第385話 黒翼衛星基地の侵入者

 数日後、日本に戻った俺は、薫から中国黒社会の住人が黒翼衛星プロジェクトを狙っていると知らされた。


「狙いは、黒翼衛星プロジェクトの技術情報か」

「そうだと思う。でも、技術情報は実証研究館のサーバールームに入らないと手に入らないのよね」


「あそこに行く通路には、例のトラップを仕掛けたんだろ?」

「ええ、許可なく通路を通れば、トラップが発動する仕掛けよ」

 俺は試しにトラップに掛かってみたが、二度と試したいとは思わない。


 マナ研開発の研究室で薫と話をしている時、東條管理官から電話が有り、公安警察からの情報で中国黒社会のメンバーだと思われる者が日本に入国したと知らせて来た。俺は黒翼衛星基地の警備状況が気になったので、黒翼衛星基地へ視察に行く事にした。


「あっ、お父さんも行くと言っていたから、面倒を見てね」

「面倒を見てって言われても、立派な大人なんだから自分で面倒はみるだろ」

「万一の事が起きた時よ。お父さんは普通の人なんだから」


 俺はニヤリと笑って、

「伊丹さんに鍛えて貰えば?」

 薫が苦笑いする。

「言ったでしょ。お父さんは普通の人なの。伊丹さんに任せたら廃人になりかねない」


 翌日、俺と三条社長は黒翼衛星基地へと向かった。

 空港から同じ車で黒翼衛星基地へ行く。途中の道路は県が整備を行っていた。マナ研開発は多額の税金を収める事になるのだからか、優先してくれているようだ。


 薫の父親と一緒だと思うと緊張する。

「ミコト君、うちの娘をどう思う?」

 三条社長の目が、敵を見付けた兵士のような目になっている。


「す、素晴らしいお嬢さんだと思います」

「そうだろう、私の自慢の娘だ。だがね。娘はまだ高校生」

 三条社長は薫の事を心配し、俺に釘を刺したいようだ。『健全な交際』という言葉を五回も繰り返され、辟易する。


 やっと車が黒翼衛星基地に到着。黒翼衛星基地の門は厳重に警備されており、通行証がなければ入れない。敷地は五メートルの塀と鉄条網で囲まれており、容易に侵入出来ないようになっている。


 車から降り周りを見回す。未だに監視者が多いようだ。ある者は木に登って双眼鏡で、別の者は山の中腹から高性能な監視装置を使って監視している。


 本番機の建設が行われている中央の小山は、多くの建設機械が入り作業が続けられている。ドーナツ状の建物が完成すれば『環状黒翼センター』と呼ばれる予定になっていた。その山頂に聳え立つ巨大な塔は『黒翼衛星タワー』と名付けられている。


 実証機の魔力塔には約四〇の黒翼制御魔導基盤が組み込まれていたが、本番機の黒翼衛星タワーには三〇〇近い黒翼制御魔導基盤を組み込む作業が行われている。


「凄いものだな」

 三条社長は目の前に広がる光景を見て、感嘆の声を上げた。

「何だか。未来の世界を見ているようですね」

「まったくだ」


「これが完成するのはもうすぐだ。社内でテストをした後、日本政府や外国の代表とマスコミを招いて公開稼働試験を行うのだが、大丈夫なのかね」


 三条社長は公開稼働試験を心配しているようだ。

「完成した後、黙ったまま稼働すれば、国際社会から不信感を持たれる、と日本政府から言われて、公開稼働試験をする事になったんですよね」


「それは分かっている。だが、何だか不安なのだよ」

 アメリカから、中国黒社会が黒翼衛星プロジェクトを狙っていると知らされ、三条社長は不安になっているのだろう。


 実証研究館に入った俺たちは、荒瀬主任から進捗状況を聞いた。予定通り建設は進んでいるようだ。幾つか問題も起きたが、薫も含めた全員で解決したらしい。


 一通り進捗状況を聞いて、実証研究館の中も見学すると夕方になった。俺たちは黒翼衛星基地の宿泊施設に泊まる予定になっている。宿泊施設は従業員用に建てられた社員寮だ。


 三条社長は早目に社員寮へ帰り、俺は実証研究館でパソコンを借り中国の黒社会について調べた。残虐な事を平気でする組織のようだ。


 一〇時を過ぎた頃、遠くで魔力が爆ぜるのを感じた。

「何だ?」

 俺は思わず声を上げ、一緒の部屋に居る荒瀬主任が、こちらを見て怪訝けげんな顔をする。


「誰かが魔法を使った」

「何だって!」

 俺と荒瀬主任は警備員室に行き、監視カメラの映像をチェックした。西側の塀を監視しているカメラの映像が真っ暗になっていた。


「この映像は、どれくらい前から映らなくなった?」

 俺は警備員に尋ねた。

「先程です。それで確認しに行こうと思っていた所です」


「いや、行かなくていい。侵入者が居るようだ。サーバールームの通路に誘い込む」

 侵入者が銃を持っていた場合、警備員の命が危険だと判断した。


 <魔力感知>で確かめると、侵入者は既に実証研究館の内部に入り込んでいた。

 モニターを見ると西側通路の映像で変化しているものがある。ゆっくりと見える角度が変わっていくのだ。誰かが監視カメラの角度を変えている。それもカメラに映らないように魔法を使っている。


 その西側通路では、四人の覆面をした男たちが銃を手にして走っていた。男たちは監視カメラを発見すると<念動>の魔法を使い角度を変え、死角を作り進んで行く。


 リアルワールドで魔法が使える男ホンレイは、『竜の洗礼』を受けている。だが、竜殺しではなかった。仲間が殺した竜から放たれた魔粒子を吸収しただけの男である。


 それでも通常の兵士一〇人と同時に戦って勝てるだけの身体能力を持っていた。


 サーバールームは地下一階の奥にある。覆面の男たちは地下に通じる階段があるドアを探し当てた。鋼鉄製の扉と厳重なセキュリティが施されていた。


 男たちがここまで来るのに犯したミスは一度だけ。最初の監視カメラの角度を変える時、魔力を込め過ぎカメラを破壊してしまったのだ。


 ホンレイを含む覆面の男たちは、鋼鉄の扉にプラスチック爆薬を仕掛け爆破した。その瞬間、非常ベルが鳴り響く。男たちは素早く地下に下り、サーバールームへと続く通路を走り出した。


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