第353話 魔導兵器の開発2

 沖縄の米軍基地とアメリカ本国で協力しながら、魔導兵器の開発が進められていた。その中心となる魔導技術の研究者はG・E・ラッセルという名の中年研究者である。


 ラッセルは神意文字の研究者で、遺跡で発見した魔導兵器の中核技術を解析した功労者でもあった。


 解析したと言っても完全に理論が解明された訳ではなく、大体の構造が判明しコピーする事が可能となった程度である。


 発見された魔導兵器には、五つの魔導基盤に神意文字を使った魔法回路が刻まれていた。

 ミコトたちが使っている補助神紋図とは違い神印紋は使われてはおらず、電子基板の回路図のような模様と神意文字で構成されているのが特徴である。


 このアメリカで解析された回路図の技術は、神意回路図または神意回路技術と呼ばれるようになり、アメリカの得意とする技術となる。


 補助神紋図は魔力を細かく制御する機能に優れており、神意回路図は膨大な魔力を制御する機能に優れていた。アメリカが欲していた魔導兵器という面で考えると神意回路技術を得たのは正解だと言える。


 基地内にある研究所で、ラッセルは調整した回路図をチェックし軍人のダニールに渡した。

「これが試作7番ですか」


 ダニールは見たものをカメラのように記憶する能力を持つ人物だった。『魔導眼の神紋』を持つ者なら、<記憶眼>を使って同じような事が可能だが、ダニールは魔法を使わず自分の能力だけで記憶する。


 異世界の米軍駐屯地へ転移したダニールは、紙に神意回路図を書き写し現地開発主任のシルヴァーニに渡した。

「魔晶玉に神意回路図を刻むまで、どれくらい掛かるんだ?」

「三日ほどですよ」


 魔導基盤の製造技術はマナ研開発しか持っていないので、代替品として魔晶玉に神意回路図を刻むという方法で開発が進んでいる。

 三日後、神意回路図を組み込んだ魔晶玉が魔導プラズマ銃に組み込まれた。


 シルヴァーニは開発チームを引き連れ、試射場に向かう。その中にはフランス陸軍から派遣されたジャコブ少佐も同行していた。


 試射場と言ってもただの岩山である。ゴツゴツした岩が散乱している場所まで来た開発チームは、銃架に魔導プラズマ銃を載せ、五〇メートルほど前方にある大きな岩に照準を定めた。


「試射するぞ」

 若い軍人が魔導プラズマ銃の引き金を引く。銃口の先に透明な球形の力場が形成され、その中に光り輝くプラズマ粒子が注入される。


 次の瞬間プラズマ球が弾かれるように前方に発射された。引き金を引いてから発射されるまで二秒ほどだが、タイムラグがある事は使う場面とタイミングを難しくしていた。


 プラズマ球は大岩に命中し爆散した。岩の破片が周囲に弾け飛び、轟音が響き渡る。命中した大岩は粉々になり、半径一〇メートルほどの周囲に焼け焦げと破壊の跡が刻まれた。


 その威力を見て、ジャコブ少佐は驚いた。だが、開発主任であるシルヴァーニが不満気な顔をしているのに気付く。


「想定したものより、破壊力が小さいようだが何故だ」

 シルヴァーニが魔導プラズマ銃を点検させた。

「主任、銃の先端が溶融しています」


 確認した者が残念な知らせを伝える。それを聞いたシルヴァーニが顔を顰め、近寄って魔導プラズマ銃を調べた。


 ジャコブ少佐も確かめ、ミスリル合金で作られた魔導プラズマ銃の先端が熱で溶けているのを確認する。

「ミスリル合金は熱にも強かったはずではなかったのかね?」

 シルヴァーニが難しい顔をする。


「そうなんだが、生み出されたプラズマの高熱に耐えられなかったようだ」

「どう対処する?」


「素材を変更しなきゃならんでしょう。ミスリル合金以上の強度を持つものとなれば、魔物の素材か。誰か魔物の素材に詳しいものはいるか?」

 魔物に詳しい数人の軍人に確かめたところ、ファイアードレイクの牙が候補に上がった。


「その魔物は、何処に居るのだ?」

 シルヴァーニが尋ねると、試射に同行していたグレイム中佐が、

「迷宮都市の近くに在る勇者の迷宮に居ると聞いています」


「ほう、ミコト君の所ですか。彼の所なら新型の魔導飛行船で配達も可能ですね」

 シルヴァーニも時々駐屯地に来るミコトを知っていた。


「ああ、実験機のグレーアウルという機体ですか。我が国でも購入を検討していると聞いていますよ」


 グレイム中佐が内部情報を伝えた。中佐が口にしたという事は、検討という段階を越え購入する事がほとんど決まっているのかもしれない。


「誰がファイアードレイクを狩るのかね?」

 ジャコブ少佐の質問に、グレイム中佐が当然のように。

「ミコト君に狩りをして貰い、素材だけ届けて貰おうかと思っていたのですが」


「資料で読んだが、ミコトという人物はまだ未成年だというではないか。そんな少年に任せて良いのか」

 グレイム中佐が微笑んだ。


「そういう心配をする気持ちは理解出来ます。ですが、ミコト君なら心配無用。彼は竜殺しですからね」

 ミコトは自分たちが竜殺しだとは明言していなかった。だが、ミコトの行動や強さを調べたアメリカ軍は、ミコトとその仲間が竜殺しだと考えていた。


 ジャコブ少佐はミコトに興味を持った

「ふむ、面白い。日本の竜殺しに新型の魔導飛行船か……私もファイアードレイクの狩りに同行してもよろしいか」


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