第373話 制圧チームの危機

 俺たちが、その砦を発見したのは昼を少し過ぎた頃の事だ。

 アメリカ軍から知らされていた地形と一致する場所を探し当て、砦を発見する。グレーアウルはリアルワールドの飛行機ほど騒音を出さないので、砦の人間には気付かれなかったようだ。


 グレーアウルは砦から四キロほど離れた森の中の空き地に着陸させる。

「装備を着けろ。魔法薬を忘れるな」


 制圧チームが出発する準備を始めた。これから出発し偵察などを行って、十分に調査し最終的に制圧するらしい。その間、俺たちはここに三日ほど待機する事になる。


 制圧チームが出発した後、伊丹がクロエを連れて狩りに出掛けた。俺は残ってグレーアウルの見張り番である。


「暇だな。何か魔物でも現れないかな」

 何だか物騒な事を言っていると、魔物以上に厄介な奴が来た。デビルスカンクだ。中型犬ほどの大きさで黒毛の中に一筋の真っ赤な毛が生えている。


「ヤバイ、何でこいつが来るんだ」

 このデビルスカンク、リアルワールドのスカンクと同じで強烈な悪臭を発する分泌液を噴出して敵を攻撃する。


 こいつは野生動物で魔物ではない。だが、魔物以上に恐れられている。デビルスカンクが俺を見て唸り声を上げた。


「何で唸ってんだ。お前には何もしていないだろ」

 魔物は問答無用で殺すが、野生動物は食べる目的以外では殺さないと決めていた。

 異世界は野生動物が貴重なのだ。魔物が蔓延はびこる世界では野生動物が生きていける場所は多くない。但し、このデビルスカンクだけは例外で、魔物もこいつにだけには手を出さない。


「こいつの分泌液は、リアルワールドのスカンクより強烈だという話だからな。関わり合いたくないんだけど、何で? ……まさか」


 俺は怒っているらしいデビルスカンクを見てから、グレーアウルが着陸した場所を確認した。

「……巣穴がある」

 どうやらデビルスカンクの巣穴の上にグレーアウルが着陸したようだ。


「移動する。移動するから、ちょっと待て」

 俺は慌ててグレーアウルに乗り込み、機体を少し離れた場所に移動させた。

 グレーアウルが移動したので、デビルスカンクは巣穴の中に消えた。


 一方、制圧チームは砦が見える地点まで辿り着く。

「特に変わった動きはありません」

 部下の報告にロバートが頷いた。


「出入り口を確認したか?」

「南東の狭い坂道と北側にある階段だけのようです」

「見張りはどうだ?」

「どちらも三人の見張りが居ます」


 以前から砦を調べていたアメリカ軍は、三〇人ほどの男たちが生活しているのを突き止めていた。

 制圧チームは夜中に南東の狭い坂道を登り、砦の門近くまで到達。石造りの防壁内部に櫓があり、そこに三人の見張り番が居る。


 制圧チームの三人が音を立てないようにして近付き、魔力の衝撃波を出す魔導武器を使って見張り番の三人を仕留めた。


 砦の内部に潜入する事に成功した制圧チームは、元兵舎だったらしい建物に忍び寄り内部を探る。この中に目的の国友信行が寝ている可能性が一番高い。


 兵舎の扉をロバートが開け中に入った。月明かりも入らない兵舎の中は真っ暗で何も見えない。制圧チームのメンバーは懐中電灯のような魔道具をそれぞれが取り出し使う。


 一階には大きな食堂みたいな区画と部屋が四部屋あった。その部屋の一つから気配がして男が一人出て来た。トイレにでも行こうとしているのか眠そうな顔でふらふらと廊下を歩き出す。


 ロバートが部下の一人に合図する。その部下は背後から男に近付き、口を押さえると胸にナイフを突き立てた。


 小さな呻き声を出した男は廊下に倒れる。チームは部屋の一つ一つを制圧していった。一階全ての部屋で寝ていた男たちを始末したが、その中に国友信行は居なかった。


 二階に上がり部屋数を確認すると九部屋ある。ロバートたちは一部屋ずつ制圧する事にした。二つ目の部屋に入った時、その気配に気付く。

「誰だ!」

 寝ていた男が声を上げた。


 その後は起きてきた砦の住人たちと制圧チームとの乱戦となる。

「殺せ、殺せ!」

「一人も生かして帰すな!」

 野盗らしい男たちが口々に叫び、制圧チームを襲う。


 装備を着けていない男たちと制圧チームでは、勝負にならなかった。制圧チームは敵わないと知り逃げようとする男たちを仕留める。


「クニトモだ!」

 ロバートの部下が国友を発見し声を上げた。アジア人らしい初老の男が怯えた顔をして逃げようとしている。ロバートは襲い掛かり国友信行を捕らえた。


 後で尋問する為に国友を縛り上げる。ロバートたちは国友を捕らえ、奪い取られた魔導兵器の情報が何処に有るのか聞き出すように命じられていた。


 その時、制圧チームの一人が奇襲を受け顔面を陥没させ廊下に倒れた。

「トーマス!」

 ロバートが部下の名前を叫ぶ。新たに現れた敵は三〇代の中国人らしい男だ。


「チッ、アメリカ人か。クニトモを追って来たんだな」

 この男、中国人の荒武者で名をウェン・ハオランという。元々中国マフィアの一員で異世界を金儲けに利用する為に、組織が養成した荒武者だった。ウェンは仲間と共に三つ首竜に挑み倒している。


 この男は正真正銘の竜殺しなのだ。ウェンは制圧チームに襲い掛かり一人また一人と倒していく。

「撤退だ!」


 ロバートが状況を判断して命じ、国友を担ぎ上げると撤退を開始した。砦を抜け出した時、制圧チームは三人に減っていた。


「隊長、撤退して下さい。我々が奴を抑えます」

 部下の二人が殿しんがりとして残ると言い出し、ロバートは唇を噛み締め許可を出す。


 夜明け頃、ロバートは国友を引き摺るようにして、グレーアウルが着陸している場所へ戻って来た。


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