは遺憾ではあるが、本来死んでいた俺を超常の力で蘇らせてくれたのなら恩に報いるのも悪くはない。


 それに……。


 体内に入ったドッグタグを意識する。


ーーーーー

種族:魂操人形Lv1

名前:七瀬駿

スキル:

称号:

ポイント:0

申請

ーーーーー


 完全にゲームだ、考えるだけ馬鹿らしくなってくるほどに。

 これが異世界の常識なのかダンジョンの常識なのかはわからないが、郷に入っては郷に従えとも言うし、慣れるほかないだろう。

 それ以前に、脳内に情報を送る技術があるのなら常識ぐらいは送って欲しいもんだ。

文句をいいたい。

なんせ知り得たのは、ダンジョンである事と、この謎のステータス表記と、自分の事ぐらいだ。


 なんせ『魂操人形』なる謎の生物になった。人間を卒業して人形になったらしい。

 自分の姿がどうなってるのかは気になる。手や足を見るだけなら人間と変わらないが、この体が人形なのだろうか? よくわからん。


 魂操人形の能力としては魂を扱えるようだ。魂を回収し憑依させれるようだ。詳しい事は実際にやればわかるだろう。


 正直、侵入者を排除する野蛮な業務につく以上、人間より強い力がある方がいいだろう。なんて、こんな頭のおかしい思考に至ってる時点で異世界に来た時に俺の頭はバグったらしい、発狂するよりはましと思うか。


お先真っ暗だな。


取り敢えずステータス下に表示された申請に意識を送ると表記が変更される。


ーーーーー

ポイント:0

武器

防具

アイテム

スキル

情報

売却

ーーーーー


 ショップみたいなものか。

 ダンジョンに貢献したら報酬がもらえるわけだ。

 とりあえず武器を見てみる。


ーーーーー

ポイント:0

武器

青銅の剣:500P

鋼の剣:1000p

ーーーーー


 少な……。

 しかも夢が無い。

 ここまでファンタジー全開できたのに唐突にリアルなラインナップ。

 あるじゃんオリファルコンとかヒヒイロカネとかさ。買えるような値段じゃ無くても表示だけしとけばいいのに。


 てか、よくよく考えたら働かせるなら労働環境ぐらい整えやがれ!

 初期武器ぐらい配ってから配置しろよ。素手でどうやって敵を殺すんだ?

 勝ち筋薄すぎるぞ。


怒りの鋼の剣連打!

【ポイントが足りません。申請しますか?】

 お? イエス! YES!

 どうやらポイントが足りなくても申請が出来るようだ。

 労働者の意見に耳を傾ける良識は持ち合わせている事に少し安心する。


【申請は否定されました】


 俺はそっと鋼の剣をもう一度押す。

【申請は否定されました】


 最初の返答より明らかに早く、ほぼノータイムで否定された。


 俺は諦めて青銅の剣を申請する。

 30分ぐらい経っただろうか? 目の前に突然、青銅の剣が実現する。

 どうやら申請は通ったみたいだ。


 ただ問題なのは、青銅の剣500pを支給するのに30分の長考をしたことだ。

 500ポイントの価値にもよるが、もしやこのダンジョンは資金難に陥ってるんじゃないだろうか?


 はぁ。退職したいぐらいだが、義理は果たそう。

 とりあえず行けるとこまで出世してから考えよう。

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