戦勝のダンジョンモンスター出勤録〜配下の魂人形を従え魔王軍を成り上がる〜

NEET山田

プロローグ

 俺『七瀬駿』勝つ事に執着した。


 子供の頃、大人達は俺に言った。

 友達と『仲良く』しなさいと。


 それは正しい事でもあるのだろう。

 実際友達とも遊ぶし、女の子とデートする事もある。


 だがその裏では成績で優劣がつけられ評価がつけられる。


 戦っているんだ。


 戦国時代なら負ければ死ぬ事もあるだろうが、この平和な時代にそれは無い。必然的に必死に戦うやつはそんな多くない。

 それを喜ぶ事はあれど、嘆いた事は無い。

 何故なら対戦相手が少ない方が『勝利』しやすいからだ。


 学生の頃は勉学が戦いの主戦場だった。

 勉強を楽しいと思った事は余り無い。

 興味のある教科や知識は面白いが、過去の政府の西暦なんてものを覚えさせられる苦行は今考えるただけでも虫唾が走る。

 無論、将来役に立つなんていう謳い文句の為に勉強している訳では無い。

 勝利の為だ。ただ勝ちたい、負けたく無い。それだけだった。


 勝利の悦に浸れるのは別に勉強だけでは無い。ゲームだってそうだ。

 勉強と違い、ゲームは勝利の信奉者が多い。生半可な気持ちでは、勝ち抜く事は出来ない世界がそこにはある。

 だからこそ熱くなれるし、勝利した時には大量の脳内部質が駆け巡る。


 自分でも理解している。狂気だと。

 恐らく俺の周りの友達は気づいていただろう。

 よく考えてみて欲しい。

 状況設定はこうだ。

 友達同士でパーティーゲームをプレイしているんだ。NPCをボコボコに殴って和気藹々といい雰囲気。このまま終わるかに思えたその時、突如裏切り、一位の友達に攻撃を始める同級生。

 小学生同士なら喧嘩が始まる。

 中学生同士なら雰囲気がわるくなる。

 高校生同士の時は流石に笑い話で終わった。

 そんな事をしていれば小さい頃は遊びにも誘われなくなったりした。だけど俺の勝ことえの欲求が薄れる事は無かった。



 人間の人格は家庭環境や生活環境で生成されるなんて言うが、俺の環境は至って普通だし、異常なのは俺だけだった。


 だがそんな俺も社会人になると悩み始める。始めの頃は良かった。

 同期達と争い結果を残し、出世する。

 至極真っ当。何も変わらない勝利の味。

 だが地位が上がった時に変化が訪れる。

 何が勝利で何が敗北なのか条件が複雑怪奇になり勝利が濁り始めた。


 会社では一番の成績。だが所属している会社は一番では無い。

 会社を一番にしたら俺の勝ちなのか?

 だがそれをするには余りに権限が足りない。

 転職するべきか?

 しかし転職すれば、見ず知らずの誰かに負けたということじゃないか?

 いや労働賃金を上げればキャリアアップだ負けでは無い。

 そんな葛藤に明確な答えが出ないまま俺は転職した。

 転職先は東証一部の上々企業だ。


 俺はあの手この手で評価を勝ち取り出世した。だけど最高の気分だったのは一瞬だけだった。


 まさかこんな負け方があるなんて考えて無かった。



 周りからは悲鳴やら怒号が微かに耳に残る。ぼやける視界にいたのは、競いあった会社の同僚だ。手には鉄パイプを握りしめ、顔には後悔の表情。


俺は辞令を受けたその日、後頭部を殴られ意識が途絶えた。

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