第329話 転移門初期化装置2

 三人は転移室に置いてあるクローゼットの中からサイズに合う服を選ぶと身に着けた。薫とオリガの防具も有ったので装備した。ただ以前と比べ成長したようで、鎧などはサイズが合わなくなっている。


 それでも何とか身に着けると、武器を手に取る。薫は竜爪グレイブ、オリガは短槍、真希は竜爪鉈を選んだ。


 この転移室に置いてある武器は、ワイバーンの爪を使った武器が最高ランクで、薫本来の武器である神紋杖と絶牙グレイブは、趙悠館に保管してある。


 オリガは自分用のヘアバンドを身に着けると、<蜂鳥召喚サイトバード>で眼の代わりとなるサイトバードを召喚し、ヘアバンドに留まらせた。


「カオルお姉ちゃん、ミコトお兄ちゃんは?」

「ミコトは趙悠館よ。迎えに来ると言っていたけど断ったの」

 それを聞いた真希が不安な表情を見せる。


「私たちだけで大丈夫なの?」

「大丈夫よ」

 薫は力強く返事をする。その顔には崩風竜を倒した者の自信が有った。


 薫たちは夜が明けるのを待って、犬人族の居住区である四階テラス区に移動した。

「これは、カオル様。お久しぶりでございます」

 犬人族の長であるムジェックが薫を見付け近寄って来た。


「ムジェック、朝食をお願い出来る?」

「はい、すぐに用意させます」

 ムジェックは薫たちを自分の住居に案内した。


 四階テラス区の耕作地で収穫された穀物の粉を使ってナンのようなものを焼き上げたものが、犬人族の主食のようだ。鎧豚のハムとナンモドキの組み合わせは美味しかった。


 食後にオリガと真希を連れて、エヴァソン遺跡を見物した。

「変な豚さんの牧場だー」

 元々存在した高さ八メートルほどの防壁の外側に、犬人族は高さ四メートルほどの第二防壁を築き上げていた。


 その第二防壁の内側には鎧豚が放し飼いにされているエリアがあり、それを見たオリガが声を上げたのだ。

「へえ、鎧豚の飼育を始めたのね」


 ムジェックは頷く。

「はい、狩りに出ても獲物がない時も有りますので、鎧豚を飼う事にしたのです」

「鎧豚を狙って、魔物が入り込まないの?」


「初めは大鬼蜘蛛が侵入して来たのですが、見張りが仕留めますので、最近は来なくなりました」

 犬人族は大鬼蜘蛛を確実に仕留められるほど強くなっているようだ。


 遺跡を一周りしてから、薫たちは迷宮都市に向った。途中、陰狼に遭遇するも、薫が瞬殺した。無詠唱で放たれた崩岩弾が陰狼の胴体に穴を開けたのだ。


「カオルお姉ちゃん」

 オリガが薫にしがみついた。少し怖かったようである。薫たちはゆっくりとした歩調で迷宮都市に向かい、昼頃に到着した。


「オリガちゃん」「ルキちゃん」

 趙悠館に到着すると、オリガとルキが再会を喜んで手を繋いだままぴょんぴょんと跳ね回る。


 薫は食堂でアカネを見付け、ミコトと伊丹の居場所を尋ねた。

「伊丹さんは日本。ミコトさんは、ダルバル様に会いに太守館に行っている。人工池にある魔導飛行船の件で相談があるそうなの」


「あの魔導飛行船は、研究材料として調べた後、修理して利用するつもりだと聞いていたけど」

「修理しても、思ったほど速度が出ないようなので、我々としては処分する気になっていたの」

 魔導飛行船を修理するより、高速空巡艇を開発して利用した方がいいと方針を変更していた。


 アカネと薫が話していると、ルキとオリガが手を繋いで食堂に入って来た。

「アカネお姉ちゃん、ルキが狩った双剣鹿の肉で作っちゃサンドイッチは残ってにゃい?」


 鹿肉のローストを薄切りにしたものと野菜を挟んだサンドイッチが、ルキのお気に入りメニューとなっており、オリガに食べさせたかったようだ。

「鹿肉のローストは残っているから、作ってあげようか?」


「お願いでしゅ。オリガちゃんにも食べて欲しいにょ」

「ありがとう」

 オリガはルキとアカネに礼を言った。


 アカネが二人に声を掛ける。

「カオルと真希も食べるでしょ」

 昼飯を食べていなかった二人は頷いた。薫たちは、アカネが作ったサンドイッチを食べ満足した。


 お腹が一杯になったオリガは、朝早くから活動していたので、疲れていたらしくゆらゆらと船を漕ぎ始めた。それにつられたのか、ルキも眠そうにしている。


 薫は二人を部屋に連れて行き、寝台の上に寝かせた。この部屋は薫の部屋として用意されたもので、新しいシーツや布団が用意されていた。


 真希も疲れたようで、ソファーに座ってぐったりしている。

「真希姉さんは、ここでゆっくりしていて」


 薫が出掛けようとしているのを見て、真希が、

「何処かに行くの?」

「防具の手直しをして貰って来る」


 薫は灼炎竜革鎧を背負い袋に入れ、趙悠館を出た。カリス工房へ行くと、革細工職人のメルスにサイズが合わなくなっている灼炎竜革鎧の直しを頼んだ。


「おやっ、珍しいな」

 工房の奥から出て来たカリス親方が、薫の顔を見て驚いた。

「親方、お久しぶりです」

「ああ、久しぶり。今回はどんな大物を狩りに来たんだ?」


 カリス親方は、来る度にワイバーンや崩風竜などの大物の素材を持って来る薫を、大物狩り専門のハンターだと思っているようだ。


「今回は従姉妹の修行に付き合って来ただけです」

「修行だって……何をするんだ?」


「少し狩りの仕方を教えてから、魔導寺院で神紋を授かって貰うつもりなの」

 薫は親方と話をしていて、王子たちが参加するというレースの事が気になって尋ねた。


「あのレースは一ヶ月ほど延期になったようだ。レースを行う海域の天候が、穏やかになる時期に行われるんだが、今年は嵐が二度も立て続けに来て、海の荒れる日が続いているらしい」


「王国としては良かったんじゃないの。その分、時間を掛けて練習を出来るんだから」

「そうかもしれん。ところで、ミコトから空巡艇の注文が有ったんだが、完成する頃にはレースは終わっているはずだ。何に使うつもりか聞いていないか?」


 薫の脳裏に高速空巡艇の開発プロジェクトが浮かんだ。

「ミコトは大勢を乗せて他国へ一日で行けるような高速空巡艇を、作りたいと言っていたから、その実験機として必要なんじゃないかな」


「ほう、他国へ一日で行くだと。改造型飛行バギーなら……いや、あれは三人しか乗れんか」

 少しの間、薫とカリス親方は雑談して別れた。


 その頃、転移門初期化装置を使用した転移門の近くに二人の男が現れた。二人共、薄汚れた服を着てすさんだ顔付きをしていた。武器は腰に山刀を差し、手に短槍を持っている。


「ここか。最近人が住み着いたと言っていた遺跡は?」

 片方の眉毛がない男が、潰れた鼻を持つ男に確認した。

「ああ、変な格好をした男たちが居るのをこの目で見た」


 片眉男は自衛官三人が、手製の槍のようなものを手に持ち、下着姿で歩き回っているのを確認した。

「何だ。あれは?」


 潰れ鼻男は、自分が言った事を確かめられたので、ドヤ顔となる。

「な、本当に居ただろ」


「チッ、奴らが何者かは知らんが、俺たちのアジト近くでうろうろされるのは目障りだ。頭に報告して始末するしかないな」

 二人の男は、自衛官たちに見付からないように静かに消えた。


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