第372話 クロエとワイバーン

 グレーアウルがクレボ峡谷に到着し、ワイバーンの姿を探して飛翔する。アカネと薫と来た時に、大量のワイバーンを仕留めたので、まだ居るのかと心配したが、まだまだワイバーンは居るようだ。


 操縦していた伊丹が、五匹のワイバーンの群れを発見。俺たちは岩場の間に在る草地に急いでグレーアウルを着陸させ、ワイバーンを迎え撃つ為に外へ出る。


 俺は絶烈鉈、伊丹は絶牙槍を取り出し構える。

「ミコト殿、油断なきように」

「心配無用!」


 俺と伊丹は落ち着いていた。しかし、クロエは怯えた目で迫って来るワイバーンの群れを見ている。

「ほ、本当に大丈夫なんですか?」

 クロエの心配そうな声に、伊丹が力強く答える。

「我らにとって、ワイバーンなど雑魚でござる」


「そ、そうなんですか。頑張って下さい」

 絶烈鉈に魔力を流し込み絶烈刃を形成すると、ワイバーンを睨む。獲物が来たと喜ぶワイバーンの群れが一斉に襲い掛かって来た。


 絶烈刃が閃きワイバーンを切り裂く。俺と伊丹はほとんど一瞬でワイバーンを仕留め、その死骸を積み重ねる。


 クロエは少し下がった位置で見守っていたが、凶悪なワイバーンを俺たちが瞬殺したので、目を丸くしている。


「クロエ、こちらに来て」

 俺がクロエを死骸となったワイバーンの近くに呼んだ。クロエがワイバーンの近くまで来た途端、魔粒子が放たれ始める。濃厚な魔粒子はクロエの身体に吸い込まれ、身体中のあらゆる筋肉細胞を一定の割合で魔導細胞に変換していく。


 クロエは身体中が熱を持ち力が溢れ出すような感覚と共に息苦しさを感じているはずだ。突然、クロエがバタリと倒れた。


「大丈夫でござるか?」

 伊丹がクロエを抱える。

 魔粒子の放出が止み、伊丹はクロエを抱いてグレーアウルへ運び入れた。


 俺はワイバーンの死骸から爪と皮を剥ぎ取る。慣れたもので、一時間もしない間に全部のワイバーンから剥ぎ取りを完了させる。


 俺がグレーアウルに戻ると、クロエが目を覚ましていた。

「迷惑掛けたみたいで、済みません」

「いや、誰でもああなるんだから、気にしなくていい」

「そうでござる」


 伊丹がクロエの体調を確認する。問題ないようだ。ワイバーン五匹分の魔粒子を吸収したクロエの身体は、魔導細胞が相当増えているはずだ。同時に使える魔力量も増えたはずなので、ハスキーボイスを出す修行が進むだろう。


 ミズール大真国の米軍駐屯地に到着し、制圧チームを乗せた。

「皆、ごつい奴らばかりでござるな」

 総勢七人の制圧チームは、元アメリカ海軍特殊部隊の隊員だったらしい。


 ツルツル頭の大男がチームリーダーだ。その男は俺を完全に無視して、伊丹に手を差し伸べる。

「私はロバート・スミス、制圧チームのリーダーをしている」

 伊丹は差し伸べられた手を握った。


「伊丹でござる。こちらが案内人のミコト殿です」

 ロバートは意外だという顔をする。

「失礼。若過ぎるので勘違いした」

 どうせ見習いか何かと勘違いしたのだろう。


 制圧チームは鎧などの防具と魔導武器を持ち込んでいた。それだけではなく魔法薬と野営装備も持ち込んでいる。


 鎧は抓裂竜の革を使ったもので、魔導武器は俺たちが売った簡易魔導核を元に作製したもののようだ。

「飛行予定はどうなっている?」

 ロバートが確認する。


 俺たちもミズール大真国の米軍駐屯地から西へ行った事がないので、中国やバングラデシュから仕入れた情報を元に大体の飛行経路を設定している。


 大まかな飛行経路は先に伝えてあるので、もう少し詳しい経路が知りたいのだろう。しかし、俺たちも詳しい経路は決めていなかった。


「ここから西は、俺たちにとって未知の領域なんです。少ない情報を元に飛行経路を設定しましたが、実際は飛びながら飛行経路を決める事になるでしょう」


 俺と伊丹で交代で操縦しながらグレーアウルを飛ばし、夕方近くになってイスタール帝国とボルデル王国との国境付近まで辿り着き、国境手前の草原に着陸した。


「本日は、ここで野営でござる」

 伊丹がロバートに告げた。

「ここはどの辺りなんだ?」


「イスタール帝国の端。もう少しでボルデル王国に入る所でござる」

「明日の昼頃には、砦に到着出来るか。よし……野営の準備をするぞ」

 制圧チームはテキパキと野営の準備を始めた。


 俺と伊丹もテントと寝袋を取り出し野営の準備をする。クロエだけはグレーアウルの中で寝る予定だ。

 その夜、一匹の斑熊が野営地に迷い込み、制圧チームによって手際よく仕留められた。


「結構やるようでござるな」

「そうですね。砦に待ち構えている犯罪者程度なら、大丈夫なようです」

 制圧チームが戦う様子を見ていた俺と伊丹は、感想を言い合う。


 翌朝、簡単な食事をした俺たちは、ボルデル王国に向け出発した。目的の砦はボルデル王国の北部に位置する場所に存在する。元々は隣国との境だったのだが、その隣国が竜の襲撃で滅び、砦だけがポツリと残されたのだ。


 もちろん、必要のなくなった砦は廃止され、砦を守っていた兵士は居なくなった。

 その砦にいつの間にか一癖ある者たちが集まり、水滸伝に出て来る梁山泊のような場所になったのだ。但し、梁山泊のように豪傑や軍師が集まっている訳ではない。


 そこらの小悪党や野盗が集まり暮らすようになったのだ。それが最近になって変わった。外国人だと分かる奴らが、その砦を乗っ取り小悪党や野盗を組織化した。


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