第361話 国際会議2

「何で、俺なんです?」

 その質問に東條管理官が溜息を吐いた。、

「お前は日本を代表する案内人の一人なんだぞ」


「それなら伊達さんとかに頼めばいいじゃないですか」

 東條管理官が一瞬だけ表情を曇らせる。

「伊達か、彼からは忙しいと断られた」


 俺は断わっていいのかと思い、東條管理官の方を見る。管理官が凄い目付きでこちらを睨んでいるのに気付いた。俺は東條管理官からのプレッシャーに負け、承知した。


「神代理事長たちと一緒に参加するだけでいいんだ。ちょっとした観光旅行だと思い楽しめばいい」

 俺は観光旅行という言葉に惹かれた。国際会議は韓国で開催される予定なのだ。


「一緒に行くだけでいいんですね」

 俺が念を押すと、東條管理官が頷く。この時は、本当に観光気分で外国旅行を楽しもうと思っていた。


 パスポートを用意し、韓国語を勉強する。最近記憶力が強化されたのか、単語や発音を覚えるのは簡単だった。魔法を使う事で脳細胞が活性化しているのかもしれない。


 国際会議の開催日が迫り、俺は神代理事長たちと韓国へと飛んだ。金浦空港に到着した俺たちは、向かえの車に乗って会場となるホテルに向かった。車の中で神代理事長が、

「ミコト君は、韓国は初めてかね?」

「そうです」


 神代理事長は仕事で何度も来ているそうで、美味しい店を幾つか紹介してくれた。

「ところで、他国の案内人はどれくらいのレベルなんですか?」


「そうだね。中国と韓国の案内人は優秀だと聞いている。竜殺しほどではないが、ナイト級の魔物を倒せる腕利きが大勢居るそうだ」

 アジアでは、中国の案内人が一番数が多く優秀だと言われている。


 その理由は、初期の段階で大勢の人間を異世界に送り込んだからだ。日本では一人の案内人に二人か三人の案内人助手が居るという状況だが、中国では一人の案内人に一〇人ほどの案内人助手を付けるそうである。


 その分、依頼者のニーズに応えられる結果となり、優秀だと言われているのだ。俺や伊丹には、アカネとクロエしか案内人助手が居ないので増やすようにと東條管理官からは言われている。

 とは言え、俺たちは幾つかの秘密を抱えているので、信用出来る人物しか案内人助手にしたくなかった。


 ホテルに到着し、各自に用意された部屋へ行き休憩する。荷物を置き、パスポートと財布だけを持って部屋を出た。ホテルのラウンジに行きコーヒーを飲んでいると知らない韓国人から声を掛けられた。


「アンニョンハセヨ、君は案内人じゃないのか?」

 挨拶だけは韓国語だったが、後はミトア語で尋ねられたので、相手も案内人ではないかと推理する。俺はミトア語で答えた。


「ええ、あなたも案内人なの?」

「韓国で案内人をしているユン・ビョンハだ」

「日本の案内人ミコトです」

 ビョンハは二〇代後半の男性で、韓国案内人の代表だと言う。


「しかし、日本は君のような若い者を代表に選んだんだね」

 意外だという感じで、ビョンハが言った。


「本当は、伊達さんという案内人が代表に選ばれていたようなんだけど、都合が悪くて代わりに俺になったんですよ」


「でも、代表に選ばれるくらいなんだから、優秀なんだろうね」

「そんな事はないです」

 俺が謙遜していると、浅黒い肌の男が近付いて来た。


「君たちも案内人なのかな?」

 俺とビョンハが頷くと男が自己紹介する。

「タイから来たソンブーンです」

 ソンブーンは四〇歳ほどの商売人のような男だった。


 各国の案内人たちと話をした後、夕食の時間になったので別れる。夕食は神代理事長と一緒に食べ、その日は早めに寝た。


 翌朝、ホテルの会議場で会議が始まり、俺は神代理事長の横に座って話を聞いていた。議題はオーク帝国の脅威についてだ。


 韓国の代表が意見を述べる。

「我々の国は、オークの脅威にさらされている。その脅威を取り除く為には、オークが占拠している異世界側の転移門を奪う必要がある。その事は皆さんも判っていると思う」

 韓国代表は、各国の軍隊が兵力を出し合い、オーク帝国と戦うべきだと主張する。


 その主張に対して、指揮権の問題やどの国がどれだけの兵力を出すかでもめ始めた。結局、結論が出ないまま議論は終了し、次の議題に移る。


「中国で若返り薬の詐欺事件が起きました。将来、このような事件が二度と起きないように対策を行って欲しい」


 詐欺の被害者が多かった台湾代表が意見を言うと、中国代表が反発した。中国と台湾は歴史的な事情から対立する場合が多い。この時も議論が白熱し感情的な言い合いとなってしまう。


 そして、最後に騙されるような者が愚かなのだという事を中国の案内人が口走ってしまった。それには各国も反発する。


「事の発端は、日本がR再生薬をオークションに掛けた事が原因だ」

 何故か必要以上に興奮している中国の案内人が、見当違いな意見を言う。


 これには俺も黙っていられず、

「R再生薬のオークションは、正当な商業行為だ。何ら問題はない。見当違いな意見は控えて貰いたい」


 中国の案内人がムッとした顔でこちらを睨んだ。結局、異世界で作成した魔法薬の販売は、国が認定しない限り販売出来ないようにするという方向で、意見が纏まった。結果を聞いて、俺は溜息を吐く。


 趙悠館で行っている医療活動には、大量の魔法薬を使っている。何らかの法律が出来た時には、国の認可を取る必要があると言う事だ。


 昼になり、会議は中断された。俺は神代理事長と昼食を食べラウンジで寛いでいると、中国の案内人が近付いて来た。


 中国の案内人は、俺を見ると不機嫌な顔になる。

「日本は何を考えているんだ。こんな若造を案内人の代表として連れて来て」

 わざわざミトア語で言った事を考えると喧嘩を売っているとしか思えない。


 俺が反応する前に、神代理事長が意外に流暢なミトア語で言い返す。

「彼は若いが、優秀な案内人だ。他国の案内人に劣るとは思っていない」

 そこに中国の代表と他の案内人たちが現れた。


「チェン、また騒ぎを起こしているんじゃないだろうな」

 神代理事長と同じ立場にいるクワン会長が案内人のチェンを睨む。

「別に騒ぎなど起こしていませんよ。日本の案内人に挨拶しようとしていただけです」


「ほう、それならいいが……神代さん、日本の案内人は伊達君が来ると思っていたんだが、違ったようだね」

 クワン会長の言葉に神代理事長が答える。


「彼は都合が悪くて来れなくなったのだ。だが、ミコト君は伊達君に劣らない優秀な案内人ですよ」


 クワン会長が底意地の悪そうな笑いをチラリと浮かべる。

「そんなに優秀なのかね。実力を見てみたいな。どうかね、このチェンと腕試しをさせてみないか」


 会長はこの機会に日本から来た案内人の実力を知っておきたいらしい。もしかすると、チェンに命じて喧嘩を売らせたのかもしれない。


 神代理事長が困ったという顔をする。

「腕試しと言われましても、今回の会議は各国案内人の親睦を深めるという目的もありますので、相応しくないのでは」


「いやいや、ほんの余興だよ。直接戦うのが駄目なら、それぞれの得意としているものを披露するというのはどうだね」


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