第379話 表示装置

 クロエが最初に評判となったコンサートが開かれた頃、俺は航空工学が専門の御手洗教授と高速空巡艇について相談していた。


 御手洗教授がリーダーとして開発を進めている高速空巡艇の航空計器について話していた時、何かの切っ掛けで勇者の迷宮で手に入れた錬法術の知識『魔導反応金属』の話をした。


 魔導反応金属は魔力を流した部分が変色するだけなので、今まで注目していなかった。だが、その事を航空工学が専門の御手洗教授に話すと顔を赤らめ興奮した。


「それは表示装置として使えるのではないのかね」

「表示装置ですか。どういう風に?」


 電卓とかに使われている表示装置と同じでいいと御手洗教授は言う。液晶ディスプレイ並みのものは無理だが、簡単な表示装置なら可能だそうだ。


 通常の航空機には対気速度計・姿勢指示計・高度計・昇降計・方位計・傾斜計・燃料計などの計器が備わっている。どれも精密機械であり、その表示部分も異世界で開発するとなるとかなりの時間が必要となる。


 そこで表示部分を魔導反応金属を使った表示装置に統一する事で、開発期間を短縮しようと考えた。そうなると魔導反応金属を製造しなければならない。


 その為には魔導反応金属の材料となるものを集める必要がある。その一つがブラッドユニコーンの角だった。


 数日後。

 迷宮都市に戻った俺と伊丹は迷宮帝国に向かった。目的はナイト級区画に居るというブラッドユニコーンである。


 迷宮帝国は迷宮都市の西にある迷宮だ。大量の魔粒子が吹き出す広大な地下空間が迷宮化したのは、古代魔導帝国の時代だという伝承がある。


 二人は地下にある迷宮帝国への入り口から迷宮に潜る。この迷宮に階層はない。幾つかの巨大な地下空間が通路で繋がっているのが迷宮帝国だった。


 但し、迷宮ギルドでは地下空間の一つ一つを入口の近くから順に第一階層・第二階層と名付けた。便宜上そう名付けたのだが、それは定着せず、ポーン級魔物が多い地下空間をポーン級区画、ルーク級魔物が多い地下空間をルーク級区画と呼ぶようになった。


 入り口近くに在る地下空間はポーン級区画である。名前の通りポーン級のコボルトやホブゴブリンが多く生息している。


 地形は小山が連なる山岳地帯で、地下空間の天井にびっしりと水晶のようなものが生えている。その水晶は魔粒子を吸収し発光していた。


 その光を受け、植物が成長しているようだ。

「広いな。向こう端まで七キロくらいは有るんじゃない」

「その端に次の地下空間へ繋がる通路が有るのでござるな」


「そうです。後は魔物を蹴散らして行くだけ」

 二人は進み始めた。

 三匹のホブゴブリンに遭遇する。槍を持ったホブゴブリンが襲い掛かって来た。一番手に馴染んでいる邪爪鉈を取り出し、槍をかち上げる。


 槍を飛ばしそうになったホブゴブリンが必死で握り直し吠え声を上げた。俺は一歩踏み込んで邪爪鉈の刃でホブゴブリンの首を刎ね飛ばす。


 その瞬間、もう一匹のホブゴブリンが袈裟懸けに斬り掛かって来た。上半身を捻って躱し、ホブゴブリンの手を斬り飛ばす。ホブゴブリンが悲鳴を上げた隙に胸を切り裂き仕留めた。


 周りを見回した俺は、最後の一匹を、伊丹が仕留めているのを確認する。

「他の迷宮より、ホブゴブリンが大きいようでござるな」

 若干だが、ホブゴブリンの身長が他の迷宮より高い。


「魔粒子が濃いから、成長が促進されるのかもしれないな」

 俺たちは気を引き締めながら進み半分ほどまで来た時、黒大蜥蜴の群れと遭遇した。

「これは二〇匹以上、居るのではござらんか?」


「相手するのは面倒ですね。魔法を使いましょう」

 俺はマナ杖を取り出し、<魔粒子凝集砲>を放つ。爆発で大地が揺れ、爆風で俺たちの身体が吹き飛んだ。


 ゴロゴロと転がった俺たちは、立ち上がって防具に着いた土や砂を払う。

「ミコト殿、強過ぎますぞ」

 伊丹の文句に、俺は謝る。


「すんません。ここは<魔粒子凝集砲>の威力が増すようです」

 これも濃過ぎる魔粒子の影響らしい。魔粒子凝集弾が命中した場所を見る。大きなクレーターが出来上がっていた。黒大蜥蜴の群れは吹き飛んだようだ。


 ポーン級区画を無事に通過し、ルーク級区画へ入った。この区画は荒野だ。赤茶けた土の上に小さな岩が転がっている。所々にサボテンのような植物が群生しており、そこには金剛蠍や戦争蟻が群れていた。


 ここの区画も問題なく通過し、俺たちは目的のナイト級区画に突入する。ここの区画は広大だった。目算で二〇キロ以上は有りそうだ。しかも森林エリアなので、目的のブラッドユニコーンを探すのが難しそうだ。


 俺たちはブラッドユニコーンを探しながら森の中を彷徨う。

 二キロほど進んだ頃、廃墟跡を発見した。直径五〇メートルほどのドーム型建造物だったらしいが、屋根部分が崩れ落ち無残な姿となっている。


「ここは何だったのでござろう?」

「迷宮探索者の為の休憩所とか」

「いやいや、休憩所にしては規模が大き過ぎでござる」

 俺は首を傾げる。


「ちょっと調べてみましょう」

 俺たちは内部を調べ始める。床に落ちている屋根の残骸を調べ、この建物がコンクリートのような素材で出来ていたらしいのを突き止めた。


「特別なものは何もないようでござる」

「昔からある廃墟だから、探索者たちが探し尽くしているんだ。有るとすれば地下かな」


 俺は『神行操地の神紋』を使って地下を調べる。調べ始めてすぐに、地下に空洞が有るのに気付いた。

「この建物には地下室が有るようだ」


 俺と伊丹は<大地操作>の魔法を使い地下室まで穴を掘った。瓦礫や固く踏みしめられた土をどけ、直径一メートルほどの穴が完成する。


 近くに落ちていた枯れ枝に火を着け即席の松明たいまつにすると穴に落とす。地下室の床に落ちた松明は、周りの床を照らし出すが、降りてみないと中の様子は分からないようだ。


 俺と伊丹はロープを使って下に降りた。俺は<冷光>の魔法で周りを照らし出す。

「これは……」

 地下室の中央に壊れた転移門があった。


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