第383話 刺客と有識者会議2

「それでは会議を始めます」

 下園補佐官は会議の議題となる転移門についての新発見を説明した。大学で危機管理学について講義している水原教授が手を上げる。


「転移門に受信装置が組み込まれているという事は、長い年月休眠していた転移門を誰かが起動させたという事になるのですか?」


 三田総理が頷く。

「我々はそう考えております」

「なるほど。そうなると色々な可能性が出て来ますな」


「転移門を起動させたのは誰か判らないのですか?」

 テレビ番組でコメンテーターをしている男が質問した。


 誰なのかという疑問が出席者の間で議論になった。異世界の国の中には魔導技術が発達している国もあり、そういう国は近隣の遺跡などを調査している所もある。

 そういう国の一つではないかという意見が多かった。


 下園補佐官が誰かという議論を止め、マナ研開発の代表である俺に意見を求めた。

「あなたにはマナ研開発の代表として来て貰いましたが、役職を教えて下さい」

 若い俺を見て、周りに皆は不審に思ったようだ。


「役職は特にありません。ただマナ研開発は私を含めた数人で設立した会社です。私は大株主という事になります」


 こういう所で喋るのは苦痛でしかなかった。特に自分の事を『私』とかいうと下を噛みそうになる。


 会議場がざわついた。マナ研開発は日本で最も注目される会社となっていた。その大株主という事なら、日本有数の資産家という事になる。


「マナ研開発は研究者でないあなたを、何故この会議へ?」

 俺は面倒臭い事になったと思いながら、

「それは今回の新発見の切っ掛けになったものを見付けたのが、私だからです」


 全員が注目した。三田総理が、

「何を見付けたというのですか?」

「私は迷宮に潜り、古代魔導帝国の遺跡らしいものを発見しました」


 俺は迷宮帝国の地下室で発見した壊れた転移門について説明した。そこに使われていた次元転移陣が二世代ほど古いものであり、受信装置が組み込まれていなかった事実を伝えた。


「なるほど。古い次元転移陣と現在使われているものを比べる事で、今回の新発見がなされた訳ですか。面白い」

 水原教授が声を上げた。俺は最後に伝えたかった事を告げる。


「その地下室には、一つの地図が有りました。地図は瘴霧の森付近のもので、地図の中に一つの施設が書き込まれていました。蟻塚山脈近くに在る『中央塔』と名付けられたものです」


「まさか、それが送信施設だと言うのかね?」

「分かりません。見付かったのは壊れた転移門と地図だけだったのです」


 中央塔の位置が、オークの住処である瘴霧の森近くだというのが問題になった。

「仮に、オークが転移門を長い休眠状態から起動させたのなら、大問題です」


 下園補佐官が大きな声を上げた。オークが世界中の転移門に命令を送れる送信施設を手に入れているのなら、転移門を使うのは危険だった。

 その後、薫が言ったように退屈な議論が続き、俺は眠気を堪えるのが大変だった。


 この会議の後、日本政府は世界各国に呼び掛け国際会議を開き、情報を公開した。だが、転移門のアンテナ部分を処理すると決定した国は少なかった。日本とイギリスだけだったのだ。


 それも全部の転移門を処理するのではなく、数箇所のあまり重要でない転移門だけに処理を行うと決定した。


 何故、他の諸外国が処理を拒否したのか。それはアンテナ部分を処理すると、マナ研開発が開発した転移門初期化装置が使えなくなると分かったからだ。


 転移門初期化装置は転移門のゲートマスターを変更したい時に有効な装置だ。諸外国はゲートマスターの変更という手段を放棄したくなかったようだ。


 俺たちは日本政府の決定とは別に、管理している三つの転移門のアンテナを処理する事に決めていた。


 久しぶりに樹海に在る転移門へ転移した俺は、その日の内に転移門のアンテナを処理した。次のミッシングタイムである六日後に確認すれば、本当に大丈夫かどうかが判明する。


 その頃、アメリカの国家安全保障担当補佐官ドワイト・A・アンダーソンは、マグナム大統領から質問を受けていた。


「魔導兵器の開発が完了したと聞いた。量産は可能なのか?」

「開発チームは可能だと言っています」

「威力はどうなんだ?」


「比較するのは難しいのですが、戦車砲に匹敵する威力が有ると思われます」

「ふむ、オークとの戦いに使えるのだな」

「はい」

 マグナム大統領はオークが占拠している転移門の奪取計画を立てるように命じた。


 ドワイト補佐官が、もう一つの懸案である日本の黒翼衛星プロジェクトについて話を始めた。

「報告では、宇宙に漂う魔粒子を集める装置だそうだな。どれくらいの量を集められるのかね?」


「まだ実証機が完成しただけの段階なので、本番機がどれほどかは、正確には答えられないようです。ただシェール石油並みの資源になると、日本は期待しているようです」


「何……シェール石油並みだと……」

 大統領は深刻な表情をして考える。

「その技術を手に入れないのか?」


「開発したマナ研開発という会社のガードが堅く、難しいようです」

「ふん、日本政府に圧力を掛けろ」


「承知しました……それから、魔導兵器の情報を盗んだ男と関連があった中国の黒社会の者たちなのですが、魔導兵器だけでなく、黒翼衛星プロジェクトの方にも何らかの計画を持っていたようです」


「気に入らんな。中国も黒翼衛星に興味を持っているという事か。同盟国のよしみだ。日本政府に教えてやれ」


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