第387話 オークとの戦い

 アメリカで開発された魔導兵器『魔導プラズマ銃』は、オーク帝国と戦う為に必要な数だけ生産された。そして、魔導プラズマ銃を装備した小部隊が各地に派遣される。

 その輸送にはグレーアウルの同型機が使われた。


 自衛隊の異世界駐屯地となっている場所にも派遣された。転移門初期化装置を使用し使えるようになった転移門近くに築かれた駐屯地である。


 ミズール大真国のボルオル街道の近くに在るので『ボルオル駐屯地』と呼ばれるようになっていた。ボルオル駐屯地の指揮官は、昇進した四宮一等陸尉の上官である河野一等陸佐だ。


 そのボルオル駐屯地に、魔導プラズマ銃を装備したアメリカ軍の小部隊が加わり、厳しい訓練が開始された。


 アメリカ軍が主導する作戦の準備である。その作戦は、オークがリアルワールドへ魔物を送り込む転移門を封印するのが目的だ。


 各国の精鋭部隊と魔導プラズマ銃を装備するアメリカ軍小部隊が合同でオーク軍を攻める事になる。アメリカ軍小部隊が合流してから半年間、合同訓練や演習が行われ作戦決行の日が来た。


 自衛隊の精鋭部隊一二〇名とアメリカ軍小部隊が、オークが占拠する火山近くに存在する転移門へ向かう。


 精鋭部隊を率いるのは、四宮一等陸尉だった。

 オークの転移門近くまで来た合同部隊は、オークたちを偵察した。オークたちは二〇〇匹ほどで、それぞれが武装している。しかも追放されたオークとは違い、精悍な雰囲気を漂わせていた。


「オーギュスト中尉、移動してくれ」

 三丁の魔導プラズマ銃を装備するアメリカ小部隊は三つに別れ、オークたちを三方から囲むような位置に移動し攻撃の合図を待つ。


 四宮一等陸尉はオークたちを観察しながら、タイミングを待っていた。昼飯の時間になったのだろう。オークたちの何匹かが転移門のある遺跡の中に姿を消す。


「アタック!」

 四宮一等陸尉の声が周囲に響き渡った。その瞬間、三丁の魔導プラズマ銃が引き金を引かれた。銃口の先に光り輝くプラズマ粒子の球体が形成され撃ち出される。


 プラズマ球が弾かれるように前方に飛翔し、オークたちの周囲に着弾すると爆発した。


 飛散したプラズマがオークの体を焼き焦がした。オークたちが叫び声を上げながら地面に倒れ、弱々しく地面で藻掻く。


 その声を聞いた大勢のオークたちが、遺跡から出て来た。その連中に向かって、魔導プラズマ銃の二撃目、三撃目が撃ち込まれる。


「<爆炎魔導印>、射撃用意!」

 四宮一等陸尉の命令が響く。射撃と言っても銃を持っている訳ではない。槍トカゲの舌を利用したパチンコである。


 玉に<爆炎魔導印>の応用魔法を掛け、自衛官たちが放った。小さな爆発が幾つも起き、オークたちを吹き飛ばす。


 完全な奇襲だった。戦いは合同部隊が優勢のまま推移する。

 このままオークを制圧するかと思われた時、オーク側の隠し玉が現れた。大柄なオーク三匹が遺跡内部から進み出て、その体の一部に彫られているタトゥーを輝かせ始める。


 タトゥーをしたオークの手から火の玉が生まれ、合同部隊に向け放たれた。ゴオッという音を響かせながら飛んだ火の玉は、自衛官たちの近くに着弾し爆ぜる。今度は自衛官が悲鳴を上げ、地面に倒れる。


「魔法を使うオークを狙え!」

 四宮一等陸尉が大声を上げた。魔導プラズマ銃がプラズマ球を発射する。同時にオークが炎の玉を放ち、オーク寄り中間地点で接触した。


 巨大な爆発が発生する。凄まじい爆風が戦っていたオークと人間を吹き飛ばす。混ぜてはいけないエネルギーを混ぜてしまったようだ。

 被害はオークたちの方が上だった。チャンスと判断した自衛隊の精鋭部隊が突撃する。


 激戦の末、合同部隊はオークたちのほとんどを倒した。だが、少数のオークは逃げ延びたようだ。

「負傷者の手当てを行え」

「<治癒>が使える者は来てくれ」


 自衛隊は、『治癒回復の神紋』を持つ伊丹が活躍したのを知り、隊員に『治癒回復の神紋』を授かる事を奨励した。御蔭で四人の<治癒>が使える者が存在する。


 オークの占領地を攻略した合同部隊は、転移門がある場所に行き、その転移門が使えないようにする。転移門の金属盤に刻まれている太陽のようなマークに魔力を流し込み、金属盤と地下にあるアウルター源導管が分離したのだ。こうすれば封印出来ると教えたのは、ミコトたちだった。


 金属盤は持ち帰り、自衛隊が保管する事になる。合同部隊は死者九名、負傷者三十二名を出し目的を達成した。


 四宮一等陸尉は死者が出た事実にショックを受けていた。作戦前から覚悟していた事なのだが、実際に仲間の死体を目の前にすると、その責任の重さで心が震える。


 川越陸曹長が近付いて、四宮一等陸尉の肩を叩いた。

「我々はベストを尽くしたんです。それでも死傷者が出る事は、覚悟していたんじゃないですか」


「いや、自分には覚悟なんて出来ていなかった。指揮官の器じゃない」

 川越陸曹長はもう一度、四宮一等陸尉の肩をポンポンと叩き。

「今は感傷に浸っている暇はなんです。やるべき事をやりましょう」


 四宮一等陸尉は小さく頷き、命令を出し始める。

 合同部隊は少し休憩した後、オークが残していったものを回収し引き上げた。回収品はオークの調査に役立てる予定だ。


 オークたちは必ずここを取り返しに来ると予想していた。ぐずぐずしている暇はない。一刻も早く撤収しようと四宮一等陸尉は決めていた。


 自衛隊の作戦は犠牲者を出しながらも成功した。それと同時に、各地のオーク占拠地で作戦が実施され、リアルワールドへ魔物を送っていた転移門が封印された。

 国によっては、そのまま奪取した地点を占拠した。守り切れる自信が有るのだろう。


 人間たちの攻撃を知ったオーク帝国の青鱗帝は、一つの決断を下した。それをミコトたちが知るのは、もう少し後になる。


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