第344話 海上の王子たち
その夜の襲撃は、奇襲が失敗した事により襲撃者側の敗北が決まった。
連続で放ったモルガート王子の烈風刃が、襲撃者のリーダーの首を刈り取り襲撃者たちの混乱を招いたのだ。
混乱する襲撃者たちに、魔導師のニムリスが<暴風氷>を放つ。その攻撃魔法で襲撃者のほとんどが倒れ、残った者も兵士たちにより倒された。
モルガート王子が倒した襲撃者たちの持ち物を調べるよう命じる。
「殿下、この者たちは身元を示すような物を一切持っていません」
ニムリスの報告にモルガート王子が頷く。
「そこまで馬鹿ではなかったか」
「ですが、この顔付きは魔導先進国の国民だと思われます」
それを聞いて、モルガート王子は顔を顰める。
「レースを中止し、この事件を主催国に報告しますか?」
「それは駄目だ。もしもオラツェルの奴が優勝してみろ。我が陣営の旗色が悪くなる」
モルガート王子とオラツェル王子は、魔導飛行船レースをしていると同時に、次期国王を決めるレースも行っているのだ。
この島で待っていれば、襲撃の結果を確かめる為に黒幕が出て来るかもしれない。だが、それでは魔導飛行船レースを棄権する事になる。
「しかし、
ニムリスの言葉をモルガート王子が遮る。
「これは次期国王を決めるレースでもあるのだ。続けるしかない。襲撃の黒幕を探すのは、レースが終わってからだ」
その言葉には、モルガート王子の決意が篭っていた。ニムリスたちは従うしかない。
日の出とともに島を出発。その日の風は微風である。先行した帆船型飛行船に追い付けそうだ。
しばらく順調に飛んだ時、帆船型飛行船の一隻に追い付き追い越した。
「あれはジェルズ神国の飛行船か。いい調子だ」
その日の夕方、空巡艇二号はレースの先頭付近を飛んでいた。モルガート王子たちより前にいるのは、オラツェル王子だけだろう。
静かな海に夕陽が落ちそうになった頃、空巡艇二号が停泊する島に辿り着いた。予定よりもう一つ先の小島である。
野営場所の周囲を探索し、昨日のような襲撃者がいない事を確かめた。ニムリスが王子と肩を並べて歩きながら話しかける。
「この空巡艇は凄いものだったのですな」
魔導先進国の帆船型飛行船を次々に追い越していくのを見て、そう感じたらしい。
「陛下は、無事に戻って来るだけで十分だと仰られていたが、このままだとオラツェルの奴と一騎打ちになるかもしれんな」
モルガート王子は空巡艇の性能に満足していた。魔導先進国のものに比べても負けなかった実績は賞賛すべきだと正直思う。
「国に帰ったら、この空巡艇を作った者たちに褒美を出すのが、良いのではございませんか」
「そうだな」
一日目とは違い静かな夜が過ぎ、朝となった。空巡艇の個室で寝ていたモルガート王子は、雨粒が船体を叩く音で目を覚ました。
操縦席の方へ行くと、外で寝ていたニムリスたちが戻っていた。
「殿下、おはようございます」
「ああ、おはよう。外は雨なのか?」
「ええ、先程から降り出しました。風も進行方向に向って横から吹き付ける風に変わっております」
「今日の飛行は、順調にはいかんようだな。地図を出せ」
広げられた地図を睨んだモルガート王子が、
「風に流される事を考慮して、このルートで行こう」
今日、折り返し地点である島に到着する予定なので、あまり流されないように注意しなければならない。
空巡艇が飛び立つと風雨の影響が操縦桿の手応えで判るようで、操縦している兵士の顔が強張った。
「殿下、出力を上げても構いませんか?」
許可を求める操縦者に、モルガート王子は苦い顔で許可を与える。
「視界が悪くなっている。目印の島を見落とすな」
今日は困難な飛行になるようだ。
昼過ぎに漸く折り返し地点の島に到着した。空巡艇を降りたモルガート王子は、雨の中を小さな小屋に向かって歩く。
小屋に入った王子を、カザイル王国の役人が出迎えた。
「おや、またマウセリア王国の王子様ですか」
その言葉を聞き、モルガート王子の頬がピクリと反応する。またという事は、オラツェル王子が先に来たという事だ。
モルガート王子はチェックカードを役人に差し出す。
「急いでくれ」
役人はカードに自分の名前をサインした。このチェックカードが折り返し地点に来たと証明するものとなる。
走って空巡艇に戻ったモルガート王子は、すぐさま出発するように命じる。
「オラツェルの奴が先に来たようだ。急ぐぞ」
横風に抗いながら飛んだ空巡艇は、かなりの魔光石を消費していた。それでも予定消費量より少し多い程度だ。モルガート王子は魔光石消費量をチェックし安堵する。
モルガート王子は何度も速度を上げろと命じたくなるのを堪えた。早くオラツェル王子に追い付きたいのだが、それをすると魔光石消費量が跳ね上がるのは確実だ。
折り返し地点へ向かう帆船型飛行船と擦れ違う。レースは空巡艇同士の一騎打ちとなりそうだ。
モルガート王子が気にしているオラツェル王子の空巡艇一号は、かなり無理をしていた。御陰で魔光石の消耗が激しく、残りが半分以下となっている。
「このままだとゴールに辿り着く前に魔光石が尽きます」
部下の報告に唸り声で返事をした。オラツェル王子にも無理をしすぎたという自覚はある。だが、自分の責任だと認める王子ではなかった。
「何とかしろ!」
「では、コースを変更してもよろしいですか?」
苦り切った顔のオラツェル王子が許可を出す。
空巡艇一号は三日目に停泊する予定だった島から、かなり南側に位置する島に着陸。その夜の間、オラツェル王子は始終不機嫌で、部下たちは居心地の悪い夜を過ごした。
翌日、オラツェル王子たちは何度も魔光石の残量を確認しながら飛んだ。向かい風だが、微風なので空巡艇にとって有利な状況である。
とは言え、魔光石の量は刻々と減り続け、最後の宿泊地となる島に到着した時、後半日持つかどうかという残量になった。
最終日、先頭にいると確信のあるオラツェル王子は賭けに出た。ゴール目掛けて一直線に飛ぼうと決めたのだ。横風に逆らい一直線に飛ぶ空巡艇一号の魔光石残量は目に見えて減り始める。
無情にもゴール地点から島二つを残す地点で、魔光石が尽きた。
空巡艇一号が海に不時着する。
「最後の手段だ。お前たちの魔力を使え」
オラツェル王子は、もしもの時に備え、魔力量の多い者を乗組員として選んでいた。
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