第380話 転移門と受信装置

 円盤状の転移門にはヒビが入り、完全に壊れている。

 俺は転移門の金属盤に刻まれている太陽のようなマークに魔力を流し込んだ。ここに魔力を流し込めば、金属盤と地下にあるアウルター源導管が分離するはずである。


 何の前触れもなく、金属盤が回転しながら上に上昇し、カチリと音を発した。取り外せるようになった金属盤を伊丹と二人で外して、床に逆さまにして置く。


 金属盤の裏側には神意文字と神印紋がびっしりと刻まれている。だが、記憶しているエヴァソン遺跡の転移門のものとは何か違うような気がした。

 ここの次元転移陣の方が刻まれている神意文字と神印紋が少ないように感じたのだ。


「この次元転移陣は何かが省略されているのか?」

 伊丹が首を捻る。

「ここの転移門は、他の転移門より古いような気がするのでござる」


「ここのは型式が古いのかもしれないな」

 次元転移陣は多くの研究者が調査研究している。だが、中々研究は進んでおらず、一番研究が進んでいるマナ研開発でも四割ほどを解明したに過ぎない。


 その四割を元に転移門初期化装置を開発出来たのは、手本となるオークの装置が有ったからだ。


「これを修復するのは、可能でござるか?」

「……難しいかな。ヒビが裏面にまで達している」

「もう一つの転移門が手に入るのかと期待したのでござるが、無価値でござるか」


「いや、この次元転移陣は調べる価値が有ると思う。エヴァソン遺跡の転移門と何処がどう違うか調べれば、何か判るかもしれない」


「ふむ、そんなものでござるか」

 俺は<記憶眼>を使って次元転移陣を記憶する。俺の『魔導眼の神紋』は、薫から教わり『魔導数理眼の神紋』に改造していた。その御蔭かもしれないが、その応用魔法である<記憶眼>は以前以上に強力なものになっていた。


 短時間で次元転移陣を記憶した俺は、地下室の調査を始めた。伊丹は時計回りに、俺は逆回りに調べる。地下室は約三〇メートル四方の広さが有り、何かの残骸が床に散らばっていた。その残骸の正体はもはや調べようがない。それほどボロボロだった。


「ミコト殿、そちらに何かござったか?」

「いや……ん……これは。伊丹さん、ちょっと」

 壁に地図のようなものが描かれているのに気付いた。風化して色が薄くなっている。<冷光>の魔法を使って明るい光で地図を照らした。


「何の地図でござろうか?」

「これはオークが住処にしている瘴霧の森じゃないか」

 その地図によると、瘴霧の森と戦争蟻の巣である蟻塚山脈の間に、神意文字で中央塔と書かれた施設があったらしい。


 戦争蟻の巣の近くに重要な施設を建設するなど考えられないので、戦争蟻の巣が作られる前に建設されたものだろう。


「中央塔……アメリカが発見したクラダダ要塞遺跡のようなものでござろうか?」

「あそこよりも古いんじゃないかな」


 古いという事は中身が風化し、価値のあるものが無くなっている可能性が高い。しかも蟻塚山脈の近くでは危険過ぎて探索にも行けない。


 結局、地下室で発見したものの中で役に立ちそうなのは、壊れた転移門だけだった。地上に戻った俺たちは、目的であるブラッドユニコーンを探し始める。


 <魔力感知>には幾つか反応が有るのだが、その中のどれがブラッドユニコーンか不明だ。

 取り敢えず直感で選んで近付く。俺が選んだ奴は、トロールだった。身長三メートルを超える巨体、片手には丸太を削って作ったような棍棒を持っている。


「俺が仕留めます」

 俺が選んだ獲物なので、自分で仕留める事にした。

 絶烈鉈を取り出し、魔力を流し込む。形成された絶烈刃を上段に構えたまま近付く。トロールが棍棒を振り下ろしてきた。


 サイドステップして躱す。大きな棍棒が身体の横を風を巻き起こしながら通り過ぎ、地面を叩いた。ドカッという凄まじい音がして、地面の土が爆発したように四方に飛び散る。


 俺は飛び上がってトロールの首に絶烈刃を滑り込ませる。絶烈刃は大根でも切るようにスパンと首を刎ね飛ばした。


「お見事!」

 伊丹の言葉に頭を下げて応える。俺たちはトロールから高く売れそうな部位を剥ぎ取り、次の獲物を探す。次は伊丹が選んだ。


「トロールの次は、雷竜か」

 伊丹が選んだのは、トリケラトプスのような頭に二本の角を持つ四足歩行の恐竜だった。但し、角の先から放電しているので、魔物である。


 伊丹は魔導バッグから絶牙槍を取り出し構える。瞬殺だった。雷竜は二本の角を切られ、首が皮一枚で繋がっている状態になっている。


 伊丹が滑るように近付き、絶牙槍が消えたように見えた次の瞬間、そうなっていたのだ。

「改めて思うけど、伊丹さんが味方で良かった」


 迷宮帝国と呼ばれる迷宮は、他の迷宮より魔物の密度が濃いようだ。ブラッドユニコーンを発見する前に、トロール、雷竜、独角竜、首長黒竜と続けざまに魔物と遭遇する。


 やっとブラッドユニコーンと遭遇した時、俺と伊丹は少し疲れていた。

「やっと、ブラッドユニコーンか」

 真っ赤な毛並みに竜のような顔、馬と言うより麒麟に近い感じの魔物だった。

 俺たちを見たブラッドユニコーンが身を引いた。俺達の身体には、それまでに殺した魔物の血の臭いが染み付いていたようだ。その臭いを嗅ぎ付け、逃げ出そうとしている。


「ここで逃してなるものか」

「まったくでござる」

 俺たちは血に飢えた獣のようにブラッドユニコーンに襲い掛かった。


 斬撃が舞い、刺突が肉を貫く。ブラッドユニコーンも瞬殺だった。俺たちは目的の角を手に入れ、引き返した。迷宮帝国は予想していた以上にハードなようだ。


 ナイト級区画で、これほど疲れるのなら、ビショップ級区画に行けば返り討ちに遭うかも。俺たちにそう思わせるほど、魔物の密度が濃かった。


「この迷宮を探索するのなら、気配を消し、魔物に見付からないようにする技術が必要なようでござる」

「そうですね。ちょっと疲れたので、早く帰りましょう」

 俺たちは急いで帰り、迷宮都市に戻った。


 趙悠館に戻る途中、アマンダとキャッツハンドのメンバーに道で出会う。狩りから戻って来た所らしい。


「ミコトお兄ちゃんだ」

 ルキがトコトコと駆けて来て、俺の足に抱きついた。

「ルキね。ホブゴブリン、倒したんだ。しゅごいでしょ」


 ルキの年齢で、ポーン級上位のホブゴブリンを倒すのは凄い。伊丹が鍛えた成果が出たのだろう。俺がルキを褒めるとルキは嬉しそうに笑う。


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