第360話 国際会議

 JTG本部に行った翌日、俺はマナ研開発に行き、黒翼衛星プロジェクトの進捗状況を確認した。薫は学校に行っているので、荒瀬主任から詳細を聞く。


「プロジェクトは順調に進んでいます。実証研究館が建設中で、秋には完成する予定です」

「魔粒子の蓄積はどうなっているんだ?」


「実証機を一回起動するのに必要な魔粒子の四割ほどが集まりました。秋までには二回の実験が可能な量を溜められると考えています」


「二回で成功するかな」

「駄目な時は、また魔粒子を溜めてやり直せばいいだけですよ」

「そうか」


 黒翼衛星プロジェクトについて状況を聞いた後、話が新製品の開発に移った。マナ研開発では、メディカル・マナパッドの次の商品として、皮膚細胞修復装置を開発しようという目標を掲げている。


 皮膚細胞修復装置は火傷などにより傷んだ皮膚細胞を修復再生する装置である。

 この装置を開発しようと提案したのは、マナ研開発の女性研究員だった。本当は美顔器を作りたいと考えていたらしいのだが、上司に却下され皮膚細胞修復装置という医療器具に変更したらしい。


「まあ、美顔器でも皮膚細胞修復装置でもヒットすれば問題ないだろう」

 因みに、翌年に完成した皮膚細胞修復装置はヒット商品となる。話が終わり、マナ研開発を出た俺は、久しぶりに商店街へ買い物に向かった。


 今日は土曜日である。小さな子供たちが両親と一緒に買い物に来ていた。商店街の入口近くにある公園に見慣れた顔を見付ける。


「タケシじゃないか」

 児童養護施設の小学生タケシだった。タケシはビクッと反応しこちらを見る。

「何だ、ミコト兄ちゃんか」


「何だはないだろ。一人で何しているんだ?」

「別に。暇だから公園でぶらぶらしているだけさ」

「暇だったら、勉強すればいいだろ」


 俺が説教じみた事を言うと、

「ミコト兄ちゃんはどうなの。勉強している?」

 反撃されてしまった。


「まあ、それはともかく。暇だったら買い物に付き合え」

 誤魔化したのに気付いている顔で、タケシが、

「何か奢ってくれるなら、付き合うよ」

 偉そうな返事が返って来た。俺は苦笑しながら承知する。


 二人で商店街に入りゆっくりと歩く。タケシが楽しそうに手を繋いで歩く親子連れを羨ましそうに見ている。

「どうした、タケシ。手を繋いで歩いてやろうか」

 タケシが顔を顰めた。


「気持ち悪い事を言うなよ」

「こいつ、タケシのくせに生意気な」

 俺はタケシの頭をヘッドロックする。二人でじゃれ合っていると目的の大型スーパーに到着した。


「ところで、ミコト兄ちゃんは何を買うの?」

「洗濯機だよ。乾燥機付きのものが欲しいんだ」

「何だ、干すのが面倒になったのか」


 図星である。電化製品の売り場に行って、洗濯機が展示してある所を一廻りする。

「ねえ、これがいいんじゃない」

 タケシが一番高い洗濯乾燥機を指差した。


「でも、これってちょっと大きいな。一人なんだから小さな奴でいいんだよ」

「ふーん」

 俺は一回り小さな洗濯乾燥機を選んで購入し、明日の午前中に配達してくれるように頼んだ。


「さて、買い物も済んだしどうするかな」

「奢ってくれる約束だろ」

「何が食べたいんだ?」


「食い物より、ゲームを買ってよ。ミコト兄ちゃんは金持ちなんだろ」

 ゲーム機を買うくらいは何でもないが、少し躊躇う。

「タケシだけにゲームを買ったら、他の子から文句を言われそうだ」


「だったら、三台くらい買ったらいいよ。交代で遊ぶから……オリガも喜ぶと思うよ」

 タケシがチラッと上目遣いで俺の方を見た。最後の言葉は、俺をその気にさせようという猿知恵だろう。小賢しいとは思うが、小学生のタケシとしては精一杯の知恵なんだろうな。


「分かった。買ってやるよ」

「やったー!」

 それからタケシに引きづられるようにゲーム機が並ぶコーナーに連れて行かれ、ゲーム機本体、モニター、ソフトを選ぶ。


 タケシは携帯型ではなく、据え置き型のゲームが欲しいそうだ。ソフトは店員に聞いて、男子用と女子用に分けて買った。大量の荷物となったので、児童養護施設に配送して貰うように手配する。


 タケシと一緒に児童養護施設へ行き、施設の職員であり古武術の先生でもある香月師範に事情を説明しゲーム機が届く事を伝えた。


「タケシの奴が我儘言って済まんな」

 香月師範が謝った。俺は首を振る。

「これくらいは何でもないです。それより、オリガは元気ですか?」

「ああ、向こうの部屋におる」

 俺はオリガから小学校での出来事や友達の事を聞いて、楽しい一時を過ごした。


 翌日をゆっくりと過ごした俺は、月曜日にJTG支部へ出勤。書類整理をしていると、東條管理官からお呼びが掛かった。


「何でしょうか?」

 東條管理官は応接室で背広がピシッと決まった男と話していた。

「ミコト、こっちに来て座れ」

 ソファーに座っている東條管理官の命令で、俺はその横に座る。


「こちらは異世界対策庁の竹内参事官だ」

 異世界対策庁は、転移門が出現した以降に創設された組織だ。

「案内人のミコトです」


 俺がペコリと頭を下げると、竹内参事官は俺の方をジッと見る。

「若い案内人ですな」

「若いですが、腕利きですよ」

 東條管理官が珍しく俺を持ち上げた。


 異世界対策庁の役人が何の用なんだろうかと考え、黒翼衛星プロジェクトに関してだろうかと予想する。異世界対策庁と言えば、魔粒子の研究をしている役所だからだ。


「来月、アジア諸国の異世界や転移門を管理する組織のトップが集まり、国際会議が行われる。その会議にはJTGの神代理事長と異世界対策庁の野々部長官が出席される」


「俺に何の関係があるんです?」

 東條管理官の話によると、その国際会議には各国の代表的な案内人も参加するという。各国の案内人が交流する事が目的の親睦会も開かれるらしい。

 そして、俺には日本を代表する案内人として、国際会議に出席して欲しいと言う。

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