第336話 虎人族の族長サーディン
犬人族から知らせを受けた俺は、すぐにエヴァソン遺跡へ向かう事にした。薫も気になったようで一緒に付いて行くと言い、支度を始める。
「真希姉さんとオリガちゃんが、塩田を見たいと言っていたから、一緒に行こうか」
「わーい。ありがとう、薫お姉ちゃん」
オリガは喜んだ。それを見たルキも、
「オリガちゃんが行くにゃら、ルキも行く」
「いいけど、ルキは何度も塩田を見てるじゃない」
「オリガちゃんと一緒がいい」
ルキはオリガと一緒に居られるのが、ほんの短い間だと分かっているので、ちょっとでも長く一緒に過ごしたいようだ。それに遊び友達だったサラティア王女が、王都に帰ってしまったので寂しかったのだろう。
俺は幼い二人を連れて行くのは危険じゃないかと心配になる。
「虎人族と揉め事が起きているんだから、危険かもしれないんだぞ」
「私とミコトが一緒に行くのよ。犬人族に叩きのめされるような相手の何を恐れるの?」
そうかもしれないと思い直し、真希さん、オリガ、ルキを連れてエヴァソン遺跡へ向った。
途中、常世の森で赤目熊と遭遇した。
「この森で赤目熊とは珍しいな」
俺が独り言を言っている間に、オリガが雷鳩のキングを召喚する。何故かオリガとルキが張り切っている。
「キング、雷撃でやっつけて」
普通のハトより二回りほど大きなキングは、力強く羽ばたくと赤目熊の頭上を飛び越え、背中に爪を食い込ませてから雷撃を放った。
高威力の雷撃が赤目熊を襲い、その巨体にダメージを与えると同時に、神経を麻痺させ動けなくする。
「ルキ、行きましゅ」
槍を構えたルキは、子供とは思えない素早さで突撃し槍の穂先を熊の胸に突き刺す。
この時、ルキは躯豪術を使っていた。躯豪術で得た魔力を剛爪槍に流し込み、増大させた貫通力で熊の胸を抉ったのだ。
ルキは仕留めたと思ったが、魔物である赤目熊の生命力は凄まじく、ぶるんと体を揺さぶりキングの爪と槍を外す。
キングは上空に飛び上がり、ルキは槍を握ったまま飛び退き、油断なく赤目熊を睨む。
「キング、烈風撃」
オリガの指示で、赤目熊の頭上を旋回していたキングが急降下し、圧縮された空気の球を熊の頭に命中させる。その衝撃で赤目熊の体がぐらりと揺れる。チャンスだと思ったルキの槍が、もう一度突き出された。
俺は慣れた様子で戦っているルキとオリガに驚いていた。
「後は俺が」
俺は危険だと判断し、赤目熊を仕留めようと前に出ようとした。
「大丈夫、ルキたちに任しぇて」
ルキが最後まで戦うと言い張った。
俺が迷っていると、薫がルキとオリガに任せようと言う。薫が小声で、
「危ない時は、私の魔法で仕留めるから」
ルキとオリガは交互に赤目熊を攻撃し、最後にはルキの槍が仕留めた。赤目熊が地面に倒れると、ルキとオリガが歓声を上げる。
「やったー」「おー」
二人は倒れた赤目熊に近寄る。
「真希お姉ちゃんも来て」
赤目熊の死骸から魔粒子が放出され始めたので、オリガが真希を呼ぶ。放出される魔粒子を吸収する為である。
「二人とも、凄いぞ」
俺が褒めるとルキとオリガが嬉しそうに笑った。
「こんな戦い方を誰に教わったの?」
薫が尋ねると、ルキが、
「お姉ちゃんたちだよ」
ルキの姉であるミリアたちが教えたようだが、教えた時は跳兎を相手に戦う方法として教えたらしい。俺は溜息を吐き、魔物の危険性をもう一度教えないと駄目だと思った。
昼少し前にエヴァソン遺跡に到着。俺たちの姿を見付けた犬人族の長であるムジェックが走って来る。
「ミコト様、お待ちしておりました」
「虎人族が来たらしいな」
「ええ、追い返しはしたのですが、このまま諦める奴らとは思えないのです」
「虎人族の様子を探らせよう」
俺は犬人族の戦士を数人ずつのチームに分け、探索に出した。
犬人族と一緒に昼食を食べ、樹海で取れた香草を使ったハーブティを飲む。
「いい香りでしゅ」
ルキはハーブティが気に入ったようだ。
一休みすると、薫は修復したい神紋が有ると言って、神紋付与陣のある部屋に行ってしまった。残った俺は、真希さんとオリガ、ルキを連れて遺跡を案内する。
犬人族の居住区となっている四階テラス区と五階テラス区を見て回る。五階テラス区の地下空間は、小さく区切られた小空間がたくさん有り、そこに犬人族の家族が住んでいた。
「ルキちゃんだ」
ルキを見付けた犬人族の子供たちが集まって来た。
「可愛い、可愛過ぎる」
犬好きらしい真希さんが、思わず声を上げるのが聞える。真希さんが薫の従姉妹だと知ると、犬人族の子供たちも真希さんに話し掛けるようになった。
その後、塩田を見学し遺跡に戻ろうとした時、犬人族の一人が走り込んで来た。
「大変です。虎人族が来ました」
「よし、戻るぞ」
俺はオリガたちと一緒に遺跡に戻り、虎人族と交渉しているムジェックの所へ行った。虎人族を初めて見た感想は、虎のきぐるみを着たプロレスラーじゃないのかというものだ。
「このままリングに上がって、一流レスラーと戦えそうだな」
虎人族と犬人族が並んでいる姿を見ると、これでよく虎人族を追い返せたなと感心する。
エヴァソン遺跡の門から五〇メートルほど離れた場所に、五〇人ほどの虎人族が戦う準備をして待機していた。魔物の皮を鞣した革鎧と槍を持っている者が多い。
門の前にはムジェックと三人の犬人族。そして、虎人族四人が立っていた。ムジェックと交渉しているのが、虎人族の族長なのだろう。
族長は二メートルを超える大男で、背中に巨大な剣を背負っていた。その族長サーディンは、鋭い牙を剥き出しにして、ムジェックに大声を上げる。
「いつまで待たせる気だ!」
ムジェックが近付く俺の姿を見て。
「お待たせしました。ミコト様が来られたようです」
サーディンがジロリと俺を睨み。
「ふん、ここの主は人族だというのは本当らしいな」
俺は虎人族の実力を値踏みするように見てから、
「どういう用件で、このエヴァソンに来たんだ?」
虎人族の戦士が、ムッとした顔をする。
「年長者に対して、礼儀も知らんのか」
そう言った虎人族の戦士に鋭い視線を向ける。
「ここで一番の年長者は、犬人族の長だ。お前たちは礼儀正しくしていたのか」
「犬人族に礼儀など必要ない」
その態度に、ムッとする。
「だったら、虎人族にも礼儀など必要ないな」
「何だと!」
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