第381話 転移門と受信装置2

「伊丹師匠たちは、何処に行っていたんです?」

 アマンダが尋ねた。

「迷宮帝国でござる」


「この辺では一番難易度が高い迷宮ですよね。どうでした?」

「魔物の密度が濃いようでござる。そなたたちはもう少し勇者の迷宮で修行してからでないと、ポーン級区画でさえ危ないかもしれん」


 ミリアたちも迷宮帝国の話を聞きたがったので、俺と伊丹は遭遇した魔物たちについて語りながら、趙悠館に向かう。


 趙悠館に戻った俺は、集めた材料を使って魔導反応金属の製作を始めた。材料の一つであるブラッドユニコーンの角を粉末にして、他の銀などの材料と混ぜたものを簡易炉で溶かす。


 そこに<触媒反応>の魔法を掛け、魔導反応金属を作り上げた。炉から出した合金を型に注ぎ入れて冷やす。魔導反応金属の色は乳白色である。


 魔導反応金属を使った表示装置は、魔導反応金属を金箔ほどではないが、薄く伸ばしたものを小さな四角い点に切り分け、ドットマトリクスのように魔力伝導板の上に並べ、神意回路技術により魔力の流れを制御する事で文字を表示させると御手洗教授が言っていた。

 俺の理解力の範囲を越えていたので詳しくは聞かなかった。


 俺たちが始めた高速空巡艇の開発は、イギリス・アメリカ・フランスが参加を表明し規模が大きくなっていた。


 まだ日本が主導権を持っているが、アメリカは多額の資金や多数の人材を投入し、開発計画を乗っ取りそうな勢いである。


 そんな中で、俺たちはグレーアウルを少しずつ改良する事で開発を進めていた。今回の表示装置もその一つである。


 アメリカとフランスは独自の高出力推進装置を開発しているそうだ。御手洗教授たちも新たな推進装置を開発している。但し、その推進装置はより速くではなく、燃費を改良する方向で開発が進められている。


 グレーアウルの同型機が製作され、アメリカに販売された。アメリカはデヨン大南洋に存在する島を探し、そこを中継基地とする事で、アメリカ本国の転移門から行ける異世界の国までの飛行航路を開拓しようとしているようだ。


 その試みは将来成功する。アメリカはデヨン大南洋に五つの島と二つの諸島を発見し、南東の大陸への飛行航路を発見したのだ。


 アメリカの動きを見たイギリスとフランスもグレーアウルの同型機を購入し、飛行航路の開拓に乗り出した。この二国は港湾都市モントハルに広い屋敷を買い、飛行場の代わりとしているようだ。


 イギリスとフランスは大陸の沿岸沿いに北上し共同で飛行航路を開拓する予定らしい。

 飛行航路を開拓した後は、俺たちから、浮揚タンクと魔導推進器、魔力供給装置を購入し、独自の高速空巡艇を開発しようと考えているようだ。


 その為だろうか。最優秀な人材を日本の開発チームの下へ送り込み、日本の持つ技術を学び取ろうとしている。


 俺がJTG支部で事務仕事をしていた時、薫から連絡があった。仕事を終えてから、マナ研開発に行く。そこには薫が待ち構えていた。


「迷宮帝国の地下室で発見した転移門だけど、大変なものだった」

「特別な転移門だったのか?」

「特別と言えば、特別かな」

 薫の微妙な返事に、俺は説明を求めた。


「あの転移門は、私たちが使っている転移門より、二世代くらい古いものだった」

 薫の話によると、世代の違う転移門を比較する事で、新たに判明した事が有るらしい。転移門としての機能はほとんど違いはなかったが、新しい転移門には魔力波の受信装置が組み込まれていたそうだ。


「それが重要なのか?」

 俺の疑問に、鼻息を荒くした薫が声高に言い放った。

「突然、転移門が一斉に起動したのは、『起動せよ』という魔力波の信号を、その受信装置が受信したからじゃないかと思うのよ」


「何だってー!」

 薫の推測に驚いた。そして、気になる疑問が浮かぶ。誰が『起動せよ』という魔力波の信号を送ったかだ。


「信号を送ったのは誰だと思う?」

「何処かの国が、信号の送信施設を発見し、信号を送ったんじゃないかと思うんだけど」

「送信施設?」


「世界全体の転移門に信号を送るには、規模の大きな送信施設が必要よ」

「なるほど、何処に……」

 そう考えた時、地下室の壁にあった地図を思い出した。


「中央塔か」

 薫が首を傾げる。

「何それ?」

 俺は地下室にあった地図の事を薫に話す。


「ふーん、蟻塚山脈の近くにね。可能性としては有りだけど、そんな場所に近付ける人なんて居るの?」


 蟻塚山脈には何万という戦争蟻が巣食っている。そんな場所に近付けば、間違いなく全ての戦争蟻が襲って来るだろう。誰だろうと生きて帰れる者は居ない。


「俺たちでも難しいな。中央塔に入るだけならグレーアウルを使えば可能だけど。戻れるかどうか」


 誰かが中央塔に入れば、それに気付いた戦争蟻が中央塔に入って来るのは予想出来る。もしかすると、塔の中も戦争蟻の巣になっている可能性もある。


「オークという可能性は?」

 俺は顔を顰めた。魔力波の信号を送信したのがオークだった場合、最悪だ。全ての転移門に干渉する方法をオークが持っているという事になる。


「その受信装置を無効化する方法はある?」

「簡単よ。アンテナ部分を切断すればいい」

「転移門の機能に障害は?」


「受信装置は独立しているから大丈夫」

「俺たちが管理している転移門は、アンテナ部分を処理するか」

「私も、その方がいいと思う」


「上に報告するべきだろうか?」

「政府にという事」

「そうだ」


 薫が深く考え込んだ後、

「もしかすると、人命に関わる発見かもしれない」

「そうか、政府に報告しよう」

 俺たちはマナ研開発の研究成果の一つとして政府に報告する事にした。


 話が終わった俺と薫は、夕食を一緒に食べようと外に出た。日は沈み、外は暗くなっている。

「何が食べたい?」

「そうね。洋食より和食っていう気分かな」


「じゃあ、寿司屋。それとも寒くなったから鍋とか」

「お魚が食べたいから、寿司屋にしましょう」

 俺は寿司屋に向かう途中、誰かが付けているのに気付いた。


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