第339話 ヒュドラモドキ2

「いや、頭の数は四つだった。実際に戦ったんだから間違いない」

 サーディンと虎人族の戦士は、その魔物と戦ったらしい。その結果、二〇人ほどの戦士が奴に殺された。


 その魔物は口から毒ガスを吐き、その毒で多くの戦士が命を落としたらしい。

「毒か、それもヒュドラと同じなんだな」

 ヒュドラも毒を吐く魔物なのだ。ヒュドラが巣食った土地は、毒の所為で草木が枯れ果て普通の動物が住めなくなると言われている。もしかすると虎人族の村は、人の住めない場所となっているかもしれない。


 薫が何か考えている顔をする。

「そのヒュドラモドキの魔物を狩りに行こう」

 薫が言い出さなければ、俺が提案しようと思っていたので、すぐに賛成した。


「しかし、あれに近付くのは危険だぞ」

 近付いた虎人族の戦士が毒ガスで殺られたのを見たサーディンは、警告するように言う。

「心配ない。薫は優秀な魔導師なんだ」

 ヴァーリアが羨ましそうな顔をする。


「人族は神紋を授かる事で魔法を使える。羨ましい事です」

 虎人族は人族との関わりを絶って暮らして来たので、神紋を授かっている者が極端に少ないらしい。


 先代族長の子供であったサーディンは、子供の頃に迷宮都市へ行き『魔力袋の神紋』を授かったらしいが、他の虎人族は戦士でさえ所有していないと言う。


 俺たちは夜遅くまで話し合い。その日はエヴァソン遺跡に泊まった。翌朝、俺だけ迷宮都市に戻り、改造型飛行バギーに乗ってエヴァソン遺跡へ引き返した。


 飛んで来た改造型飛行バギーを見て、虎人族は驚いていた。

「これで村まで行くのか」

 サーディンが目を丸くして改造型飛行バギーを見る。


「さあ、乗ってくれ」

 俺はサーディンを真ん中の席に座らせた。操縦席は俺で、最後尾には薫が座る。

 改造型飛行バギーが空中に浮かぶ。

 ウヒャッとサーディンが悲鳴のような声を上げた。


「もしかして、高い所が怖いの?」

 薫の質問に、青い顔をしたサーディンが、

「ば、馬鹿な。そんなはずがないだろ」


 声が震えている。嘘だというのがバレバレだった。俺は北へ向かって全速で飛ばした。ロロスタル山脈の麓に到着すると旋回しながら村を探す。

 その間に、二度ワイバーンに襲われたが、薫が<崩岩弾>で仕留めた。


「あの巨木に見覚えがある。あそこから北へ行くんだ」

 サーディンが青い顔をしながら村へ案内する。数分後、村だったらしい場所に到着した。柱や屋根の残骸が散らばる廃墟と化した姿が目に入る。


 村とその周囲から緑が消えていた。ヒュドラモドキの毒で草木がすべて枯れ果てている。

「酷い。近くに着陸しない方が良さそう」

 薫が引き攣った顔をしている。毒に触れる危険は、冒さない方がいいと言いたいのだろう。


 上空からヒュドラモドキを探す。所々に草が枯れているポイントが有り、それを辿って飛ぶ。

「あれだ」

 サーディンが赤黒い色をした化物を指差した。

 全体的に赤黒い鱗で覆われた巨体から、四つの首が伸びている。その一つ一つは蛇というより、伸び縮みするスッポンの首のようだった。


 少し離れた草地に改造型飛行バギーを着地させた。

「族長は、ここで待っていてくれ」

「いや、儂も行く」


 サーディンにもプライドがある。その決意が顔に出ていた。

「……いいだろう。だが、前に出るなよ」

 俺は腰の魔導ポーチからマナ杖を抜き出した。サーディンは、それを俺の魔法だと思ったようだ。


 初手は薫の攻撃だった。最大級の<崩岩弾>がヒュドラモドキに向かって放たれた。高熱の塊がヒュドラモドキの左端の頭に命中し木っ端微塵にする。残った三つの頭が盛大な悲鳴を上げた。


 俺は畳み掛けるように<魔粒子凝集砲>を放つ。魔粒子凝集弾は右端の頭に命中しズタズタに引き裂いた。


 怒り狂ったヒュドラモドキは、残った頭の口から毒ガスが吐き出す。灰色の煙がこちらに向かって来た。

「私に任せて」


 薫が<三連風刃>を毒ガスに向って撃ち出した。高速で飛んで行く風の刃は空気の流れを作り出し、毒ガスを切り裂きながら押し返す。毒ガスが魔物の姿を隠した。


 毒ガスの勢いが弱まった間に、俺たちは距離を取った。視界を遮っていた毒ガスが薄れ、ヒュドラモドキが姿を現す。


「チッ、木っ端微塵にした頭が、また生えてきてる」

 俺たちが見ている間に、頭が再生していく。

「再生力もヒュドラ並みなの……もしかして、こいつの魔晶管で上級再生薬が作れるんじゃない」


 それを聞いた俺は、まじまじとヒュドラモドキを見た。それが本当なら、オリガの眼を治せるかもしれない。


 心臓の鼓動が早くなっている。俺はマナ杖を仕舞い、絶烈鉈を取り出した。魔力を流し込み、絶烈鉈から一メートル半ほどの絶烈刃を伸ばす。赤紫の光を帯びた絶烈刃は美術品のような美しさと凶悪な威力を秘めている。


 俺はヒュドラモドキの間近に飛び込み、再生したばかりの首を切り落とした。その瞬間、残りの三つが同時に襲って来る。一つ目を縦に切り裂き、二つ目の噛み付き攻撃を絶烈鉈で防いだ時、三つ目の首が俺の身体を薙ぎ払った。

 七、八メートルほど飛ばされ、ゴロゴロと地面を転がる。


「何をやってるの。冷静になりなさい」

 薫が<崩岩弾>で俺を薙ぎ払った首を吹き飛ばす。

「イテテッ」


 車に撥ね飛ばされたかのような衝撃だった。普通の人間なら死んでいただろう。上級再生薬が手に入るかもしれないと思い、冷静さと集中力を欠いていたようだ。起き上がると一旦距離を取って離れた。


 薫が実験するかのように、ヒュドラモドキの尻や胴、肩に<崩岩弾>を命中させ様子を見る。

 胴体を覆っている鱗は、首から上の部分より硬いようだ。<崩岩弾>が命中してもダメージが少ない。そして、魔法攻撃によって付けられた傷は瞬く間に再生してしまう。


「仕留めるだけなら、<光翼衛星>を使えば何とかなると思うんだけど、それだと魔晶管も焼けそうだものね」

「それは駄目だ。何としても魔晶管は手に入れる」

 俺が宣言するように告げた。


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