第331話 ガルボ山賊団2
「敵は何者です?」
「判らん」
四宮二等陸尉は瓦礫の陰から頭だけ出し、矢が放たれた方向を確かめる。また、矢が飛んで来た。
「二時の方向に敵がいる」
「反撃の許可を」
川越一等陸曹が弓を射ている敵を睨みながら、反撃の許可を求めた。
「よし、反撃だ」
四宮二等陸尉が『魔力発移の神紋』の応用魔法である<魔力弾>を放つ。<魔力弾>はミコトたちが自衛隊に教えた攻撃魔法だった。
伸ばした人差し指から魔力の弾丸が放たれ、弓を射ている敵の肩に命中して爆ぜた。敵が慌てて木の陰に隠れるのが見える。
川越一等陸曹が敵に向って<暴風氷>を放った。極寒の風に混じる鋭い刃を持つ氷の粒が山賊たちに襲い掛かる。山賊たちは木の陰で縮こまって何とか凌ぐが、身体のあちこちに切り傷が刻まれた。
「クソッ、こっちも魔法で攻撃しろ」
片眉男が喚いた。山賊団の一人が『灯火術の神紋』の応用魔法である<火矢>を放った。
「しょぼい魔法だ」
村木一等陸曹が『流体統御の神紋』の<風の盾>を発動させ、火矢を弾く。しばらくの間、戦いが続いた。時間が経つにつれ、攻撃魔法の技量は自衛官たちの方が上なのがはっきりする。
劣勢となった山賊たちは、一人の山賊が逃げ出すと全員が逃走した。最後まで残った片眉男が、自衛官たちを憎々しげに睨みながら何か叫んだ。
あっさりと逃げ出した山賊たちに自衛官たちは拍子抜けした。
「あいつら何者だ?」
村木一等陸曹が誰も居なくなった樹海を見ながら声を上げた。四宮二等陸尉が難しい顔をしながら答える。
「山賊か追い剥ぎの類か、まずいな。あの様子だと、また襲って来る可能性がある」
「どうします?」
「まずは、転移門への入り口を瓦礫で隠す」
三人は協力して地下に通じる入り口を瓦礫で塞いだ。
その後の三日間は何事もなく過ぎた。そして、四日目。山賊団が総勢三〇人ほどを引き連れ遺跡に現れた。
気配を隠し気付かれないように現れた山賊たちは、自衛官たちが気付かぬ間に遺跡を取り囲んだ。囲まれた頃になって、やっと四宮二等陸尉たちは山賊の姿に気付いた。
「もう一日待ってくれれば、武器が手に入ったのに」
川越一等陸曹が愚痴を零した。
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
山賊団が自衛官たちを取り囲んでいる頃、伊丹が日本から戻って来た。趙悠館の風呂でさっぱりした伊丹から、自衛隊から受けた依頼の内容を聞く。
「新しく使用可能になった転移門に、物資を届ければいいんですね」
俺が確認すると、伊丹が頷いた。
「一〇人分の物資を届けよとの依頼でござる」
アカネは首を傾げた。
「そこに居るのは、三人じゃないの?」
「次のミッシングタイムで、五人が転移して来る予定だそうでござる」
「それで合計八人。二人分は予備なのかな」
俺は物資の内訳を聞いて、趙悠館の倉庫に備蓄されているものだけで事足りると判った。
「自衛隊から一刻も早く届けて欲しいとの伝言でござる」
「そうだろうな。この時期に下着姿で生活するのは辛いからな」
マウセリア王国では夏が過ぎ涼しくなっていた。
「昼を食べた後に出発したいのでござるが」
伊丹が予定より一日早く届けようと言い出した。
「いいけど、疲れていないんですか?」
「これくらいは何ともござらん」
俺と伊丹は必要な物資を急いで掻き集めると、改造型飛行バギーの荷台に乗せ迷宮都市を出発した。
オリガはルキたちと一緒に南の雑木林で跳兎を狩る予定らしい。アカネと弟子のアマンダも一緒に行くと聞いているので、問題はないだろう。
迷宮都市を出た俺と伊丹は、時速一五〇キロほどで港湾都市近くまで飛び、そこから西へと向った。
左手の方角にボルオル街道が見え、それに並行するように飛ぶ。一時間ほど進んだ地点で空き地が見えたので、そこに着陸する。
「火山が二時の方角に見える場所でござると、自衛官殿の報告に。なので、この辺から北へ向かうべきだと推測するのでござるが」
俺は迷宮都市で買った地図をチラリと見てから、遠くに見える火山へと視線を向けた。
「そうですね。樹海の上を飛んで探しましょうか」
樹海の探索を始めて一時間後、右手の方角に爆発音がして火の手が上がった。
「伊丹さん、何だと思います?」
「自衛官が魔物と戦っているのでござろうか」
「兎に角、行きます」
改造型飛行バギーのハンドルを右に切ると、速度を落として進み始めた。
「人間同士が戦っているようでござる」
「だったら、近くに着陸して様子を確かめましょう」
俺は樹海の隙間に改造型飛行バギーを着陸させ、伊丹と一緒に戦っている音のする方へ向った。木の陰に隠れ、俺と伊丹は様子を探る。
「ふむ、大勢で遺跡を取り囲んでいる方が劣勢のようでござる」
「遺跡に居るのは自衛官か」
戦いの決着はほとんど着いていた。
自衛官たちの周囲に二〇人以上の死体が有った。人相の悪い男たちは七人しか残っていない。だが、自衛官たちの容赦のない攻撃魔法もここまでのようで、魔法による攻撃が止まる。
「どうやら、魔力が尽きたようだな」
襲撃した側のボスらしい奴が、攻撃魔法が止んだのに気付き姿を現した。
「お前が山賊の頭か」
自衛官の一人が、その男に呼び掛けた。
「殺してやる。よくも手下を殺してくれたな」
山賊の頭は戦斧を握り締め走り出した。それにつられるように手下たちも喚きながら突貫する。自衛官たちは瓦礫を利用して作った防壁を乗り越え、手製の槍で戦う事にしたようだ。
山賊の頭は戦斧を振り回し、自衛官のリーダーらしい男を攻撃した。奴は山賊団の頭を張るだけの力量が有るようだ。戦斧の攻撃は鋭く自衛官が必死で躱している。
戦斧が自衛官の持つ槍を真っ二つにした。俺は自衛官に日本語で叫んだ。
「こいつを使え」
邪爪鉈を自衛官に向って投げた。山賊の頭が俺の方を見る。その間に、自衛官が邪爪鉈をキャッチした。
伊丹が走り出し、山賊たちに襲い掛かった。伊丹は次々に山賊を斬り倒し、戦いを終わらせた。邪爪鉈を持った自衛官も、山賊の頭を邪爪鉈で切り裂き仕留める。
「ありがとう。案内人だな」
「ええ、案内人のミコトと言います。物資を届けに来ました」
自己紹介をした俺たちは、自衛官たちが山賊の死体を片付けている間に改造型飛行バギーへ戻り、飛んで戻って来た。
四宮二等陸尉たちは、改造型飛行バギーを目にして驚いているようだ。
「案内人が開発した空飛ぶ乗り物が有るとは聞いていたが、こいつか」
俺と伊丹は改造型飛行バギーから荷物を下ろした。
自衛隊は新しい転移門を手に入れ、オーク対策の為の拠点を増やした。だが、この時、オークの部隊がリアルワールドへの軍事作戦を開始しようとしていた。
自衛隊の対応は遅かったのだ。オークたちは樹海で捕らえた魔物の群れを転移門に送り、リアルワールドへ転移させる準備を開始していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます