第349話 R再生薬と中国製若返り薬

 世界中の報道機関がオークションに出品されたR再生薬の情報を調べ回り、日本政府から誰が作ったものなのか聞き出そうとした。


 だが、政府関係者でもR再生薬について詳しく知っている者は限られていたので、聞き出す事は出来なかった。


 ただR再生薬と命名されている事から、再生薬の調合に何か工夫しているのではないかと思い付いた者が現れ、研究が始まったようだ。


 因みに上級再生薬を作るのに必要な材料は、ヒュドラの魔晶管内容液・竜霜花の種・九神樹の実・竜種の血清が主要なものとなる。


 竜霜花はワイバーンの群れが住む場所に咲いている花、九神樹の実は樹海に生息する妖樹の実である。どちらも手に入れるのが困難なものだ。


 以前から上級再生薬を作ろうと考えていた俺は、それらがギルドに持ち込まれた時に買い取り保存していたので、R再生薬を作れたのだ。


 俺と薫は二回目のオークションの結果をマナ研開発の研究室で知った。この研究室は薫専用で、薫が可愛いクッションやヌイグルミを飾っているので研究室とは思えない。


 今回のオークションではR再生薬五〇人分が出品され、一回目とは桁違いの高値で落札される。

「……」


 俺は届いたメールで落札金額を知り、言葉も出ないほど驚く。そんな俺を見て、薫が、

「これくらいで驚いちゃ駄目よ。たぶん三回目、四回目となるほど落札金額は高くなると思う」


 オークションは四回に分けて行う計画である。

 R再生薬のオークションは、マナ研開発の事業の一つとして行われた事になっている。日本政府に協力を要請した時に、そういう形式にしてくれと頼んだのだ。個人で行った事にすると税金が凄い事になると薫が言い出したからだ。


 オークションで稼いだ資金は、黒翼衛星プロジェクトに投資する。こちらの事業は急ピッチで建設予定地の造成が進んでいるが、その費用が莫大なものになっていた。


「黒翼衛星プロジェクトの進捗状況はどうなんだ?」

「順調そのもの。第一期建設予定地の造成が終わって、実証研究館の建設が始まった所よ」

 実証研究館では小型の実証実験用黒翼衛星装置を作り、実際に宇宙空間を飛来する魔粒子の捕獲を行う予定になっている。


 黒翼衛星プロジェクトについて話している所に、マナ研開発の若い男性研究者が来た。

「た、大変です。二人ともテレビを見て下さい。中国でも若返り薬の販売が始まったそうなんです」


「中国でだって……中国の連中もヒュドラモドキを仕留めたのか?」

 薫がテレビの電源を入れた。報道番組で中国の企業が、若返り薬の販売を始めた事を報道していた。その企業名に聞き覚えはない。


「へえ、若返り効果は一〇歳なのか。R再生薬とは別物なんじゃないか」

「でも、嫌なタイミングで販売を始めたものね。次のオークションに影響するんじゃないの」


「中国の若返り薬はオークションじゃないんだな。販売価格は……R再生薬の落札価格と比べて滅茶苦茶安いな。若返り効果が一〇歳だとしても、一〇分の一というのは安過ぎないか」


 薫が難しい顔をする。

「ねえ、オークションを延期しようか」

「どうして?」


「タイミングが不自然なのよ。私たちがR再生薬をオークションに掛けた直後に、若返り薬の販売を始めるなんて」


 薫は中国の若返り薬が偽物じゃないかと疑っているようだ。

「そうだな。今オークションに掛ければ、中国の若返り薬の値段が基準となって落札されそうだな」


 俺は東條管理官にも連絡し、オークションを延期するよう手配した。R再生薬のオークションが延期になった事で、中国の若返り薬が世界中で注目された。


 凄い数の資産家が若返り薬を購入した。その数は二〇〇人を超え、一〇〇〇人以上となる。東條管理官も疑い始めた。こんなに大量に若返り薬を作る為の材料をどうやって集めたのか疑問に思ったのだ。


 R再生薬をオークションで落札した資産家から、こんな事なら中国の若返り薬を二回分買えば良かったと不満の声が上がった。


 その声に同調する者が増え、効果を保証した日本政府にも抗議する者まで現れた。若返り薬を飲む為に、中国の転移門から異世界へ転移した資産家が帰還する日。


 俺たちは若返り薬が本物かどうか注目し、結果を待つ。若返った資産家たちが無事に戻ったという情報がテレビニュースで流れた。


「へえ、本物だったんだ」

 日本に戻っていた俺とアカネは、偽物騒動が起きるかと期待していたので肩透かしを食らった感じだ。


「この中国の会社は、まだまだ若返り薬の販売を続けているようね。もしかすると仙人みたいな人が、異世界で仙丹を作って販売しているのかもしれない」


 アカネが適当な意見を口にする。

 俺は少しだけ肩を落とし、R再生薬を高値で売る計画を諦めた。


 それから数日が経った頃、若返り薬を販売していた会社が消えた。やはり詐欺グループが作った会社だったらしい。若返って帰って来た資産家というのは、詐欺グループが用意した役者だったと判明した。


 最後の客寄せに役者を使ったのだろう。日本の資産家の中にも詐欺に引っ掛かった者が居たらしく、警察は何をしていたんだと騒ぎ始め、最後には代わりにR再生薬を寄越せと馬鹿な事を言う奴も現れたようだ。


 警察は日本で詐欺グループの手先となって働いていた連中を逮捕し、金の流れを調査した。だが、売上金は中国へ送金された以降、何処に消えたのか分からなくなっている。

 裏で大きな組織が動いているのではないかと噂が立った。


 中国の若返り薬が詐欺だった事で、R再生薬も詐欺なのではないかと疑われた。

 効果を保証している日本政府は、一回目と二回目の落札者を調べて判ったデータを公表し、R再生薬が偽物ではないと宣言する。


 それでも世間の疑惑は払拭せず、数人分のR再生薬を使って、もう一度効果を実証する羽目となった。


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